ロイ 第7章③:二人の覚悟
月明かりに照らされた丘は、昼間の子供たちの喧騒とは打って変わって、静寂に包まれていた。
トリアは草の上に膝をつき、両手を胸の前で組み、握りしめていた。
薄く汗を浮かべた額からは、彼女の真摯な祈りが伝わってくる。
「どうか……私に力を……ロイの役に立てる力を……」
夜風に揺られる声は小さく儚げだったが、その願いには強い意志が込められていた。
少し離れた場所で、ロイは腕を組んだまま無言でトリアを見守っていた。
数日間、彼らは特訓を続けてきたが、目に見える成果は現れていなかった。
しかし今夜は違った。
月光が急に強さを増し始め、ロイは胸の奥で何かが震えるような予感を覚えた。
「何かが起きるかもしれないな……」
その呟きが消える前に、空気が震え始めた。
突然の風が巻き起こり、周囲の草木がざわめき立てる。
「これは、私の力……?」
トリアが目を上げた瞬間、大地が低い唸りを上げた。
振動は次第に強まり、足元の地面に無数の亀裂が走り始める。
亀裂の周りから、草の焦げる匂いが立ち込めた。
「トリア、ここを離れるぞ!」
ロイは叫びながら駆け寄ったが、トリアはその場に立ち尽くしたまま動けなかった。
「私のせいでこんなことに……!私が止めなきゃ!」
焦りと自責の念に満ちた声に、恐怖が滲んでいた。
振動は更に激しさを増し、不穏なエネルギーが辺り一面に広がっていく。
その時だった。
トリアの体から突然、眩い光が放たれた。
光はロイを包み込み、彼の中で眠っていた何かを強引に目覚めさせる。
「これは……なんだ……?」
その時視界に映ったのは、ロイの愛車「
青いボディが輝きを放ちながら現れ、気がつけばロイは運転席に座っていた。
「俺の力が目覚めたってことなのか……?」
迷いなくハンドルを握る。
その瞬間、エンジンが轟音を上げ、青白い光が車体を包み込んだ。
「行くぞ、STORMBRINGER!」
アクセルを踏み込むと、車は驚異的な速度で動き出した。
車輪が描く青白い光の軌跡が、トリアを中心に広がる暴走したエネルギーを包み込んでいく。
「
ロイは本能の赴くままに、超高速ドリフトを繰り返した。
その光の軌跡がバリアとなり、暴走する力を徐々に封じ込めていく。
「よし、これで終わりだ!」
最後のドリフトで完全にエネルギーを封じ込めると、振動は収まり、丘には再び静けさが戻った。
騒ぎを聞きつけて、マキシマスとキャシディが駆けつけてきた。
二人の表情には、安堵と驚きが交錯している。
「トリア! ロイ! 無事か?」
マキシマスの問いかけに、トリアは涙ぐみながら小さく頷いた。
「ごめんなさい……私のせいでこんなことに……」
キャシディは優しく彼女の肩に手を置き、母親らしく語りかけた。
「無事ならそれでいいのよ。でも、これ以上危険な特訓は続けさせられないわ」
「そう、ですか……」
トリアは肩を落とす。
仕方がない、全て自分の力不足が招いた事態なのだ。
マキシマスも深刻な面持ちで告げる。
「今回のようなことが再び起これば命に関わりかねない。ここでの訓練は中止だ」
マキシマスの言うことは完全に正しい、トリアは俯いた。
自分の力不足が不甲斐なく、涙が溢れそうだった。
だが、ロイは毅然とした表情で二人に向き直った。
「待ってくれ。この力は確かに危険だ。だが同時に、ジャンカルロと渡り合うための強力な切り札にもなる」
「ロイ……!」
トリアははっとしてロイを見つめた。
自分はもう諦めてしまうところだったのに……
彼女はあらためてロイの強さに驚き、そしてさらに強く惹かれた。
一呼吸置いて、ロイは続けた。
「トリアと俺に目覚めたこの力を完全に制御することが、奴らに対抗するためには必要だと判断した。それを諦めるわけにはいかない」
キャシディは夫を見つめ、小さく頷いた。
「……ねえ、トリアちゃんの成長を私は見守りたいわ。どうにか続けさせてあげる方法はないかしら」
マキシマスは相変わらず厳しい表情を崩さなかったが、少し考える素振りを見せた。
「確かに、ロイの言うことには一理ある」
少し考えた後、マキシマスは言った。
「ただし、これだけは約束してほしい。今夜の件はチーム全員に共有すること。そして今後の能力使用はチームの管理下にあること。それが条件だ」
ロイは力強く頷いた。
「それでいい。必ず、この力を完全に使いこなすと約束する」
トリアも決意を新たに誓った。
「もう、この力を暴走させません。ロイのため、皆を守るために、この力は使うと約束します!」
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