第39話 【Side:ミリア】無限刀

 最後だけエモニの視点が入ります。今話は基本ミリア視点です。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 迫りくる凶刃。

 でも、私の目にはそんな余計なものは入って来なかった。


「良かった……ロティスは避けれたのね」


 心中に浮かんでくるのは、恐怖ではなく安堵。

 本当に攻撃が私の方に飛んできてくれてよかったと思う。


 形ばかりの抵抗にと、瞬間的に発揮できる最大の身体強化魔法で体を守った。

 しかし、本当に形ばかりの物となった。


 凶刃を受け止めた両手に纏わせている魔法が無効化されていく。

 魔法を無効化なんて……聞いたことがない。

 この魔族、少なくともクラス6以上……クラス7でもおかしくないかも。


 受け止めた腕から鮮血が迸る。

 とっさに腕を払って、切断は避けたけれどこれは流石に……。


 私の身体にあの魔族の放った斬撃が刻まれていく。


 ザシュっという耳障りの悪い音と共に、私の意識は遠退いていった。


 閉じていく目に最後に映ったのは、ひどい顔をしてこっちへ来ようとしているロティスと力なく、なされるがままになっていた左手の薬指だった。


 ◇◇◇


 温かく、とても力強い魔力の奔流で目が覚めた。


「死んで……なかったの?」


 どうやら死んではいなかったようだけど、体に受けた傷は夢ではなく、声が音を伴うことはなかった。


 這いつくばったまま感じたことのないほどの魔力の方に目を向けると、そこに立っていたのは最愛にして、私のすべてであるロティスの姿。

 庇うように、私を背にしてあの強大な魔族と正面から向き合っていた。


 できれば逃げてほしかったけど……なんて考えられたのは本当に一瞬だった。

 私の感じたありえないほどの魔力を放っているのはロティスだった。


 少しくすんだ彼の銀髪によく似合うような銀色の魔力。

 それが周囲全てを包み込むかのように全身から溢れだしている。


「『救世主ヘラクレス』」


 ロティスが何かを口にして、刀を振るった。

 何の変哲もない、簡単で基礎的な上段斬り。

 だが、その上段斬りは魔族の放ったおぞましい魔法をいともたやすく切り裂いた。


「第二ラウンドだっ!魔将ヒルウァぁぁ!」


「良いだろう!来いっ!世界の希望、救世主よっ!!!」


 そう叫んで、互いにぶつかるように距離を詰めるロティスと魔族。

 魔族の右手の爪はロティスに切り裂かれているようで、その分ロティスが優勢だ。


 そして、こんな命を懸けた戦いだというのにロティスの顔からは苦しさや痛みなどの負の感情が見えない。

 刀を握った彼はいつも無我夢中でのめり込んでいく。

 楽しそうに、嬉しそうに時間が過ぎるのも忘れて……。


「本当に……昔から、変わらないんだから……」


 思い出すのは、が私を握ったあの日。


 ◇◇


「誠よ。今日で13歳になったそうだな?」


「そうだよ爺ちゃん!俺ももう大人だぜ!」


「ハハハッ!そりゃまだ早いわ!だが、お前はもう男だな」


「何言ってんだよ爺ちゃん!俺は生まれたときから男だぜ?」


「そう言うことではない。中学生になったらなぁもう爺ちゃんの頃は一人前の男だったんだ。これがどういうことか分かるか?」


「……?お金を自分で稼いでたとか?」


「ハハハッ!そうだな、そう言う奴らも居たし、あいつらも間違いなく一人前の男だった。だが、爺ちゃんが言いたいのはそう言うことじゃないんだ」


「じゃあ、どういうこと?」


「何かを守れる男になったという意味だ」


「守るって?なにから?」


「それは……言葉で表し切れるものではないな。だが、お前にもきっと分かるようになる日が来る」


「……?うん」


「だから、今年の誕生日プレゼントはこれだ!爺ちゃんが直々に鍛え上げた刀だ!」


「え?えぇっ!?刀!?俺に?いいの!?」


 そうして茂から彼に私が手渡されたとき、彼の手に私が触れた瞬間、私に意思が宿った。


「爺ちゃん!これ抜いてみてもいい?」


「ああ、いいぞ。けど、振り回すのは絶対ダメだ。いいな?帰ったらお父さんに刀術を習いなさい。ある程度振れるようになったら、その刀を使ってもいいだろう」


「分かった」


 刀を握るのなんて初めてだっただろうに彼は特にもたつく素振りもなく、私を鞘から引き抜いて見せた。


「おお!うおぉぉぉ!かっけぇ!すげえ!!!爺ちゃんありがとう!俺、大切にするよ!」


「ハハハッ、喜んでくれたなら良かった。そうだ誠、その刀に名前を付けてやれ。いい刀には銘が付くもんだからな」


「名前かぁ……うーん、じゃあこの刀の名前は無限。無限にする!何でも斬れそうだし!何よりかっこいいから!」


「ハハハッ、無限か。まあ、良いんじゃないか?銘を付けたからにはお前も本当に刀の主だ。錆び付かせたりするなよ!」


「うん!大事にする!よろしくな!無限!!」


(よろしく……)


 ◇◇


 懐かしい記憶と共に、彼の腰に携えられたもう一振りの刀に目が留まった。


「ちゃんと持ってきてくれたんだ」


 無限……ユメちゃんには悪いけど、もともとそこに居たのは私なんだから!

 今の姉的ポジションも捨てがたいけど、やっぱり彼の一番近くにいれるあそこも譲りたくない!


 気付けば、負った傷のことなど忘れて私は立ち上がっていた。


「ロティスっ!!」


 名前を口にするだけで、力が湧いてくるみたいだ。


「ミリアっ!?どうして!?もう立ち上がって大丈夫なのか!?」


 袈裟斬りを左手で受け止めた魔族のみぞおちにロティスの鋭い蹴りが入る。

 そのまま魔族を吹き飛ばしたロティスは大きく下がって私の横まで来てくれた。


「なんだか、大丈夫みたい。どうしてかな?やっぱり愛の力?」


 ああ、ロティスの横に立てる。

 それだけで私の愛は爆発する。

 今私が立てているのだって、私のロティスへの愛とロティスの私への愛、それが奇跡を起こしたとしか考えられない。


「何を馬鹿なことを言っておるのじゃ!自分の左手を見んか!」

 

 だが、私の大事なポジションを奪っていった可愛い泥棒が水を差してくる。


「ミリア……それって……」


 ロティスの視線の先、そこにあるのは当然――


「私たちの婚約指輪」


「のう、ロティス。ミリアはヤツの攻撃で頭がおかしくなってしまったのか?」


 ロティスの横で何だか失礼なことを言っている猫さんがいる気がするけど、気にしない。

 今の私には薬指で輝く指輪とロティスしか目に入らない。


 輝く……?


「どこで見つけた物かは知らぬが、その指輪には聖魔法への耐性効果がある様じゃの。フンッ!命拾いをしたようじゃな!」


 聖魔法への耐性……ね。

 魔族でも聖魔法って使えるんだ。

 というか……なんであの魔族はこんな自分の大将の能力に特効な指輪を私に?


「ハハハッ、良いぞ。実に良い!いつの間にか殺したはずの女まで蘇っているとは!これも救世の力なのか?ハハハッ!素晴らしい!」


 私たちが喋っている間に、ロティスに吹き飛ばされていた魔族が戻って来た。

 

「とはいえ、所詮は人間。高位種族である私に勝つことなど不可能!さあ、救世主よ!最後まで死合おうぞっ!!!」


「ロティスっ!あやつ、爪がっ!」


 ユメちゃんが叫ぶ。


「ああ、どうやら聖神の回復魔法まで使えるみたいだな……」


 回復してくる敵……厄介ね。

 でも、私なら……


「ロティスっ!!私を……無限を使って!」


 また戦いに向かうロティスを呼んだ。


「ああ?分かった。ヒルウァ!ここからは本当に本気だ!俺の二刀流を見せてやるっ!」


「ほう、両手に剣か。そんな曲芸で私が倒せると思うなよっ!!」


 そうしてロティスは15年ぶりに私を抜刀した。


 ◇◇◇〈エモニ〉


 急いで駆け出した私は、いつもの何倍もの速さで森へとたどり着き、勢いをそのままに森の中も進んだ。

 何体か魔物にも遭遇したけれど、気にも留めない。

 どうせこれからコントラクターたちが入るだろうし、私は一刻も早くロティスの元へ。


 そうして視界も利かないような闇を抜け、ようやくたどり着いたそこには、ありえないほどの数の魔核と身が震え上がるような存在感を放つ魔族。

 そして、銀色の魔力を纏ったロティスと傷だらけのミリアさんが居た。


 ロティスが二本目の刀を抜刀する。

 それと同時にミリアさんの姿が消えた。


「ロティスっ!ミリアさんっ!?」


 あまりの情報量にそう口に出すだけ出して、私は立ち尽くしてしまった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


ミリアの名前の由来はMyriad「無数」です。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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次話で決着します!一章のラストシーンを盛り上げるためにも、☆☆☆評価など皆様のお力をお貸しください!!

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