暴食の大罪
「私はもう呼んでるの。神の叛逆者を」
その父、
「なんと愚かな……。お前は賢い子だと思っていたのに。
わかっているのか。ロスチャイルド家、JPモルガン、ロックフェラー財団、ゴールドマンサックス、フリーメーソン、ディープステート……。世界経済を牛耳る国際金融資本のさらに裏にいるのが
それに対して、紗季は静かに答えた。
「わかってる。それらが人を救えないから、私が救うの。何かおかしい?」
それを聞いて、笹垣弘毅はわなわなと震えた。
「バカかっ! 勝てるわけがねぇっ! それに勝ったとしてどうする? 世界恐慌を生むだけじゃねぇかよ! 後始末する目途なんてたってやしねぇだろうが!」
その言葉とともに、手が出る。弘毅は腕を振り上げると、紗季の頬に向けて振り下ろした。その瞬間、紗季は恐怖に怯え、目を閉じた。暴力を振るわれるのが怖いのではない。身内が暴力を振るう、そのこと自体を恐れている。
その手を俺が捉え、腕を握る。弘毅の顔はそれにより引きつった。
「ぬぅっ!
ハハハ。この事態を俺が予見してねぇとは思ってねぇよな。こうなって欲しくはねぇとは思っていたがな」
そう言うと、胸ポケットから拳大の黄金の印鑑を取り出した。その先端は刃物のように鋭利だ。
それを自らの手のひらに押し付けた。どくどくと血が流れる。
その手には血印により魔法陣が刻まれた。その手を掲げると、悪魔の名を呼んだ。
「バエル!」
その言葉とともにその手のひらから悪魔が召喚された。
カエルのような顔をした悪魔である。
「序列第一位のゴエティアの悪魔。地獄の大公爵。東方の支配者。
ベルゼブブと同じくバアル・ゼブルを起源とする悪魔であり、カエルと猫の姿を持つ。
そう言って不敵な笑みを浮かべた。
蛙男もまた不遜な態度である。
「ふむ、ここで過去の決別した私と出会うとは。なるほど、これも一興ですな。
契約により縛られた戦いですが、これは真に未来に進んだのはどちらか雌雄を決するものといえましょう。
ただ、残念なのは我らの属性。カエルと猫に対して、蝿では……。結果は知れていますな」
そう言うと、蛙男は爪を剥き出しにした。それは猫の爪そのものである。
そして、その跳躍としなやかな動きにより、俺の視線を翻弄した。
しかし、そんなことに意味はない。
俺は群体である。今までオーラだと思っていたものは極小の群体の一つだった。
蛙男は逃げ遅れた群体の一つを舌を伸ばして、捉える。そして、飲み込んだ。その瞬間、蛙男は全身の水分を失い、バラバラに砕け散った。
「すまないんだけど、相手してる時間ないんだ」
俺はそう言うと、笹垣弘毅に向かった。
紗季は一言、「殺さないで」と呟く。
悪いが、俺は悪魔だ。
「おい、俺につかねぇか。ゴエティアの悪魔ならいくらでも操る手段がある。俺についたほうが得だろ。
それに、紗季も俺の言うことなら聞く。結局、お前さんの思い通りになるってこった。悪い話じゃねえだろうがよ」
笹垣弘毅が言う。
命乞いの言葉としか思えない。第一、神への叛逆という俺の目的はそれでは果たすことはできないだろう。
なにより、俺の食欲がこの男を喰らえと告げていた。
「これは怒りじゃない。嫉妬でもない。強欲でもない。紗季を失望させたことは許せないが、それはまた別の話。
これは暴食だ。お前を食い、俺の栄養とする。これこそが俺の大罪だ」
俺の群体が笹垣弘毅に群がった。笹垣弘毅の動きを止め、その顔を絶望で引きつらせる。
だが、喰らうことはない。群体ではない。俺そのものが喰らうからだ。
「いただきます」
俺が顎を開き、笹垣弘毅の頭をその中に捉えると、ぐちゃりと顎を閉じる。
血しぶきが俺の口腔の中で弾けた。肉の柔らかな感触、骨の硬質な感覚が、顎から感じられる。そして、血が、肉が、骨が、臓物が、俺の体内へと流れ込んでくる。それは旨味であり、身体を潤わせる塩味であり、甘美なまでの蕩ける味わいであった。
満足感がある。以前に食事をしたのはいつだっただろうか。悪魔であることを自覚して、最初の食事なのかもしれない。
俺は満足感に酔っていた。その感覚のままに、「キヒヒ」と感情のままに高笑いする。歓喜の感情が満ち溢れるようだった。
そんな俺に、見下したような視線を向けつつ、紗季が声をかけてきた。
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