30 銃は剣より強し、ただし現実に限る
アイテムボックスに関しては、私の方は地方に伝わる伝統的なスペルという設定でジュリアに説明した。
実際はそんな由緒正しい秘術なんてもんじゃなくて、異世界召喚特有のチート性能の一つな上に、アイテムボックスというスキルでも何でもなくて、使えるチートスキルをそれっぽく使っているだけなんだけどね。
モズの方に関しては、本当に分からん。本当に古代呪文が使えるなら何でそんな力が使えるんだお前は。
こんな特殊設定があるってことは、今はまだ実装されていないだけで、今後本編かイベントかで実装されるキャラである可能性が非常に高い。
処刑にしなくて良かった……!
動揺しているジュリアに「まあ、この話はおいおいゆっくり」となだめすかして、大幅に脱線した話を軌道修正する。
そう、私は戦闘スキルを教わりたいし、どの程度剣を振れるのか一度見てもらわねばならないのだ。
ジュリアの執務室は応対用のソファーとテーブルがあるが、それでも人一人が素振りをするだけのスペースがある程に広い。ジュリアに断りを入れて、この場で見せることにした。
改めて、モズから刀を借りて、腰のベルトに固定する。人に見られているからか、緊張して少し手が震えた。
鞘を掴み、ぴしっと背筋は伸ばして、親指で鯉口を切ってから、刀の柄を握る。刀を抜く前に、講義で習った手順を一度思い返した。
刀身を引き抜く時に上に抜かないように、水平を意識しながらゆっくりと抜刀し、一度構え、上段、中段、下段、上段と刀を振り抜く。そしてもう一度構えて気を落ち着かせて、納刀。
思い出しながらだったのでぎこちない動きだっただろう。
それに、刀というものは細身で美しい外見ながら、その実、結構な重量がある。他人から見たら、刀に振り回されていたことだろう。
しかしジュリアとモズの方を見てみると、ジュリアは感心したように顎を揉んでいて、モズはキラキラとした視線を私の方に向けていた。
モズの方はまだわかる。ちゃんとした型で刀振ってる姿って格好いいよね。男の子心をくすぐられるよね。
「飛花の剣術だな。こちらでは滅多に見られない型だ」
「でしょうねぇ」
「しかし触り程度、それもブランクがあったとはいえ、中々に見込みがありそうな動きだ」
自分では酷いもんだと思ったが、ジュリアはそうは思わなかったらしい。石の塊の一部に玉を見つけたのだろうか。
大学時代も筋が良いとは言われたが、小学生の頃から運動は苦手だったこともあって、その筋の達人から褒められているというのに、素直に受け入れられなかった。
「そういえば、トワはスペルが得意だったりするのか?」
「いや〜そっち方面はからっきしで……」
「そうか。一応、属性だけ聞いておきたいのだが」
「それが分かんないんですよねぇ」
「分からない?」
「基礎的なスペルですらうんともすんともで。そうだ、私みたいにスペルが一切使えない人って居るんですかね?」
「私も専門家では無いから詳しくは分からないが、ごく稀に、そういった体質の人も居ると聞いたことがある」
「あちゃー、嫌な方のレア引いちゃったのかー……」
「そう悲しむことはない。その場合、少なくとも二種の魔力を有していることになるからな」
「ん? どゆこと?」
「スペルが使えないのは、何らかの理由で魔力を失ったという事例を除くと、大抵は相反する二つの魔力が完全に拮抗していることが原因だ。火と水、風と土、光と闇の組み合わせだな」
ゲーム内でも魔力属性の相性が反映されていて、確かに彼女の言う属性の組み合わせは、互いに攻撃・防御共にダメージが半減される仕様である。泥仕合待ったなしだ。
どちらかの属性が一方的な弱点にならないのは、ジュリアが言っているように相反する性質があるからだろう。
ゲーム内では相殺属性以外に、キャラクター毎に弱点属性と防御属性が設定されていて、敵キャラの弱点と使用キャラの防御属性を考慮してパーティを編成する。
「刻印が作動している以上、トワに魔力がないということは有り得ない。だから恐らく、君がスペルを使えない原因は後者だろう」
そうは言うが、ヘーゼルの話だと魔力=体内外に存在する微生物の働きだから、どこまで鵜呑みにしていいのやら。
ヘーゼルが居れば詳しい解説を聞くことが出来たのだが、その解説毛玉はこの場には居ない。
最近めっきり冷え込みが激しくなったからか、外に出るのを嫌がるようになり、留守番すると駄々をこねやがったのだ。
今頃ルイちゃんが作っていたヘーゼル用柔らかふわふわお布団クッションが完成している頃だろうし、それを使ってお試しお昼寝をしていることだろう。
すっかり野生を忘れた獣になりやがって……。
「じゃあ歪属性って何なんですかね? アレ、光と闇の複合属性ですけど、光と闇って相殺し合う組み合わせですよね」
「すまないが、それに関しては私もよく分からないんだ。複合属性の中でも歪属性は発現例が極端に少ないし、他には無い特性があって、まだ解明されていないのが現状だ。確かそういう研究をしている辺境伯が居たはずだが……」
複合属性に関して研究している辺境伯、という言葉に「ああ、あいつか」と脳裏に細身なイケメンの研究者キャラの姿が浮かぶ。
ルーカスという汎人のキャラクターが、恐らく彼女の言う辺境伯だ。ゲーム内では数少ない複合属性である、雷属性のキャラクターとして実装されている。
彼は魔力性質の研究の一端で研究に必要な機材を自分で開発するという発明家的一面があるためか、同じ発明家気質のレイシーとの絡みを公式がお出ししてくる上に、ルカレイは腐カプには負けるものの、そこそこ人気のカップリングだ。
公式の絡みがあるとはいえ、その描写的にルーカスとレイシーの仲はよろしくない。方向性の違いというやつである。それを喧嘩ップルと解釈する人が多いのだ。
私もレイシーが地雷ということを除けば分からんでもない。むしろ好きだよそういうの。レイシーが地雷になる前は、ルカレイが好きカプの一つだったくらいだ。
しかし、そんな中堅カプのルカレイには問題がある。
ルカレイのオタクはヤベー奴が多すぎるのだ。
ウォルレイのオタクとはまた別のベクトルでヤバい界隈故に、地雷ということを除いても絶対に触れたくない。
というのも、公式がルーカスとレイシーが二人並んでいたり一緒に映っているイラストをツブヤイターに投稿すると、必ずと言って良いほど「ルカレイは公式!」「公式カプの供給ありがとうございます!」なんて馬鹿げた妄言を公式にリプライする奴が、ゴミ屋敷に生息しているゴキブリの如く湧いてくるのだ。
公式にカップリングの話題を振るんじゃない!!
それ以前にルカレイは公式じゃねえ! いくら絡みが多くても非公式だ!!
それとレイシーが私の地雷ということもあるが、私は未だプレイアブル実装されていないルーカスの師匠との腐カプの方が性癖に刺さるからそっちの方が見たい。
公式は早く師匠を実装してレイシー以上に多い絡みを見せてくれ!! 我儘言うならそのままルカレイをフェードアウトさせてくれ! まずは立ち絵の実装から頼む!
昔は非常に仲が良くて慕い慕われる関係性だったのに、方向性の違いで犬猿の仲になった弟子の年下独身男と師匠の年上未亡人男とかいう性癖抉りコンビが嫌いな腐女子おるか!? 少なくとも私は好きだ!
ちなみに私はルカ師派だが、リバでも美味しくいただけるし、この二人に関してはむしろリバがデフォで、どちらかと言うとルカ師寄りなだけである。
現在ルーカス関連の最大手であるカップリングは、よりにもよってラガルティハとの腐カプである。
実装時期がほぼ同時期と言えるラガルの次だったからという理由だけで、公式の絡みなんて一切無いのに顔だけでくっつけた絵を画力のある腐女子が大量放出した結果だ。
ルカラガ及びラガルカに恨みは無いが、主にラガルの性格的に、解釈的に絶対に合わないだろう。万が一そういう関係になったとして、も間違いなく長続きしないカップリングだと私は思っている。
かけ算をしたいがためにこじつけた無理矢理解釈でホモにさせているようにしか見えないんだよなぁ……。地雷とは言わないが、自分の意志で見ることは決して無いだろうカップリングである。
もし解釈が一致するルカラガ及びラガルカを読んだらまた違う感想が出るとは思うが、残念ながら、覇権カプで大量に二次創作作品が投稿されているはずなのに解釈に合う作品を一度も見たことが無いので、そういうことなのだろう。
ルーカス、顔が良い故に棒にも穴にもされてしまって……。
いや、私もたまにルカルイとかやってるから人のこと言えないけど。
だって半周年恒例の探偵イベでヨダルイの幼馴染み枠でお出しされてしまったんですもの。仕方ないね。
幼馴染みトリオで三人カプとか美味しいじゃん……外伝イベントとはいえあんな仲良しなシーン見せられたら、そりゃ本編世界線でも可能性を探っちゃうじゃない……というか本編のレイシーとのやり取りと比べものにならないくらい仲良しだったじゃんアレ……本編のルカルイ供給もっとおくれ……。
まあ、顔カプは悪ではないから、私がとやかく言う問題では無い。私の口に合わなかっただけなのだから。
ステーキとハンバーグを一緒に食べたって良いんだよ。私だって顔カプで好きな腐カプあるし、何ならラガルイなんてパロディイベントでミリ程度の交流があった程度の、顔カプと言っても差し支えない男女カプだし。
とは言っても、ラガルイは成人済みショタとロリおねえさんの概念おねショタとして相性が良すぎるわけだが。
個人的なスタンスではあるが、やっぱりカップリングするなら顔じゃなくて性格よ。
顔カプと言うから取ってつけた感があるんだな。
言い方を変えよう。ラガルイは性格カプです!
顔だけのカプは少々もにょる所はあるけれど、本編で一切の絡みが無くても、二人の性格や相性をシュミレートして「良い」と感じたなら顔カプするのもやぶさかでは無いという点に関しては、かなり面倒臭いオタクだという自信と自覚はある。
「ともあれ、魔力を上手くコントロール出来るようになれば、自然とスペルを扱えるようになる。あまり気にしなくていい」
「まあスペルが使えなくても、最悪何らかの遠距離攻撃手段があればいいですよね。銃とか」
「じゅう? じゅうとは何だ」
すっかり抜けていたが、ARK TALEに銃を使うキャラなんて居なかった。居たとしても前作、もとい未来のキャラクターだ。
この時代でハイテク狙撃武器と言えば、コンパウンドボウの類か、クロスボウ辺り。大型になれば大砲くらいはあるだろう。旧時代ならもっと重火器の類いが存在していただろうが、この時代ではそんなものだ。
しかし、そもそもの話、遠距離攻撃をするならスペルで事足りてしまうのが現実。
故に、この世界では遠距離武器市場は狭いものだ。ルイちゃん以外に遠距離武器を使っているキャラなんて、数多く実装された中でも片手で数えられるくらいだ。
「ちょっと紙とペンお借りしても?」
「ああ、いいぞ」
「えーっと……片手で撃てるのはこのくらいの大きさで、大抵こういう形状のやつで……デカいのはこういう感じで……」
大雑把に銃のイラストを描いて、サイズ感を出すために銃を持っている人間のイラストも追加で描いていく。
過去に履修した別ジャンルの影響で、ざっくりとではあるが、ある程度の銃の知識や描き方は身についている。まさかこんな所で活かすことになるとは思わなかった。
「君は絵も描けるのか。多才だな」
「……下手の横好きですよ」
そう、多少絵が描けるとはいえ、今し方有識者から才能があると言われた剣術とは違い、絵の方の才能はからっきしだ。
描き方を勉強して、十何年も努力して、それでも結局画力は中の下止まり。
世の中には「センスが無くても○年でこんな絵からここまで描けるようになりました! だから皆も諦めないで!」と成長録を出す人が居るが、それはほんのわずかでも才能があったからこそ伸びしろがあって、高レベルの画力を手に入れられただけだ。
真に才能の無い者は、どれだけ努力をしようとも普通以上にはなれないのだ。
そういった意味では、私に剣の才能があるかもしれないのは、都合が良いのかもしれない。
推しカプを覇権に出来る画力を手に入れるより、剣と魔法の世界で世界を救う方が、よっぽど現実味があると思えるのだから。
「この銃とやらが気になるな。トワ、時間はあるか?」
「え? まあはい、大丈夫ですけど……」
「鍛冶屋の所に行くぞ。ついでに、少年のカタナも直してもらおう」
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