第206話 光の子

さーて、川に着いたぞ、と。


周りはもう真っ暗。


光源がないとね、本当に夜は真っ暗なんだわ。電灯を指して「文明の光」なんて言うが、むしろもう「光は文明」だよね。


俺は特に口に出していないが、実は、ストライダーギルドなんて建物の中マジで真っ暗だからね?


何故か?


建物の中だからだ。


イメージしたい人は、日中、遮光カーテンを閉めてアロマキャンドルでも何でも良いから蝋燭を机の上に置いてください。


置きましたか?


はい、それがストライダーギルドの中の明るさです。


マジでそのレベルで暗いよ、この世界の建物。


いやでも、ストライダーギルドに限らず、宿屋とかは、広間の真ん中が土間で、そこで石と木材を組んでクソデカ焚き火をしていることが多いから、まだマシかな?囲炉裏みてえなもんですよ!煙エグくて臭いけどね!


と言うか、蝋燭って高いのよね。ストライダーギルドに限らず、市民はみんな獣脂とかのランプじゃねえかな。こちらもくっさいよ!


まあしかし、人そのものも概ね臭いので問題はないな、と言う感覚。シオとかね、臭いよ、マジで。会う度に洗ってたもん。最近は同棲してるからそんなんでもねーけど!


特に、ストライダーに限らず、戦士や狩人は血の匂いがするのよね。


いやあ、本当に碌でもねえなあ、この世界!!!


そんなことを考えながら、俺は笑顔で鍋をかき混ぜる。今夜はポトフだ。


「父上」


「お、どうした?飯ならできたけど」


「セレストさんを泣かせてしまいました」


「えぇ……?何したの?」


「抱きつかれたのですが、臭かったので、臭いと言ったら……」


ああうん……、はい……。


「あー……、女の人にそういうことを言ってはいけません」


「それは常識として分かっているつもりですが、こう、反射的に……」


はい……。


「セレストは?」


「水浴びしにいきました」


はい……。


まあ……、うん。


そうだよね。


お前の母親のローザは、毎日風呂入ってるもんね。


後最近は運動もさせているし、食生活も整えているから、ローザの体臭はほぼ無臭だろうな。


「因みにですが……、その……、シオさんとか……」


「言うな、分かってる、分かってるから……!」


あの子の部族の儀式らしい、獲物の腹を掻っ捌いて血を浴びる謎儀式をやめさせるのに、俺がどんだけ苦労したか話してほしいのか?息子よ……!




「臭いって……、臭いって……!」


「あーごめん!本当にごめんね!息子がね、悪かったね!」


「あ、いえ、その……、私が悪いんですぅう……!うええん……!」


セレストに詫びながら、俺は飯を食う。うまい!


「俺個人としてはなー、セレストは好ましいんだがなあ」


「いや〜、私はアンドルーズ様みたいな女の子たくさん侍らせる男性はちょっと……」


「俺だって息子に惚れてる女を寝取るほど飢えてないわ!……ここで冗談言える気安さとか、人間らしくて好ましいんだよ。良くも悪くも、魔導師っぽくないな、って」


「ああ、それはほら、私は孤児の出なんで」


んー?


「そうなのか?」


「やだなあ、私、ハーフエルフですよ?」


ああ……。


久しぶりに出たな、激烈人種差別……。


「ハーフエルフと言ったら、人間とエルフ、両方から嫌われるでしょう?だって、どちらでもないのに、どちらでもあるんですから。気持ち悪いったらないですよ」


自嘲気味に、とかではなく、カラッと笑って言うセレスト。何でこの世界の女の子はこんなに乾いているんだ……?ジメジメ感があんまないよね。いや、助かるけどさ。


「孤児上がりが、よく魔導師になんてなれたな?」


「まあ、私、天才ですので?」


ふふん、と胸を張るセレスト。


エルフはまるで、超高級のビスクドールみたいな、作り物みたいな美男美女ばかりなのだが、ハーフエルフのセレストは美形でありながらも鋭利さや作り物っぽさがなく、親しみやすい可愛らしさだ。


「実際、どうやったんだ?」


「そりゃもう、街の教会に通い詰めて読み書きと計算を覚えて、教会の儀式魔法を覚えて……」


ほー、教会ルートか。


この世界、基本的に、成り上がりルートは「教会」か「傭兵」だもんな。


裸一貫で成り上がるには、教会に入ってバキバキに学を積むか、傭兵やストライダーになって強くなって騎士になるかの二択だ。


商人?職人?そういうのは腕前以前に、生まれだ。流民とかだとそのルートはあり得ないぞ!


で、究極的には、その場の偉い人に気に入られるかどうか?だから。お気持ち人事ってか、アメリカみたいに、実力主義の皮を被ったコミュ力至上主義みたいなところがある。ほら、休日に職場の上司のパーティーに参加しないと干される!みたいな……。


こういうのは日本でパワハラと言うのだが、この世界ではパワハラが犯罪ではなく、基本軸だから。パワハラが基本で、パワハラで人事も仕事も決まる。クソである。


そんな世界で、セレストは、本人の圧倒的コミュ力と賢さで、自分の力で魔導師まで成り上がった凄い人ってことになるな。


いや本当に凄いよ。


……が、それはちょっと良くないな。


「教会に『儀式魔法』とか言ったら捕まるだろ」


という点がね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る