第99話 チーム・ウィクトーリア ⑤
「日野くん。昨日の戦いぶりは、この前の検査より明らかに制御が向上している。さっき“道場に通っている”と言っていたね。この一か月、どんな訓練をしたのか、少し詳しく教えてくれる?」
純一の質問に大人しくに答える。
「はい。虎本道場に通っています。他の門下生と組手をして、僕は受け身と投げ技を重点的に。個別課題では、ずっと野球の投球練習をしています」
「なるほど、標的狙いの訓練に通じる」
「そうか、君は虎本桐哉師範の門下か。どうりで伸びが早い」
レイミは訊ねる。
「沖田さん、その道場ってそんなに凄いんですか?」
「
「へぇ……そんな道場に」
「でも、日野くんは八王子在住ですよね?どうして遠くの道場に?」
「父が虎本コーチの高校時代の野球仲間で、旧友なんです」
「なるほど」
「沖田さん、ヤングエイジェントに入ったら、道場は続けられますか?」
「もちろん。体と技量が順調に伸びているし、君に合っている。ウィクトーリアの方針は、各自の要望で研究所や拠点を選ぶこと。こちらに定期に通い一方、基本は各地に居住して、地元
「分かりました」
「でも陽太っちゃん、どうして“野球の投球”にこだわるッス?プラズマなら他にも形があるのに」
「“制御できる技”が欲しいんです。パワーより、有効に相手を止めて、不要な死傷を出さない技を追究する、とコーチに教わりました。だから、小さくて速く、離れていても届く形……片手で握れる“野球ボール”にした。それに、父は元プロ野球選手で、ピッチングを叩き込まれたので、戦いでも投球フォームを応用しています」
万璃愛が目を丸くして弾む声を上げる。
「え〜っ!日野くんって、あの辰っちゃんプロの息子なの!?」
意外な反応に、陽太が目を瞬かせる。
「そうですけど……姫路さん、野球観るんですか?」
「観るどころか、私、辰っちゃんプロのファン!子どもの頃、試合中継をよく観てたし、サインボールと記念ユニも大事に飾ってあるの!」
「姫路さん、父のファンだったんですね。昔の投球フォーム、格好良かったですよね」
万璃愛は嬉しさの中に、ふと切なさを滲ませる。
「だよね……でも怪我で引退してから、しばらくニュースも途絶えて……まさか最近、シャドマイラの件で亡くなったなんて――」
康靖がまっすぐな眼差しで陽太を見る。
「辛い目に遭ったな」
「ん?」
「身内を失った匂いがする」
「伊達さん、分かるんですか?」
統が冷静に補足する。
「退魔師や霊感体質の人は、独特の感覚がある。思い返せば、日野くん。家族が襲われた時、君は現場にいたね」
陽太は目を伏せ、言葉を詰まらせる。人前で多くを語るのは難しい。
「……はい。僕は、父さんと母さんを助けられませんでした……」
陽菜は兄の手の甲に自分の手を重ね、支えるように言う。
「あの時、お兄ちゃんは私を守るのに全力だった。間に合わなかっただけ」
レイミは眉根を寄せ、悲しげに呟く。
「……どちらか一人しか救えない状況、つらすぎますね」
陽太は作戦も立てられず、ただ父の指示に従って動くしかなかった。
両親の死は変えられない。自分の未熟を認め、二度と同じ悲劇を起こさないと胸に刻む。陽太は肩をそっと揺らし、悲しみを押し込み、まっすぐな笑顔を作った。
「この思いを、もう誰にも味わわせたくない。だから僕は、ヤングエイジェントに応募しました。」
自分に同じことが起きたら――と想像して、胸が締め付けられる。レイミは胸元に手を当て、静かに言う。
「悲しみのさなかで、その決断は……すごいと思います」
万璃愛も何度もうなずき、姉のような仕草で明るく励ます。
「うんうん、感動した! この先つまずいたら、遠慮なく相談してね」
統もそれを肯定するように涼しい笑みを浮かべた。
「私たちチーム・ウィクトーリアは、そのために集まっているよな」
その後、パーティを続けつつ、食事と雑談で親睦を深める。連携を磨き、信頼を築くため、協力型のチャンネルゲームや、チーム対抗のミニゲームでも遊んだ。
レイミ、万璃愛、統、ビリー、それぞれ役割を分担し、水風船を集め、色を揃え、相手の砦を打ち破った方が勝ちというゲームで盛り上がる。
一度、陽太は陽菜と組んで負けてしまい、以降は観戦と応援に回った。
「日野くん、よかったら君の投球、見せてくれないか?」
「どうすればいいですか?」
「この前の実技テストを、もう一度」
「分かりました。いつでも」
「斎藤くん、日野くんとサポートセンターへ」
ゲームを一旦止め、統が頷く。
「了解しました。」
他のメンバーも顔を見合わせる。
「ええ〜!私も見たい!」
万璃愛がソファから勢いよく立ち、レイミも静かに興味を示す。
「彼らに見せてもいいか?」
「大丈夫です。稽古も、たまに見学者がいますし」
「そうか。私たちは三十分で戻る。見に行く人は一緒に。ゲームを続けたい人はここで」
統は興味深いに言う。
「気になるね」
「拝見できるなら、私も」
統に続いてレイミが言い、ゲーム組の三人も同行を決める。ゲームにあまり関心のない康靖も自然に合流し、いつも無表情な羽も、この機会に席を立った。
「みんな行くッスか?ゲーム続けられないッスよ?」
「続きは戻ってから。待つか、シングルモードにするか、ビリーの好きに」
「シングルは寂しいじゃん……」
「戻ってくるまで待つしかないよね」
「おーい、置いてかないでよ!」
続きも遊びたいが、パーティ会場に一人取り残されるのは耐えられない。ビリーは慌てて一行を追った。
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