第5話

 学校で告白してから三十分後。俺は藤堂さんの家を訪れていた。

 学校からここまでの道中は、藤堂さんの好きなゲームの話を聞いたりなどして、けっこう盛り上がったと思う。意外と彼女はゲーマーで、FPSからアクション、格ゲー、RPGなどなど、色んなゲームに触れたりしているらしく、その話を聞いているだけでもあまりゲームに触れたことのない俺にとっては楽しかった。


 これで案外、俺はゲーム配信などを見たりするのは好きなのだ。何なら大人になってからの夢は、自分で稼いだ金でゲームを買うことだと言ってもいいかもしれない。

 だから藤堂さんとゲームで遊ぶことに対する期待で胸はドキドキ、心はワクワク……という感じであったのだが。


「………………………………」


 家が近づくにつれて、次第に藤堂さんの口数は少なくなっていく。

 そしてついに、彼女の家へ辿り着いた時、藤堂さんは完全に沈黙したのであった。


「……あの、藤堂さん? 入らないの?」


 そんな彼女が心配になって、そう問いかける。

 俺の質問に、彼女はこちらをゆっくり振り返ったかと思うと、真剣な顔で口を開いた。


「あの……辻宮くん。そういえば、コンドームって持っている?」

「なんで!?」

「その……男の子をお持ち帰りするなんて初めてだから、万が一ってこともあるかと思って……」

「今日はゲームするだけって話しなかったっけ!?」

「で、でも、密室で男と二人きり、何も起こらないはずもなく……」

「なんで何かが起こるという前提なの!?」

「あ、でもコンドームなんて使ったらもったいないか……赤ちゃん欲しいし……」

「俺を追いてどんどん先へ行くのはさすがにやめてほしいかな?」


 恐ろしいのが、藤堂さんの顔を見る限り、これが冗談でも何でもなさそうなところである。

 ガチのマジで真剣な顔をしている。エロ漫画を選別する男子中学生並みのガチさだ。まあこの世界の男子はエロ漫画とか聞いたらむしろ嫌悪しそうな貞操観念の持ち主ばかりらしいが。


「とにかく、今日は普通にゲームしようよ。藤堂さんの話聞いてたから、すっげぇ俺、スパブラやってみたくてたまんねえしさ!」


 大乱闘スーパーブラザーズDX。言わずと知れた、対戦型アクションゲームである。

 たまに動画サイトとかでプレイ動画や配信を見るたびに、めちゃくちゃ面白そうだと思っていたゲームである。オンライン対戦なども充実していて、いつか金ができたら絶対に買うと決めているゲームの一つであった。


「あ、う、うん……ごめんね、えっちなことばかり言って……。う、うぅ……こんなんじゃキモいよね……」

「あ、いや、う~ん……キモ……いはキモいけど」

「あぅぅ……」


 つい正直な感想を口にすると、藤堂さんがシュンと肩を落とす。

 そんな彼女を慰めようと、俺は言葉を続けた。


「でも、俺は多少キモくても、素直で正直な人間の方が好きだな」

「……っ。あ、あのじゃあ正直に言うけど、私のこと好きになってくれた辻宮くんの赤ちゃんほしいですっ」

「正直だからすべて受け入れるとも限らないからね?」

「あぐっ。う、ひどい……」


 コロコロと藤堂さんの表情が変わる。

 学校ではぼっちだし、ちょっとクールビューティーな印象の方が強かったけど、こうして話してみるとむしろちょっとお茶目な印象で、それもなんだか好感を持てた。


「で、さ。そろそろ中、上がってもいい? ここでずっとこうしてるわけにもいかないし」

「あ、うんっ、大丈夫です。あ、あのあの……あの~」

「うん? どうかした?」

「家の中に上がったら、とりあえず辻宮くんの脱いだ靴を嗅いでも、いいですか?」

「ダメです」


 マジで何言ってんの君。

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