第12話 グミダンジョン1
熊を仲間に加えた俺は、村の裏手までやって来た。
森の中に土が大きく盛り上がった部分が見える。あれがグミの巣の入り口だろう。
「熊、これからあのダンジョンの入る。でも俺は弱いから、無理はできないんだ。お前は俺より強そうだが、それでも深入りはしたくない」
「ガウ」
熊がいいタイミングで鳴く。まるで言葉の意味を理解しているようだ。
この世界の熊は、日本の熊より頭がいいのかもな。
とはいえこいつは動物だ。どこまで意思疎通ができるか分からない。
俺は荷物袋からホイッスルを取り出した。
さっきの熊を連れていたじいさんからもらったものだ。
これを吹けば、熊は俺の所まで戻ってくるとのこと。
俺から離れて突撃してしまったときなどは、手元に呼び戻そう。
問題はこのホイッスル、じいさんが吹いてみせたところかな……。
確かに熊は笛の音に反応してそっちに行った。それはいい。
でもじいさんが吹いた笛を吹くなんて、間接キスじゃないか。
間接とはいえファーストキスがジジイなのは、どういう理不尽だよ。
まあいい。
今まで受けた命の危険に比べれば、どうってことない理不尽レベルだ。
「そういや、お前をずっと『熊』って呼ぶのもなんだな。名前をつけてやろう。うーん……『クマ吾郎』でどうだ?」
「ガウガウ!」
たぶん喜んでいるっぽいから、気に入ったんだろう。
「それじゃ、クマ吾郎。行くぞ!」
「ガウー!」
グミの巣は入り口こそ狭かったが、中は意外に広かった。
グミの数もそこまで多くない。
俺は複数に囲まれないように慎重に、地形を利用しながら進んで――
「ガルルルッ! ガオーッ!」
クマ吾郎がめちゃくちゃ強かった。
四方から囲まれてあっという間になぎ倒して殲滅していく。
ぶちゅ!
べちょ!
ぶちゅん!
グミたちはどんどん弾け飛んで、床は潰れたグミだらけになった。
「こわ……。そういや、仲間のステータスは見れんのかな」
地下一階のグミをあらかた片付けた後、俺はふと思いついた。
クマ吾郎に手をかざしてステータスオープンと言ってみる。
名前:クマ吾郎
種族:熊
性別:女性
年齢:6歳
カルマ:0
レベル:11
腕力:30
耐久力:30
敏捷:16
器用:7
知恵:3
魔力:3
魅力:3
スキル
格闘:10.2
回避:2.4
隠密:4.3
装備
武器:野生の爪
防具:野生の毛皮
「クマ吾郎、つよっ! ていうか性別女性! ごめんクマ吾郎」
ありとあらゆる面で飼い主の俺を上回っている。
知恵でさえ熊のクマ吾郎のほうが高い! どうなってんだよ!
よくこれで俺の言うこと聞いてくれるな、クマ吾郎。
こいつはとても心優しい熊なのかもしれない。
とはいえさすがのクマ吾郎も、一階分のグミと戦ったせいで体力が減っている。
体力回復の赤いポーションを飲ませて、一息ついた。
ダンジョンでは魔物は無限に湧いてくるそうだが、今のところグミはもういない。
地下二階に降りる前に、落ちているアイテムを回収しておくことにした。
落ちているアイテムはポーションや巻物が多く、たまに杖もあった。
もちろん全部が未鑑定状態で、うかつには使えない。
が、緑色のポーションを拾ったら『毒薬』の表示が出た。
一度鑑定したものと同じ種類であれば、鑑定済みになるようだ。
こうなると、なるべく早く鑑定を進めていきたい。
今後他のダンジョンに行くようになっても、拾うアイテムが未鑑定ばかりだと不便だからな。
ついでに防具も一個だけ拾った。
やけに軽い材質の靴だった。
俺のオンボロブーツよりはマシかもしれないが、すぐに履き替えるのはやめておいた。
もし呪われていたら目も当てられないからな。
寝るときに靴が脱げないとか最悪だろ。
たぶん、武器や防具の装備品も鑑定が必要なんだろう。
「クマ吾郎。これから地下二階に行くが、俺も戦って鍛えたい。後ろで見守ってくれるか?」
「ガウ」
クマ吾郎は頼れる熊だが、俺もいつまでも弱いままは嫌なんだ。
だから次の二階で戦えるだけ戦ってみよう。
そうして俺たちは地下二階へ続く階段を降りた。
地下二階も一階とそんなに変わらない。
クマ吾郎は俺の後を歩くよう指示して、俺は慎重に歩みを進めた。
細い通路があったので入ってみる。
通路の向こう側は部屋になっていて、何匹かのグミがいた。白の他に赤の姿も見える。
「よし。例の作戦をやってみよう」
クマ吾郎は通路の出口で待機してもらう。
それから先の部屋に行って、足元の小石を白グミに投げつけた。
「よう、最弱野郎ども!」
ついでに剣を振って挑発してやれば、グミたちはいっせいにこちらに転がってくる。
急いで通路に引き返した。
振り返ってみると案の定、狭い通路を一匹ずつの列になって追いかけてくる。
「ていっ」
俺は毒薬の瓶を投げつけた。
先頭の白グミを狙ったのだが、あいにく俺の投擲スキルが低いせいで手前に落ちてしまった。
パリンと音がして瓶が割れて、緑色の毒薬が地面に水たまりを作る。
勢いよく追いかけてきた白グミは、水たまりに突っ込んだ。
「プギー!」
毒薬をもろにかぶってしまって苦しんでいる。
それでも硫酸のときのようにそれだけで死んだりはせず、ヨロヨロしながら通路を進んできた。
「あらよっと」
弱りきった白グミを剣で突き刺すと、ぶちゅ! と弾け飛んで息絶えた。
「よしよし、目論見どおり」
グミどもは知能が低い。
目の前に毒の水たまりがあっても、その先に敵である俺がいれば追いかけてくる。
体力満タンの白グミを倒すには時間がかかるが、こうやって弱らせておけば問題ない。
グミたちは愚かにも次々と水たまりを踏んで体力を減らし、俺はどんどん仕留めていった。
最後に赤グミがやってきた。こいつはちょっと手強い。
弱らせているとはいえ、正面から戦えば俺もダメージを食らうだろう。
ダンジョンはまだ先がある。体力は温存しておきたい。
「食らえ!」
そこで俺は、推定麻痺のポーションを投げつけた。
赤グミはすぐそこまで来ていたので、低い投擲スキルでも当てることができた。
「ピ……?」
ピンク色の麻痺ポーションをかぶったグミは、ピクリと痙攣して動きを止めた。
よし! やっぱりこれは麻痺するやつだ。
「死ね!」
動きが止まった赤グミを剣でざくざくと斬る。こんにゃくを斬っているようなぶにぶにした手応えだ。
やがて赤グミもぶちゅっと潰れた。
これで見える範囲の敵は全部殺した。
「よしっ! 作戦成功!」
俺はガッツポーズを取る。
『ユウのレベルが4になりました』
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