第4話
「起きろ」
「なんだ⁈」
驚いて目が覚めた大輔は、目の前に立つ
(そうか、夢じゃなかったんだな)
煋蘭も大輔をじっと見ていたが、動く気配のない大輔に焦れたようだ。
「早く着替えろ。庭で待っている。朝の鍛錬だ」
そう言って部屋を出て行った。
「急にそんなこと言われても、俺、寝起きだぞ」
(寝起き? あっ……)
大輔は股間に目をやる。
「煋蘭ちゃん、これ見えてた?……」
服を着て庭に出ると、煋蘭が待ち構えていた。
「遅いぞ!」
「これでも急いだんだ。そう、怒るなよ」
へらへらしている大輔に、問答無用の重い蹴りが繰り出された。大輔もこのパターンに慣れて躱すことが出来たが、その後の拳による一撃は鳩尾に深くめり込んだ。
「ぐはっ」
強い痛みに耐えられず、前のめりに倒れた。
「お前、何も身に付かないのか? 攻撃を躱すことが出来なければ、防御を覚えよ」
痛みと苦しみで声も出ない大輔を、冷ややかな目で見下ろす煋蘭。
(惨すぎるよ。俺、昨日突然連れて来られたばかりだよ。戦う術なんて身に着くはずがないだろう。煋蘭ちゃん強すぎだってば。これじゃ、俺、
大輔が心の声でそう訴えると、
「ならば、防御の仕方を教えよう。さあ、立て」
と言う。大輔は何とか声を絞り出して、
「俺、まだ痛くて立てないんだけど?」
と言うと、
「甘えるな」
と冷淡な言葉が返って来た。
(煋蘭ちゃん、手厳しいなぁ。修行が厳しいのは分かるけど、一方的に攻撃してくるのは勘弁して欲しいよ)
「お前が無防備すぎる。妖はお前に手加減などしない。修行でも気を抜くな」
煋蘭が正論で大輔を一喝した。これには何も言い返せない大輔だった。
「煋蘭ちゃん、修行の前に治癒が必要なんだけど? どうしたら治癒の力を使えるの? 昨日は自分で治癒できたんだけど、どうやったのか俺にはよく分からなかった」
そう大輔が聞くと、
「そこに座れ」
大輔が言われた通り座ると、
「目を閉じて集中しろ。精神を研ぎ澄ませて余計な事は考えるな。身体の気を巡らせろ」
と煋蘭は指示を与えた。しかし、普段から雑念だらけの大輔に、余計な事を考えずにいる事は難しかった。気を巡らせるという事も分からない。何をどうしたらいいか分からず、考えを巡らせていると、
「雑念は捨てろ。無になれ。気を巡らせろ」
煋蘭は再び指示を出したが、大輔の雑念が消えることはなかった。
「もういい。お前には早かったようだ。私が治癒する。じっとしていろ」
煋蘭はそう言って屈み、大輔の鳩尾に手を翳して気を送ると、暫くして痛みが引いていった。
「煋蘭ちゃん、人の傷の治癒も出来るの? 凄いな」
大輔が褒めると、
「黙れ、無能が」
煋蘭が悪態をついて立ち上がり、大輔を冷ややかに見下ろした。
「治癒には力を消耗するのだ。お前、弱いことが罪だと自覚しろ」
厳しくそう言ったあと、
「防御の方法を教えるから、しっかりと身につけよ。さあ、立て」
と早速修行を開始した。
「分かったよ。煋蘭ちゃん、傷を癒してくれてありがとう。修行、頑張るからさ、もうちょっと愛想よく頼むよ」
大輔がヘラヘラと笑って言うと、煋蘭は不機嫌そうに睨み、
「愛想など無意味だ」
と吐き捨てるように言った。
「防御には気を使う。敵の攻撃を受ける時、それを気で受け止める。相手の動きをよく見ろ。私がお前に拳を当てるから、それを手で受け止めろ。お前は受け止める掌に気を集めるのだ」
煋蘭が言うと、
「煋蘭ちゃん、その気って何? どうやって集めるの?」
と大輔が質問する。
「お前は自分の中に流れる気を感じないのか?」
「感じたことなんてないよ。気ってどんな感じよ?」
「血液と同じだ。身体中に流れている温かいものだ」
「血液ねぇ。そう言うのをイメージすればいいって事だな?」
大輔が気を感じ取る為にイメージしながら集中すると、温かいものが身体を流れているの感じ取る事が出来た。
「おおっ! こういう事か! 分かるぞ! これが気って奴なんだな?」
大輔が嬉しそうに言うと、
「それが気だ」
少し呆れたように、そして安堵したように煋蘭は一つ息を吐いた。潜在能力がある事は分かっていたが、
「その気を防御にも攻撃にも使うのだ。お前は攻撃を覚える前に防御を覚えろ。私の攻撃を防御してみろ」
煋蘭はそう言って、早速、実戦に入った。まずは横から蹴りを入れる。先ほど食らった鳩尾を狙った蹴りに、大輔はあの痛みを思い出して飛びのいた。
「逃げるな! 受け止めよ!」
煋蘭は更に連続の攻撃を仕掛ける。右の蹴り、左の蹴り、右の拳に左の拳。痛みを知っている大輔には、攻撃を受ける恐怖に勝てず、ただただ、攻撃を躱して逃げた。
「煋蘭ちゃん、これは怖すぎだよ。逃げるなと言われても、痛いのは嫌だから、身体が勝手に逃げちゃうんだよ」
「これでは修行にならぬ」
煋蘭は攻撃を止めて、息を一つ吐くと、
「では、私が攻撃する前に構えよ。まずはここへ蹴りを入れる」
そう言って伸ばした右足の甲を大輔の左わき腹へ触れた。
「そこに気を集中しろ、行くぞ」
そう言うと煋蘭は思い切り蹴りを入れた。もちろん、反射的に大輔は飛びのいて避ける。
「逃げるな! 次、逃げたら確実に当てていくぞ」
そう言って、また同じ場所を狙って蹴りを入れるが、やはり大輔は怖くて飛びのいてしまった。そして、宣告通り、煋蘭の次の蹴りが反対側の脇腹へとめり込み、大輔は勢いよく飛ばされて意識を失った。
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