第35話 防衛作戦会議

※ 本日より作品タイトルを変更いたしました。


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 ルークの発言に、近くで聞いていた仲間たちが不安そうな顔をする。


 それを尻目に、おれはルークに問い直す。


「どういうことだ。これだけしっかり隠された秘密基地が、どうして簡単に見つかってしまうんだ?」


 ルークはこれまでの気楽さとは打って変わって真面目な表情を見せた。


「忘れたか、ウィル様? ダミアンはもうオレが裏切ったと知っているんだ」


「すでにやつも、この秘密基地を知っていたのか?」


「いや。この基地のことは一部の賛同者以外は知らない。ただし建造に関わったやつらは別さ。ダミアンがオレの周囲を調べて、そいつらに行きついたらどうなるか」


「そんな口の軽いやつらを選んだのか」


「もちろん口の固いやつらを厳選したさ。とはいえ、相手は王様が後ろ盾のついてるSランクだ。そんなのに問い詰められたら、秘密を守れなくなるやつのひとりやふたりは出てくる」


「たったひとりでも致命的だ」


「先に言っておくが、別の場所に逃げるのは難しいぞ。移動中に見つかったりでもしたら、全員は守りきれない。誰かが犠牲になる」


「分かっている。ここで戦力を整え、迎え撃つほうがまだ望みがある」


「だから作戦が必要なのさ」


 おれとルークは頷き合う。


 おれたちは主だったメンバーを集めて、空き部屋に入った。そこに机や椅子を運び込み、即興で会議室にする。


 作戦会議に参加するのは、おれとルークの他に、クラリス、ゲン、ミラ、ママウルフだ。


 不安がっていた仲間たちは、エレンが面倒を見てくれている。きっとすぐ落ち着かせてくれるはずだ。


「まずはルーク、敵の戦力について教えてくれ」


「ああ。敵はSランクのダミアンがひとり、Bランクの騎士がふたり。Cランクの上級兵が6人だ」


 おれたちが盗賊のアジトで見た数と一致している。


 たかが盗賊や、Fランクの集団を相手にするには過剰すぎる。伝説の巨獣でも狩れそうな戦力だ。


「各人の戦力としてはどうだ?」


「ダミアンは剣に魔法にスキル、どれを取っても隙がない。完璧だ。でなきゃSランクとは言えないからな。騎士たちは、剣術特化と魔法特化で分かれてる。兵士6人は能力値は平均的なCランクってとこだが、実戦経験豊富な手練れだ。民間のCランクと同じと考えたら痛い目を見るぜ」


「要注意スキルは?」


「ダミアンのスキルがヤバい。他の連中のは、得意魔法の威力を上げたり、武器の性能を高めたりといった、言ってみりゃ普通のスキルばっかりだ。油断はできないが、特別注意を払うほどじゃない。が、ダミアンの『聖浄支配セイクリッド・ドミネーション』だけは規格外だ」


「巨獣を操るというスキルか」


「アレは、恐ろしかった……」


 思い出したのか、ママウルフは震えて尻尾を後ろ足の間に下げてしまう。


 ミラもうつむいてしまう。


「うん……怖かった。山が飛んできたみたいに大きくて、生きてないみたいに無感情で……。そいつが近くに降りたとき、あたし死んだって思った……」


 相当恐ろしかったのだろう。ミラの表情にはいつもの元気さがない。


 ルークは彼女を気遣ってか、穏やかな口調で話を戻す。


「あのスキルは、正確には、どんな魔物モンスターでも一匹だけ自由に操れるってものなんだ。一匹だけだから、最強クラスの魔物モンスター、巨獣を使ってるってだけでな」


「え、でもちょっと待って」


 ミラは不服そうに顔を上げる。


「あたしの『魔闇の絆イヴルリンク』も、魔物モンスターと仲良くできるスキルだ。なのになんで、あたしは忌み子で、ダミアンってやつはSランクなんだ?」


「ダミアンのは魔物モンスターと仲良くするんじゃない。自由意志を奪い、完全に支配下に置くんだ。邪悪な魔物モンスターを、無害な人形に変える。だから聖なる力として扱われてるんだよ」


「なんか……ずるい。一匹だけじゃなくて何匹とだって仲間になれるあたしのほうがすごいのに。それに、人形にするなんて、そっちのほうがずっと悪いやつじゃないか」


 ルークは肩をすくめた。


「権力者なんてそんなもんさ。なんでも自分らの都合にいいようにしちまう。能力値判定が最たるものさ。排除したいなにかを持ってるやつを、恣意的にFランクにしてるように見えるときもある」


「やっぱり、そんなのおかしい」


 おれはミラの肩をぽん、と叩く。


「その通りだ。だからおれたちは、それに抗うんだ」


 ルークは頷き、共感の笑みを向けてくる。


「ダミアンの巨獣は、オレのスキル『献魂の守護者ティシア・ピュグマリオン』でなんとかする。オレのゴーレムなら、倒すのは無理でも抑えるくらいはできるはずだ」


「その間にダミアンを倒せば、巨獣も無効化できるんだな?」


「そのはずだ」


「だがダミアンはスキルがなくても強い。ルーク、お前はAランクだろう。ダミアンほどじゃなくてもアテにしていい戦闘力はあるはずだな? 作戦はお前を中心に――」


「いや、そいつは無理だ」


「なぜだ」


「ゴーレムを操るのに手一杯になってるはずだ。両手で操り人形を動かしながら戦うようなもんだぜ。戦力にはなれねえ」


「ダミアンは巨獣を操りながら本人も戦っていたんだろう」


「Sランクのスキルと一緒にしないでくれよ……。巨獣をあえて無視して、ダミアンに狙いを絞るんならやれなくもないが」


「論外だな。また基地に火炎でも吹き込まれたら終わりだ」


「なら、ウィル様はどんな手を打つ? オレはまだお前らのことが分かってない。ダミアンとやり合えそうな切り札はあるか?」


 その場の全員の視線がおれに集まる。


 期待と、若干の不安の混じった目だ。


「……ダミアンとやり合えそうな者なら、ひとり、アテがある」




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本日より作品タイトルを変更いたしました。


次回、ウィルがダミアンに対する切り札として白羽の矢を立てたのは……。

『第36話 39人目の仲間』

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

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