第4話 薬師、側付きメイドと仲良くなる

「ぐへへへ、笑いが止まらないな」


 テーブルの上には白色の粉の山ができている。

 あれから魔力がなくなるまで、アセトアミノフェンを大量生産していた。

 現実世界だと中々見れない光景だろう。

 傍から見たら危ない薬にしか見えない。


「アセトアミノフェンなら子どもも飲めるからちょうど良いな」


 解熱、鎮痛剤に有名な薬はいくつも存在する。

 その中でもアスピリンやロキソプロフェンはウイルス性の感染症を罹患した子どもが服用すると、重篤な副作用を発症することがある。


「症状的にはインフルエンザと同じなんだよな……」


 インフルエンザは突然の高熱から始まり、全身の倦怠感や関節痛、頭痛に襲われる。

 症状が酷くなると最悪死に至る危険な感染症と一般的に知られている。

 特にインフルエンザにアスピリンやロキソプロフェンを服用させてはいけないって有名な話だ。

 だから俺はアセトアミノフェンを用意していた。

 爵位を継ぐ弟や妹を殺さないためにも必要だからな。


 ゲーム上では家族や領民が全ていなかったはず。

 このままではあんなに可愛い弟妹が亡くなる。

 きっと雪の病魔が関係しているのは間違いない。


 メディスンの記憶の中でも、インフルエンザの症状と同じなのは知っていた。

 雪の病魔は寒くなって雪が降る時季に流行する病気で、感染すると死ぬ可能性が高い。

 それがこの世界での認識のようだ。


「んっ……」


 ベッドの方から声が聞こえてきた。

 どうやら彼女が目を覚ましたのだろう。


「大丈夫か?」

「私……生きているの?」


 自分の体をペタペタと触っているが、俺が毒を盛ったとでも思っているのだろうか。

 唯一協力してくれそうな人は彼女しかいないからな。

 そんなことするはずがない。


「ぐへへへ、まだ休んだ方がいい」


 急いで体を起こそうとするが、俺はすぐに止める。

 今はしっかり休むことが重要だ。


「ヒィ!?」


 彼女の額や首元に触れると、だいぶ熱が下がってきたのがわかる。

 ただ、そんな反応をされると悲しくなってくる。

 見た目はメディスンでも中身は俺だからな。

 いや……見た目がメディスンだから尚更やったらダメか。


「えっ……と、薬が効いてきたんだな」


 すぐに手を放し言い訳を考える。


「あれは毒じゃなかったんですね」


 どうにか心配していただけだと伝わったようだ。

 本当に毒を飲まされたと思ったのだろう。

 体が楽になったことで、飲んだのが薬だと実感したらしい。


「メディスン様、少し変わられましたね」


 その言葉にビクッとしてしまった。

 やはり見た目や過去の記憶がメディスンでも、中身が変わってしまったら別人に見えるのだろうか。


「以前の優しいメディスン様に戻られましたね」

「へっ……?」

「ラナと遊んでいた時のようです」


 そういえば俺とメイドのラナは小さい時によく遊んでいた。

 ラナの母親は亡くなるまで、両親の専属メイドをしていた。

 それもあり小さい頃は年が近い姉のように慕っていたからな。


「薬なら……ノクス様とステラ様も治りますね」

「あいつらか……」

「申し訳ありません! メディスン様は二人のことをお嫌いでしたね」


 ノクスとステラは俺の弟妹のことだ。

 きっと無才能なメディスンは自分以外の世継ぎが生まれたことで、何かが変わったのだろう。

 いろんな人に横暴な態度をしていた記憶も残っているからな。

 ただ、家族のため、爵位のためにも薬を作っていたのは確かだ。

 根は良いやつなのは、メディスンの体に入った俺だからわかる。


「そんなことはない。でもあいつらは飲んでくれるのか?」


 俺の言葉に重たい空気が流れてくる。

 メディスンは離れの屋敷に引き篭もって薬を作っていた。

 弟妹と遊んだ記憶を思い出そうとしても、全く出てこない。

 それにラナ以外の使用人すら無視されていた。

 両親すら変なものを飲ませるなと言われそうだ。

 それだけ関わりを拒絶していたし、されていた。


「何かの食事に混ぜるのはどうですか?」


 薬を食事に混ぜると効果が変化する。

 脂肪が多いものだと薬の吸収速度は遅れるし、柑橘系フルーツ、特にグレープフルーツは薬の代謝を遅らせる。


「混ぜるか……例えばゼリーとかはどうだ?」


 そこで思いついたのがオブラートゼリーだ。

 薬局にもゼリーの間に薬を入れて、飲ませる商品が売っていた。


「あの骨や皮から出るプルプルしたやつですよね?」


 どうやらこの世界にもゼリーは存在しているらしい。

 ただ、そのほとんどが動物から取るゼラチンが主になる。

 資料を見ても抽出結果にゼラチンは書かれていなかった。


「さすがにスライムみたいなやつは食べられないですよ……。やっぱり二人を殺す気――」

「違うわ!」


 側付きのメイドでも怪しむように俺を見ている。

 メディスンって本当に危ないやつだと思われていたようだ。


「それでもゼリーはさすがに毒と似たようなものですよ」


 それに問題は動物臭が強いところだ。

 見た目もスライムみたいにドロっとなるため、食欲が湧かないらしい。


 何か情報がないか、本棚や書いてあるメモを漁っていく。

 抽出結果が記載されているのは動物などの生き物や草木、花ばかりだ。


「魔物を抽出したことはないのか……? 例えばスライムとか……」


 その中で魔物からの抽出結果は存在していなかった。

 魔物のような存在からは何が抽出されるのだろうか。


 ゲームの中では魔物の素材を錬金釜で使っていた。

 そういうところからゼラチンは分解できないのだろうか。


「スライムですか? それなら裏庭に生息してますよ」


 領地が辺境地にあるため、魔物も近くには存在している。

 スライムはよく出てくる魔物だからな。


「ラナ、すぐに何でも良いから食材を準備してくれ」

「ひょっとしてスライムを捕まえに行くんですか?」


 決して捕まえるわけではない。

 戦う力がない俺がそんな危ないことをするわけない。


「ぐへへへ、毒で倒してスライムゼリーを抽出するんだ」


 俺はすぐにラナに何か食べ物を持ってきてもらうことにした。

 だが、俺はスライムのことをあまり知らなかった。

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