第21話 アルディ捕獲作戦3

「んくっ、んくっ……ぷはー。お仕事の後のエールは最高だね♪」


アルディは破廉恥な格好をさせた女性2名を侍らせ、特別に用意させた貴賓室でいつものように顔を赤らめ酒と料理に舌鼓を打っていた。


長身の美女がそっとアルディの口元をハンカチで拭う。

もう一人の女性もかいがいしく料理を彼の口元へと運んでいた。


「あー美味しい。やっぱりレマーノはキレイだね。みんな僕の可愛い子猫ちゃんだ♪」


そういって隣にいる女性の尻を乱暴につかむ。

その感触にアルディの顔が緩む。


「ふふん。いい弾力だ。……でもちょっと飽きてきたかな。ねえセイリナ、そろそろ君にも働いてもらおうかな」

「っ!?お、お許しを。……せ、精一杯お勤めいたします」

「うんうん。今夜いっぱい楽しんで、それから決めようかな。……セイリナのご奉仕、楽しみだなあ♪」


そして今度は胸をわしづかみ、にやりと顔を歪ませた。


「くうっ……は、はい。……仰せのままに」


見た目美少年のアルディ。

彼の底知れぬ狂気に女性たちは慄いていた。

どうして自分がこの少年の言いなりになっているのか、どうして体を弄ばれるのか。


実のところ彼女たちには理解が出来なかった。

この世界には隷属を強制する魔道具がある。

奴隷制度がまかり通るこの世界ではそれなりに認識されているものだった。


彼女たちはそういう物で強制されているわけではない。

しかし逆らえない。

そして言うとおり自らを娼館へ売ってしまう女性が後を絶たない。


彼女たち二人の前に仕えていた女性たち。


すでに娼館で働いていた。

男性経験すらない生娘なのに。

そしてそれは高値で売られていたのだ。


アルディは不能者だ。

男性器を持たない。


だから彼に穢される事はない。

女性としては。

しかし躰は、心は、精神は―――


ボロボロにされていた。


何より人間扱いをされない。

まるで道具のように扱われ気分次第で鞭で打たれる。

そして最期は皆売られていく。


まさにクズの所業だった。


その彼の行動は、報いを受けることになる。

ゲームマスター美緒によって。



※※※※※



アルディの耳に店内のざわめきが届いた。


この店はある時間になるとショーが行われる。

いつもより若干早いがアルディは気にする節もなく長身の女性レマーノを伴い個室のドアを開け、舞台に近づいた。


「へえー。珍しい音楽だね♪……んん?あれは……可愛い~♡」


舞台の上では着飾ったルルーナとミネアによる民族的なダンスが披露されていた。

舞踊り美しく躍動する肉体と光る汗。

そして女性を強調するように胸部が激しく揺れる。


その様子にアルディの顔はだらしなく緩んでいく。


「いいねえ。あの女たち……ねえレマーノ。あとで『あの二人を連れてこい』」

「っ!?はい。承知しました」

「くくく。これはいい。久しぶりにたぎる。……あのおっぱい揉みつぶしてやる」


※※※※※


「……ねえザッカート。聞こえた?……最っ低。……あいつ本当に女の敵だ」


今美緒たちは『集音のスキル』でアルディの言葉を聞いていた。

収音スキルは隠密のジョブを持つモナークのスキルの一部だ。

だから当然個室内での会話も掌握済みだった。


「まあな。……おっとカシラ。殺気が漏れてる」

「うあ、ごめんなさい」

「確かに許せねえな。見ろよあいつがはべらせてる女。……ひでえことしやがる」


長身の女性はほぼ裸だった。

僅かな布が胸部と大事なところをかろうじて隠しているだけだ。

おまけに体中に刻まれた傷。

おそらく鞭によるものだろう。


「どうしよう。あいつ殺したいかも」

「まあ待て。……情報得るんだろ?後で取り敢えず俺がぶんなぐってやる。カシラが手を汚すまでもねえ」


舞台は佳境に入りやがて音楽が止まる。

多くの歓声がルルーナとミネアに浴びせられていた。


「ひゅーひゅー。色っぽいね、ねーちゃん。この後どう?」

「おい、俺が先に目を付けたんだ。特にあの猫獣人の子、やっべー。めっちゃエロい。揉みまくりてえ……おれ、もうギンギンだぜ」

「バーカ。もう一人の方が良いに決まってるだろ?あの恥じらいの顔。はあはあ、たまんねえな。ベッドでじっくりたっぷり楽しんで、間近で見てみたいもんだぜ」

「ちげえねえ、ヒャハハ」


そんな男たちの欲にまみれた言葉に美緒は思わず身震いをする。

(リンネの言ったとおりだ。……あの人たち、日本の時に見た悪いおじさんたちと同じ目をしている。いやらしい、欲望に染まった眼……怖い)


そんな美緒の肩にエルノールは優しく手を乗せささやく。


「心配ありません。あなたは私が守ります」

「う、うん。………ありがとう」

「っ!?……はい」


不安げな美緒の表情にエルノールは思わずときめいてしまう。

しかし頭を振り意識を切り替えた。


「それでは作戦決行です。今からあの二人がアルディの部屋へと行きます。そして奴の飲み物に細工し飲ませます……頃合いを見て転移で突入しますので美緒さまは『解呪』の準備を」

「うん。分かった」


そういって頷き美緒は魔力を自身の内側で巡らせ始める。


称号は呪いではない。

より強いものだ。


通常の解呪は弾かれる。

問答無用に抑えるため美緒は全力を開放し始めた。



※※※※※


「失礼しまーす」

「しますにゃ」


長身の女性レマーノに先導されミネアとルルーナはアルディの居る特別室へと尋ねてきた。

一応付き人として変装したロッジノも入室を許され後に続く。


酒場の女将から、踊りを披露した女性は高確率で連れの女性から呼ばれると事前に情報を得ていた。

そしてよほど自信があるのだろう。

付き人までをもアルディは快く迎えるとのことだった。


「やあいらっしゃい。ふう、近くで見るとおねーさんたち、本当に可愛いね♪あっ、僕はアルディ。見ての通りエルフだよ!よろしくね♡」


「はい。呼んでくださってありがとうございます。……ほんとにこんなに大金頂いても良いんですか?」


ルルーナとミネアにはすでに大銀貨の詰まった革袋が渡されていた。


「良いの良いの。ほら、チップだよ。……重いでしょ?そこの彼に渡せば?一緒に飲もうよ♪……ああ、君も席に着くといい。ご馳走するよ」


そういいながらアルディは席を進める。

さながら紳士のような振る舞いだ。

目つきは舐めまわすように先ほどからミネアとルルーナの胸に張り付いてはいるが……


「お気遣い感謝いたしますにゃ」


ミネアは奥歯に仕込んでいた『状態異常解除薬』をかみ砕きながらにこやかに席に着いた。

ルルーナ、ロッジノもそれに倣う。


「さあさあ、飲んで♪……結構いいお酒揃えているんだよねこの店。ささっ、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。……アルディ、さま?お優しいのですね」


目を潤ませ上目遣いでルルーナはアルディを見つめる。

当然だが演技だ。


「うあ。……うん、もうルルーナちゃん。かっわいー♡……ねえ、僕と一緒に住まない?……いや『僕についてこい』」

「っ!?……は、はい……喜んで」


いきなりルルーナの表情が変わる。

焦点がぶれ、うつろな表情を浮かべた。


「っ!?ルルーナ様?……アルディさん、なにを……!?」


慌ててルルーナを支えるように席を立つロッジノ。

アルディがかぶせ気味に口を開く。


「うるさいな。ボンクラ。『出ていけ』」


「っ!?……は、い。……承知しました」


ロッジノはまるで人形のように茫然と立ち尽くし、部屋を出ようと歩き始めた。

(くあっ?!強制力がやばい……く、薬だけは…)

……アルディの目を盗みどうにか彼のグラスに薬を投入しながら。


ミネアはその異常な状況に自らを抱きしめ涙を浮かべ身を震わす。

もちろん演技だが?


アルディはその様子に偉くご満悦で、ニコニコ顔でミネアに近づいた。


「ひっ……な、なにをしたのにゃ?」

「んーなんだろうね?ははっ、いいよ。ミネアちゃんの怖がる表情♡……はあ、おっきいね……おっぱい♡」


そして手をワキワキさせる。


「い、いや……やめてください……アルディ様、あなた……子供じゃにゃいのか?」

「ふふん。僕はこれでも大人なんだよ。さあ、邪魔者は消えた。ゆっくり楽しもうか」


ひとしきり視姦し満足したのか、アルディは自分の席に着きグラスを傾ける。

そしてにやりと顔を歪めた。


「ねえセイリナ。これあげる。……『飲め』」

「っ!?……はい。……ごくっ………うあ……あ…」


グラスを傾け飲み干したセイリナがそのまま気を失った。

アルディはゆっくり立ち上がり、おもむろにミネアの胸を鷲掴む。


「あうっ、痛いにゃっ」

「ふああ、柔らかい♪最高だな♡……手癖の悪い子猫ちゃんにはお仕置きだよ?」


ミネアの胸を乱暴に揉みしだき、にやりといやらしい笑みを浮かべさらにミネアの首筋を舐めるアルディ。

刹那、激しい怒りを孕んだ激情の威圧が襲い掛かる。


突然部屋に出現する3人。

美緒から凄まじい魔力が吹き上がる。


「くうっ!?なにが?!ぐあああっ…!!!????」

「『強制解呪』っっ!!!!!よくもミネアをっ!!!この変態っっ!!『速度減少』『筋力低下』『魔力生成阻害』全力だああああ!!!!!!!」

「ひぐっ、れ、レジスト…できない?!…ぐうあ、ああ、ああああああああああああっっ」


光が美緒から噴き出し、複雑な幾何学模様を構築しながら幾重にも重なりアルディを包み込む。

そして青白い光がアルディの体を覆っていた赤黒いオーラを弾き飛ばした。

さらに効果をあげる各種のデバフ魔法。


その一瞬でザッカートとエルノールに抑えられたアルディが声を上げる。


「クソッ『放せっ』……なっ?…ぼ、僕のスキルが?!くそっ、魔力が練れない?!……う、うあああああああああああ」


「いっぺん死ねっ!!この女の敵!!!!もう一度『強制解呪』っっ!!おまけに『麻痺』はああああああああああああああっっっ!!!!」


「ひぎっ……うがあああああああ………」


※※※※※


美緒の魔力放出が終わり、完全にマヒしたアルディを束縛したエルノールが転移してギルド本部に確保。

作戦は成功した。


宣言通りアルディの顔を一発殴り飛ばしたザッカートに美緒はサムズアップ。

まさに有言実行。



※※※※※



改めて今回の作戦の概要はこうだ。

惑わせ飲ませ解呪し拘束。

至極単純。


立案したのは美緒。

しかし現実を知らない美緒の作戦はやはり『素直』すぎて、いくつもの不安要素をはらんでいた。

多くの場数を踏みいわば『捻くれている』ザッカートはその内容にいくつかの策を絡ませていた。

確実に捕らえるために。



※※※※※



作戦決行の二日前、ザッカートは最後のピースを埋めるため創造神リンネを訪れていた。


「カシラは人が良すぎる。悪辣なアルディの事だ。過去に何度も危機を乗り越えているはずだ。まあ、薬には気づく、か。抵抗薬も期待できねえかもな……リンネ様、間違いねえんですかい?」


「うん。美緒の解呪は特別だよ?魔法もね。あの子の魔力はすでに並ぶもが居ないレベルだ。レジストなんてできない。警戒され逃げられる方が厄介だ。できればアルディに『策は破った』という優越感を与えたいところだね。そして無理やり解呪する……安心した後に絶望に包まれる……驚くだろうね」


ニヤリと悪い顔でほほ笑むリンネ。

背中に冷や汗を流すザッカートは苦い顔だ。


「……おっかねえな。流石は創造神様だ」

「誉め言葉として受け取っておくわ。……絶対に美緒を守りなさい」

「ああ。魂に誓って」


跪き首を垂れる。

彼の真剣さと忠心がひしひしと伝わる。


その様子にリンネはため息をつく。


「ふう。あんたたち重すぎ。まったく。……まあ、期待しているわ」

「ははっ。結局カシラ頼みだがな。まあ、フォローはするさ」



※※※※※



そしてもたらされた結果。


ミネアが少し怪我をしたがおおむね計画通りに作戦は遂行された。

まあ乱暴に揉まれた時に爪でわずかに傷がついただけなのだが……

当然アルディが解呪されたことでルルーナもロッジノも無事だ。


そして実はザッカートの指示を受けていたミネアもルルーナも『それ以上』のことも覚悟してのことだった。

だからこれは文句なしの完全勝利といえる。


……ミネアを抱きしめ錯乱している美緒を除いて。


「ミネアっ!!触られちゃったね…あああ、舐められたところ腐ってない?……ごめんね……!?ああっ、ひどい、血が出て……ごめんね、ミネア、絶対に治すから!!『エクストラオーバーヒール』!!!」


!?エクストラオーバーヒール???!!伝説級じゃあ……


「ちょっ、美緒、大丈夫にゃ。!?ま、待つにゃ、いくら何でも……うにゃああああああ♡ん、はあん♡」


美緒の思いやる全開の魔力が弾けうねり、優しくミネアの体隅々まで、まるで撫でるように優しく緑色の魔力が彼女の全身を包み込む。


「あっ、あん♡……うにゃん♡…うあ……うにゃああああ♡……んんっっっ―――――♡」


最上級の回復魔法は細胞全てをよみがえらせる。

しかも穢されてしまったと考えている美緒は消毒したいと本気で思いを乗せていた。


そして過剰なまでにミネアの細胞から皮膚まで強化、保護する。

全神経が優しい愛撫を受ける様で……


つまりあり得ない快感に包まれる。


余りの過剰な快感に、ぐったりとミネアは気を失った。


「っ!?ミネア!?ミネアっ!!ああああっ!?」


錯乱している美緒はそのことに気づかない。

絶対に助ける!!

その一念で美緒の体から爆発的に目に見えるほどの濃密な魔力が吹き上がる。

さらなる回復魔法を紡ごうと目を閉じた。


「カシラっ!!!大丈夫だ!!それ以上はダメだ」

「美緒さまっ!!それ以上は体がもちません。ミネアを殺す気ですかっ!!!」


「っ!?……えっ?……殺す……え………」


二人の呼びかけに美緒の魔力が霧散。

表情が抜け落ち、言われた内容に途端に涙が滲んだ。


「ふう……ミネアはもう回復しています。……艶々でしょう?やや過剰ですが。……いいですか?『強すぎる回復』は逆に体の負担になります。特に美緒さまの魔力は普通ではありません」


「あ……そ、その……ごめん、なさい………わたし……ミネア大丈夫…かな」


どうにか落ち着いた美緒は気を失っているミネアを抱きしめ優しくいたわるように髪を撫でた。

可愛く美しいミネア。

大好きな友達。

その体を乱暴に穢したアルディ。


沸々と怒りが湧きおこる。


「……あの糞エルフ……ミネアを穢すなんて……ちょん切ろう」


ミネアの胸を乱暴に揉み、首筋を舐めるアルディのいやらしい顔が脳裏に焼き付いていた。


「……ザッカート」

「お、おう」


「大きな鋏、準備してくれる?」


「え……あ、うん…そ、その」

「準備してっ!!」


これはしばらくアルディには合わせられないと、ザッカートは心に誓っていた。

もちろん余りの美緒の怒りにエルノールもザッカートもある部位が『ひゅっ』としていたことはここだけの秘密だ。

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