第38話 エピローグ

 ルクシアの力を借りて大穴を超えた後、俺たち上階層を目指す。

 その足音が聞こえてきたのは、第2階層に上がった直後だった。


「っ、ユイナ!」


「無事だったんですね!」


「シフォン! ミリャ!」


 奥にいたのは、シフォンにミリャと呼ばれた二人のクラスメイトと――


「ふむ。どうやら、私は必要なかったようだな」


 ――担任のリオン・コルニクスだった。

 先ほどの約束通り、彼女を連れてきてくれたのだろう。


 すると、二人は傷だらけの俺とユイナを見て驚きに目を見開く。


「遅れてごめん、ユイナ……でも、無事でよかった」


「間に合わなかったらどうなるかと……それにしても、その傷、もしかしてアレンくんがあの魔物と戦ったんですか?」


 とにかく無事であったことに安堵するシフォンと、丁寧に尋ねてくるミリャ。

 想定通りの質問だったので、俺は準備しておいた回答をする。


「俺はヒールを使ってなんとか時間を稼いだだけだ。実際に倒したのは……」


「えーっと、私っ!」


 ビシッ、と打ち合わせ通りにルクシアが手を上げてくれる。


「そうだったんですね……ありがとうございます、ルクシアさん。ユイナさんを助けてくれて」


「あはは、どういたしまして~、でいいのかな?」


 実際に倒したのが俺だと知っているせいか、少しだけ気まずそうにするルクシア。

 申し訳ないが、もう少しだけ我慢してもらおう。


 と、考えていると――


「それに、アレンくんも」


 続けて、ミリャと、そして隣にいるシフォンも俺にも頭を下げてくる。


「俺に? 倒したのはルクシアだぞ?」


「だとしても、です。それだけ傷だらけになってでも、ユイナさんのために魔物に立ち向かったんですよね? 私たちでは、恐怖で一歩も動けなかったのに……ユイナさんを守ってくれて、本当にありがとうございます!」


「…………」


 思わぬ形で感謝されてしまった。

 ふと視線を上げると、ルクシアは悪戯っぽく、ユイナは優しく笑っていた。

 まるで、どういう形であれ、俺の功績が認められて嬉しいかのように。


 するとその時、


「その辺りの話は後だ。ひとまず上に戻るぞ……あちらはあちらで、少々面倒なことになっているからな」


 話を遮るように、毅然とした態度でリオンが告げる。

 その言葉に反応したのはユイナだった。


「面倒なこと、ですか……?」


「すぐに分かる。行くぞ」


 先導するリオンに従い、俺たちは上階層を目指す。

 その途中、シフォンとミリャはユイナに対し、簡単に経緯を説明していた。


「あのね、私たちが来るのが遅れたのとも関係あるんだけど……」


「実は、先ほどの魔物が上階層にもう一体現れたんです」


「え、ええっ!? それって、大丈夫だったの……?」


 不安そうに尋ねるユイナ。

 自分があれだけの経験をしたのだから当然だろう。

 だけど、


(……も、ちゃんと進行していたみたいだな)

 

 初めから事情を把握している俺は、戸惑うことなくリオンの背を追うのだった。




 数分後。

 第1階層に辿り着くと、そこは騒然となっていた。


 俺たちを除く全クラスメイトが集まり、驚愕と戸惑いの表情で、中心にいる人物――グレイ・アークを見ていた。


 彼らは各々に発言する。


「嘘だろ、こんなことありえるのか……?」


「あのグレイが、ワーライガーを倒した?」


「いやいや、そんなことどうでもいいだろ!? だって、聞いたことねぇぞ――」


 続けて、最後の一人がこう叫んだ。



!」



 ――そう。

 グレイ・アーク。

 『ダンジョン・アカデミア』の主人公である彼は、世界唯一のダブル・ジョブという特徴を持っている。


 ワーライガーとの戦いにおいて、大切な幼馴染たちがピンチになる中、土壇場で彼は【魔法剣士】と【バッファー】、二つのジョブに覚醒する。

 主人公だけに許された、いわばチートである。

 そしてその二つのジョブを組み合わせた――つまりグレイにしか扱えない奥義によってワーライガーを討伐。

 その奥義は覚醒状態で撃てた偶然の代物であり、グレイ自身ですらその真価には気付けていない。


 だからこそ、自分に二つのジョブが目覚め、ワーライガーを倒した事実を信じられないまま、ああして立ち尽くしているのだろう。

 周囲の言葉を聞くに、上階層で発生したイベント自体はゲームと変わらなかったようで、同じく【魔法剣士】と【バッファー】を発現したようだ。


 それを聞いた俺は「ふぅ」と息を吐き、『ダンアカ』のプロローグがしっかりと終わりを迎えたことを悟る。

 色々とアクシデントが発生した一日だったが……なんとかここに辿り着けて一件落着といったところだ。


(ようやく、『ダンアカ』が始まるんだな……)


 俺はグレイを見つめながら、そんな感想を抱くのだった。



 ◇◆◇



 そこからの一週間は、目まぐるしく過ぎ去っていった。


 まず、ユイナがワーライガーに襲われていたことを知ったクラスメイト達は驚いた後、俺とルクシアが彼女を助けたと聞き次々と称賛の言葉をかけてきた。

 レベル35の魔物を倒したという事実自体は、「ルクシアだから」の一言で全員納得していたため、特に何の問題もなかった。

 ルクシア様様だ。


 それよりも、大変なのはグレイだった。

 落ちこぼれだったはずの彼がワーライガーを倒し、さらに世界初のダブル・ジョブとなった。

 この事実はクラス、学年、そしてアカデミーを超えて国中にも轟く。

 ここから幾つもの新たな因縁が生まれ、彼は物語の中心に据えられていくだろう。


 ちなみにこの一週間、俺はダンジョン攻略や鍛錬を控えていた。

 今回は魔力枯渇寸前で済んだとはいえ、短期間で二度目の重体。

 保健医のエリーゼからゆっくり休むように強く言い渡され、ようやく休養期間を終えたところだ。

 ちなみにダンジョン実習後、俺とユイナが保健室に向かった際、俺の状態を見て心配したエリーゼが全力で抱き締めてきて窒息死しかけるような一幕もあったが(何によって窒息していたかは語るまい)……それは置いておくとして。


「んー!」


 早朝、登校前。

 ようやく全快した俺は、グッと伸びをしながら、充実感を感じていた。


「二体目のワーライガーが出た時はどうなるかと思ったが……なんとかシナリオを修正できてよかった」


 最大の貢献者をルクシアとしたことで注目からは逃れられたし、グレイを取り巻く環境も『ダンアカ』のストーリー通りに進んでいる。

 当然、モブの俺が物語の中心に連れていかれることもなく、外野から安心してグレイを観察させてもらっていた。

 まあ一応、ユイナに関してだけは、ダンジョン実習後、二人きりで話している時などに妙な反応をされることがあり、それだけが不可解ではあるのだが……


「なんにせよ、万事順調だな!」


 アレンに転生してから多くのことを体験し、時にはゲームのシナリオから外れそうになったこともあった。

 しかしそれを何とか修正し、その上で俺はしっかりと最強への道を進めている。

 だからこそ、ここからは何事もなく進んでほしいと、そう強く思った。


「よし、やるぞ」


 そう力強く意気込む。

 だけどこの時の俺は忘れていた。

 いや、きっと無意識のうちに忘れようとしていたんだ。


 とうの昔に俺が、プロローグイベントなんて些細に思えるほどの変化を生み出してしまっていたことを――――




 ――それは、その日のホームルームでのことだった。


「「「………………」」」


 クラス中の全員が言葉を失い、呆然とした表情で教壇の前に立つを見つめていた。

 輝くような銀髪を後ろで結い、鋭い蒼色の瞳を持ち、ステラアカデミーの制服に身を包んだ、がゆっくりと口を開く。



「既にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、改めて。私はアイスフェルト皇国の第二皇女、リリアナ・フォン・アイスフェルト。本日からステラアカデミーに通い、このEクラスで皆様と共に学ばせていただきます」



 一度言葉を切った彼女は、静かに教室中を見渡し――その視線を俺に止めると、ニコリと微笑んだ。


「どうぞ、よろしくお願いいたします」


「…………ははっ」


 思わず、乾いた笑い声が出る。

 けど、それも仕方ないことだろう。

 だって――――



 きっとこの瞬間から、こちらの意志なんてものは関係なく――俺は強制的に、この世界の表舞台に引きずり出されることになる。



 歪んだ現実シナリオの終着点は、まだ誰も知らない。




『死にゲー世界のモブに転生した俺は、外れジョブ【ヒーラー】とゲーム知識で最強に至る』 第一章 完



――――――――――――――――――――――――――――


【後書きと、大切なお願い】


これにて第一章は完結です。

ストックが0の状態から連載開始した本作ですが、たった二週間でここまで書き切れたのは間違いなく皆様の応援あってこそ!

本当にありがとうございました!!


そして第二章についてですが、プロットが作成でき次第、1週間以内に再開する予定です。

楽しみにお待ちいただければ幸いです!



最後に、もし本作をここまで読んで、


「第一章が面白かった!」

「まだまだ成長して無双するアレンが見たい!」

「早く第二章を読みたい! なんなら第一章以上のペースで更新してくれ!」


と思っていただけたなら、



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この二つを行い、どうか本作を応援していただけないでしょうか?

ランキングが上がると、より多くの方に本作を届けることができます!

皆様の応援が何よりも作者のモチベーションとなり、執筆の励みになっています!

恐らく、皆様の思う数万倍に!

ですのでどうか、私が第二章を執筆するための原動力をいただけると幸いです!!


図々しいお願いかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします!!

それでは、また第二章でお会いしましょう!!

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