第10話 ごきげんよう
「──
その言葉に、
彼女に届いた。それならこのまま、その
残るは、この悪夢を支配する元凶だけ。
「私に歯向かう意味、わかっているのか」
ゆっくりと立ち上がった
身長は3メートル近く、そして横幅も同じくらい。
さきほどより明らかに巨大化したその姿は、綾さんの絶望の深さそのものなのでしょう。
──
そして私は夢の中の自分を、いわゆる明晰夢──夢の中でそれを夢と自覚し、夢を自在に操れる状態──のように、
それが夢の中での私の
ただし、自分の経験や記憶からかけ離れた妄想、例えば巨大なドラゴンに変身しても、
そして、あくまで他者の夢の
「──さあ? 見当もつきませんが」
見下す黄色く濁った視線に、前髪を耳にかけながら
しかし、こちらに見惚れて動きを止めた一瞬だけでも、充分。
つかつかとその小山のような腹の前に歩み寄り、両腕を胸の前で交差させれば、追随して背の黒翼も交錯し巨腹を十字に切り裂く……ことは、できませんでした。
翼から伝わる何とも言いがたい不快な感触。
どうやら分厚い腹肉と、表面に分泌された
「どうせなら、もっと下に頼む」
我に返った
羽ばたきで加速し後方へ逃れる私の目の前で、標的を失った巨体はそのままの勢いで床に倒れ伏します。
こんなものに潰されたらたまったものじゃない。
一瞬だけ浮かんだ前世の最期の景色──視界を覆う
「ほうら、後がない」
壁を背にした私を嘲笑うと、
開けた視界の向こうから、少女の不安げな視線が刺さる。
でも大丈夫、私にまかせて。
今からあなたの心の枷を、引きちぎって見せる。
「いいえ、後がないのはそちら」
そうだ、よく見ればこんなもの、
不敵に微笑んだ私は、スカートを両手でつまんで裾を優雅に持ち上げます。
その下から、私の決意の込められた尻尾が真上に高速で伸びて、先端が天井を刺し貫く。
「……?」
ゆっくりと立ち上がりながら、尻尾を目で追い怪訝な表情を浮かべる
「どうした、くすぐったいぞ」
嘲笑に震える腹肉に、逸らされた勢いのまま尻尾はぐるりと一周巻き付いてゆきます。
さらに方向をずらしつつ、縦横無尽に
「──なんだ、これは?」
「あら、
ようやく動揺を見せた
その動きは見えない天井裏で増幅されながら伝わって、彼の全身を亀甲状に緊縛しながら宙に引き上げる。それは、綾さんが好きだと話してくれた時代劇の「仕事人」が、悪人を細糸で吊るし上げるかのように。
「あがッ……」
全身を縛り付ける力と巨大な自重との板挟みで、ぱんぱんに張った欲の皮は今にも破裂しそうです。
その姿を冷ややかに見つめる私は、右手で握った尻尾の半ばを左手の指でつまんで。
「──
お別れの言葉とともに、ピンとつまびく。
尻尾を伝った振動が到達した瞬間──限界を超えた巨体は「ぽん」と小気味のいい音を響かせ、粉々に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます