第3話 恋ィィイィッ!?
「そういえば、また魔法少女が出たんだって!」
いつもの秘密の場所、いつものベンチに二人して座ると、ライラがキラキラと瞳を輝かせて話し始めた。
ライラは魔法少女のファンだ。
魔法少女の噂を聞く度に、熱心にキアラに話してくれた。
「年若い女の子なのに、王国騎士様のような大活躍ですって! 憧れちゃうわ〜! 魔法少女キララの噂で王都中は大盛り上がりよ! 私も会ってみたいなぁ〜」
ライラは夢見る少女のように、はしゃいだ声をあげた。
キアラはいつも嬉しいような恥ずかしいようなこそばゆい気持ちで、ライラの話に相槌を打っていた。
そして、ずっと「実は私が魔法少女キララなの」と告白できずにいた。
ここまで持ち上げられてしまっては、逆に言い出しづらかった。
「……そういえば、もしかしてキアラ、今日はどこか具合が悪いの?」
ライラが心配そうにキアラを覗き込んだ。
親友は、キアラのちょっとした変化も見逃さないのだ。
「う〜ん、昨日からちょっと調子が悪いのよ。なぜか、ある人の顔が頭から離れなくて……」
キアラはギュッと顔をしかめて、指先でこめかみを揉んだ。
「それって、どんな人?」
「う〜ん、若い男の人で……イケメンで、イケメンで、イケメンで……」
キアラはライラに訊かれて、昨夜出会った男性を思い返した。
少し気難しそうではあったが、整った理知的な顔立ち。
背が高く、程よく引き締まった体つきで、軍服風の真っ黒な制服がよく似合っていた。
優しげな美青年や騎士らしくマッチョで漢らしいタイプよりも、クールで知的なタイプがキアラの好みだった。
キアラの頬が、ボンッと真っ赤に熟れ上がった。
「やっぱり〜」
ライラがニヤリと笑って、キアラの様子を眺めていた。
「な、ななな、何っ!?」
キアラは何が何だか分からなかったが、とにかく恥ずかしくて慌てた。
「それは、恋よ!」
「…………恋…………恋ィィイィッ!?」
親友にズビシと指摘され、キアラは熱くなった頬を押さえて叫んだ。
——その時、キアラ達の後方で、ガサガサと雑草を踏み荒らす音が聞こえてきた。
「へへっ。見ろよ、女の子がいるぜ」
「結構可愛いじゃねぇか」
「お嬢さん達〜? 一緒に遊ばない?」
ヘラヘラとゲスい笑みを浮かべた男達が、キアラとライラを値踏みするように見つめていた。どんどん二人の元へ近づいて来ている。
「ど、どうしよう、キアラ……」
ライラが不安そうに、キアラに震える肩を寄せた。
「典型的な悪党ね……しかも、悪党その一〜その三までいるし!」
キアラは気丈にも、悪党達をキッと睨み上げた。
(どうしよう……魔法少女キララに変身すれば、こんな悪党達なんてどうってことないけど……)
キアラは、ライラに自分が魔法少女だとあまりバレたくなかった。
今まで勇気がなくて言い出せなかったのに、今さら告げると気まずいということもあるが、何よりも彼女の夢を壊したくなかったのだ。
さらには、自分なんかが魔法少女だと知ったライラが、自分のことをどう思うのかも気になって仕方がなかった。
でも、今はピンチだ。
戦える力を、親友を守れる力を持っているのに、あんな街のチンピラみたいな小悪党達に捕まって、あーんなことやこーんなことをされるのは、絶対に避けたかった。
自分のちっぽけなプライドを優先させる時では無いとは、頭では分かっていた——
「キアラ、悪党の扱いが雑すぎるにゃん……はい、これで変身するにゃん!」
「にゃんタロー!?」
不意に現れたにゃんタローが、何もない空間から魔法少女のステッキを取り出した。
キアラの方に、ポンッと投げてよこす。
「……キアラ、それはまさか……?」
ライラの瞳が、期待でキラリン⭐︎と煌めいた。
(くっ……心の準備もできてないうちに、なし崩し的にバレたっぽい……)
キアラは、後でにゃんタローをしばき倒そうと心に決めた。決して、八つ当たりではない。そう、決して!
そして、腹を括った。
キアラは魔法少女のステッキをギュッと握りしめると、変身の呪文を叫んだ。もうヤケクソだった。
「ええい、女は度胸っ!!! ルクスルクスイントラメ! イルミナーレ!」
キアラが天高く掲げた魔法少女のステッキから、キラキラと虹色に輝く光が溢れ出した。
虹色の光は繭のようにキアラを包み込み、更に眩い光を放っていった。
「わぁ……!」
ライラは感動して、ただただ親友の変身シーンに見入っていた。
「うっ……」
「ぐぐっ……」
「くそ! 動けねぇ……!」
悪党達は身動きができず、呻き声をあげていた。
「変身バンク中の魔法少女は無防備にゃん! み〜んな動けなくして、敵の攻撃を防いでるにゃん!」
にゃんタローが、自信満々に解説した。
光の繭がてっぺんから、リボンのようにシュルリシュルリと解けていくと、眩い光の中に一人の少女が立っていた。
金茶色の髪は元気そうなオレンジブラウン色に変わり、ツインテールにヘアアレンジされている。ゆっくりと見開かれた瞳は、綺麗な緑色から意志の強そうな栗色に変わっていた。
白とオレンジ色を基調としたファンシーな衣装で、丈の短いキュロットスカートからは、長く健康的な脚がのぞいている。
そしてキアラは、キュピーーーン⭐︎と決めポーズと口上をキメた。
「女の子をいじめようだなんて、とんだ悪党達ね!! 魔法少女キララが成敗してあげるわ!!!」
ライラは完全に魔法少女キララに魅入っていた。両手を祈るように胸元で組み、「尊い……」と口ずさんでいた。
「とうっ!」
「グエッ!」
キララの回し蹴りが悪党その一に決まり、悪党その一はお腹を押さえて倒れ込んだ。
「何ぃ!?」
「結構強ぇじゃねぇか!?」
悪党その二とその三が、驚いて声をあげた。
「マッスルシャイン⭐︎愛と拳のマジカルステッキ!!!」
キララはさっさと悪党達を倒すため、魔法少女のステッキを天に向けて掲げた。
ステッキのてっぺんに付いているハート型の魔石から、キラキラと眩い光が溢れ出す。
「へへっ。今度は動けるんだな。脇がガラ空きだぜ」
悪党その二が動いた。
「詠唱中に邪魔しない!!」
ゴスッ⭐︎
「ギャアッ!」
キララは、近寄って来た悪党そのニの脳天に、魔法少女のステッキを振り下ろした。
鈍い音と共に、悪党そのニがその場に
パキッと一筋のひび割れが、ステッキに付いている魔石に走った。
「に゛ゃ!?」
にゃんタローがギョッとして、魔法少女のステッキを見つめた。
「ヒェッ! 何が魔法少女だ! ただの凶暴な女じゃねぇか!!」
悪党その三は怯えた表情で叫んだ。
引けた腰で、逃げ出そうと慌てて方向転換をする。
「……悪党は、逃がさない……キララ⭐︎スマッシュ!!!」
キララは悪党その三の懐に飛び込むと、爆裂拳を放った。
キララの虹色に煌めく数多の拳が、悪党その三にヒット⭐︎ヒットし、キラキラ⭐︎バチバチと虹色の火花が散った。
「ニャッハー! 魔法少女キララのスマッシュはすごいにゃーん!!」
にゃんタローの可愛い歓声が響いた。
「
ライラは口元を両手で抑え、感動の涙を流していた。
「ウラァッ!!!」
キララのキレのいいアッパーカットで、悪党その三は綺麗な放物線を描いて宙を舞い、地面に落ちた。
ドォーン⭐︎と、虹色の光が爆発するように空へ向かって立ち上がった。
「魔法少女キララの勝利にゃあ!!」
にゃんタローが可愛い声で勝鬨をあげた。
「そこまでだ!」
「きゃあ! 助けて、魔法少女キララ!」
いつの間にか復活していた悪党その一が、ライラの首元にナイフを突きつけていた。
「人質を取るだなんて、まさに悪党にゃ! 卑怯者だにゃ!!」
にゃんタローが、可愛くも険しい声をあげた。
「へっへっへ。人質の命が惜しけりゃ……ギャッ!?」
悪党その一の声がそこで途切れた。バタンと背中から地面に倒れ込む。彼の顔には、ステッキがめり込んだと思しき跡が残っていた。
「悪党、討伐完了⭐︎」
キララは、ブーメランのようにくるくると回って戻って来た魔法少女のステッキを、パシッと片手で受け取ると、にっこりと勝利の微笑みを浮かべた。
「に゛ゃー!!? 愛と拳のマジカルステッキに、にゃんてことするにゃん!!? 投げたにゃん!? 投げたにゃんか!!?」
にゃんタローは、キララを問い詰めるように絶叫していた。
「何言ってるのよ。ライラの方が大事に決まってるでしょ」
キララはさらりと言ってのけた。
「……魔法少女キララ、素敵すぎる!」
ライラは推しを見る目で、魔法少女キララを見つめた。
——その時、ピシピシピシッと、ステッキに付いていた魔石に、大量の細かいひび割れが入った。ひびから眩い光と強烈な魔力が漏れ出した。
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