第37話 レクリエーション

「ちょっと待ってくれ、数が合わなくないか? 39人じゃないだろ?」


 黙って見守っていたルークが、苦笑しながら軽く手を上げた。


「数え間違いはありえん。アメリアを加えて、おれたちは39人だ」


 ルークは今度は自分自身を指さした。


「いやオレ。オレが39人目だろ? アメリアちゃんは40人目だよな?」


「お前は部外者だろ。仲間とは言えん」


「え、なんで?」


「お前への疑いを晴らしたわけじゃないと言っただろうが」


「ひっでーなぁ、ウィル様ぁ」


「だいたいさっきからなんだ、ウィル様とは。バカにしてるのか」


「いや他のみんなもそう呼んでるだろ? オレは敬意を表してるだけだぜ」


「敬意と言えば、からかっても許されると思うなよ」


「からかってないって。オレは本当にお前のことすごいやつだと思ってるんだぜ」


「まあ、どうでもいいことは置いておいて……」


「流すなよっ!」


 とかやっていると、クラリスが冷たいジト目をルークに向けていた。


「なんか……ふたりとも仲良くない……?」


 ゲンがしみじみと頷く。


「ああ、仲良いな。ウィルもこういう顔するんだなぁ」


「ウルフたちがじゃれ合ってるときとおんなじ感じがするぞ」


 ミラやママウルフにも、そう見えているらしい。心外だ。


 くすくす、とアメリアが笑う。


「いいなぁ。こういう感じ」


 穏やかで、安心したようないい微笑みだ。


 本当に心外であるが、この笑顔を引き出せたのなら、ルークも役に立ったと言えるだろうか。


「ともあれ、まだ作戦会議の途中なんだ。アメリアにも参加してもらいたい。治療魔法で回復してもらおう」


「じゃあ、わたしが――」


「オレがやるよ。これくらいの傷ならすぐ終わる」


 クラリスが名乗りを上げてくれるが、それより先にルークが前に出ていた。


「ほう。Aランクのお手並みを拝見といこうか」


「おうよ、お任せあれ」


 ルークはアメリアに治療魔法を施す。


「あれ? Aランク? 全員Fランクって言ってなかった?」


 治療を受けながら、アメリアは不思議そうにルークを見上げる。


「さっきも言った通り、こいつは部外者だから」


「そうらしいんだがね、さっきから見ての通り、我らがウィル様はこんな部外者にも気さくに接してくれるナイスガイさ。惚れちゃうねえ」


 ……イラッ。


 おのれ、ルークめ。今度は嫌味で返してくるとは。


 アメリアはそんなおれとルークのやりとりに、またくすりと笑う。


「仲良いね、羨ましい」


 心外だ。実に心外だ。


 などとやっているうちに治療は終わる。クラリスより格段に早かった。やはり魔力の質が違うと、これだけの差が出るか。


「さすがはAランクと言ったところか」


「まあな。もっと褒めてくれていいぜ?」


「調子に乗るなよ」


「――本当にそう。調子に乗らないで」


 おれとルークの間に、クラリスが割って入った。悔しそうに、頬を膨らませている。


「魔力の質が高いだけで、術式は雑だし、魔力が無駄に流れてるし、本当になってない。わ、わたしに同じだけの魔力があれば、もっと早くできたし……わたしが魔石で応急処置したあとだったし……」


 魔法の専門家としての対抗意識か? クラリスもなかなか言うようになったものだ。成長が見て取れるのは微笑ましい。


「それにそれに、ウィル様に惚れるとか、絶対ダメだから。ちょっと仲良くしてくれてるからって、調子に乗るのは本当にダメだから」


 いやクラリス。ルークの嫌味を本気にするな……。


 クラリスに詰められたルークは、神妙に頷いてみせた。


「たしかに調子に乗ってたかもな。実際、応急処置が良かったよ。かなりの重傷だったけど、お陰で傷痕も残らない。オレがやったんじゃそうはいかなかった。あれはクラリスちゃんがやったのか? 本当に大したものだよ、尊敬する」


 するとクラリスは目を丸くして、ちょっと得意げな笑みを浮かべる。


「なんだ……よく、わかってるんだ……えへへ」


「それにしても……」


 ルークはおれとクラリスを交互に見やり、にやりと笑った。妙に不快な笑顔だ。


「そうかそうか。ウィル様もやるなぁ。へー、そうかぁ」


 実際、ルークはまた不愉快な口調になっていた。


「クラリスちゃん、なんかあれば相談に乗るぜ。オレは人生経験豊富だからな。魔法じゃ君に敵わないが、それ以外なら、趣味に勉強、恋にスポーツ、なんでもござれだ」


「恋……ッ!?」


 その単語に、クラリスは雷に撃たれたみたいに反応した。


 そういえば愛や恋に興味を持っていたな。独自に研究をすると言っていた。研究対象に敏感なのは良いことだが……。


「ぜひ、お願い」


「任せとけ」


 クラリスはおれに向き直り、にこにこと上機嫌に微笑む。


「ウィル様、ルークさん、いい人かも」


 懐柔された、だと……?


 なんてことだ。おれの腹心のクラリスが、こうも簡単に……。


 やはり気に入らんな、ルークめ。


 だが利用価値はあるからな。とことん使い倒してやる。


 おれは内心穏やかではなかったが、アメリアも含め、その場のみんなは和やかな雰囲気に包まれていた。


 アメリアがベッドから起き上がる。


「ありがとう、ルークさん、クラリス。もうすっかりいいみたい。作戦会議、私も参加すればいいの?」


「ああ、よろしくアメリア。みんな、遊びは終わりだ」


 おれは気を取り直して、みんなを率いて会議室へ向かう。


 悪い雰囲気じゃない。会議中断前までのひりつくような緊張感がほぐれている。


 アメリアを誘いに来ただけのつもりだったが、思いの外、良いレクリエーションになったようだ。


 これならみんな意見も言いやすく、アイディアも閃きやすいだろう。


 いい作戦会議になりそうだ。




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次回、会議を再開したウィルたち。一番の議題は、アメリアの力をどう活かすのか。ウィルは候補を3つ提示するのでした。

『第38話 戦力強化会議』

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

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