第18話 ヒール×裏テクニック=超速成長

 鍛錬場案内と『不死人形」の紹介を終えた後は、そのまま放課後になった。

 リオンは既に鍛錬場を後にしたものの、生徒たちは全員この場に残り、さっそく鍛錬を始めることに。



「ウィンドカッター!」


「突閃!」


「ストーンショット!」



 様々な掛け声と共に、不死人形への攻撃が繰り返される。

 生徒たちはレベルも技術も十分ではないため、表面に浅い傷をつける程度しかできていない。

 それでも確かな手応えを感じているのか、楽しそうに鍛錬に励んでいた。


 その中で、俺だけが鍛錬場の片隅で静かに実験を始めていた。

 現在、俺のレベルは21と、Eクラスの中では最上位に入る。

 ファイアボールや瞬刃を使うところはもちろん、も見られたくはなかった。


 まずは至って普通の方法から。



「ファイアボール」


 放たれた炎の球が、不死人形の表面を黒く焦がす。


「瞬刃」


 振るわれた刃が、焦げた表面に斬撃の痕を残す。



 ひとまず不死人形にダメージを与えられたことを確認したところで、


「さあ、本番を始めるか」


 ゲーム内のシステムを思い返す。

 『不死人形』の基本的な使用方法はリオンが説明した通り、攻撃を加えることで熟練度を稼ぐというものであり、その設定はゲームでも存在していた。

 だからだろうか。『ダンアカ』では鍛錬場にキャラクターを放置する際、二つのスキルを事前に選択して熟練度を上げさせるシステムだったのだが、その時、攻撃スキルしか選択することができなかった。


 しかし、本当はそれ以外のスキルも――回復魔法だって効果はあるんじゃないか。

 初めて設定を聞いた時から、俺はそんな疑問を抱き続けていた。


 というのもだ。

 ヒールの基本効果は、魔力を持つ生命体や魔法の復元力を強めること。

 通常のマジックアイテムの場合、様々な魔工学用品が組み合わさっていることで原型――つまり復元先が存在しないが、『不死人形』は違う。

 これは煌血竜という強力な素材のみを使用して作られた、今もなお生きる魔工生命体とも言える逸品。

 なら、『不死人形』にだってヒールは通用するはずだ。


 これは、以前の【駆け出しの迷宮】で検証できた二つ――

 魔法をヒールで強化したり、闇属性相手にヒールを発動すると攻撃魔法に転ずるなど、ゲームにも登場していた仕組みとは根本的に違う。

 正真正銘、ここがゲームから現実となったことで初めて検証可能となった仮説。

 だからこそ、成功した時の恩恵は計り知れないものになる。



(もしこの仮説が正しければ、俺は大きなアドバンテージを得られるはずだ)



 小さく息を吐き、詠唱する。


「ヒール」


 体中から魔力が抜けていく感覚。

 自分ではなく他者に発動している時特有の抵抗感。

 そして数秒後、俺の前には傷一つない『不死人形』の姿があった。


「……成功だ」


 小さく呟いた言葉とは裏腹に、胸の中では大きな興奮が渦巻いていた。


 これは間違いなく、ゲームの世界では決して見ることのできなかった光景。

 攻撃スキルでダメージを与えた後、回復魔法で復元することによって、永久のサイクルが実現可能になった。

 これで二週間後のダンジョン実習まで、『不死人形』相手に効率的に特訓を重ねることができる。


「いや、それだけじゃない」


 基本的にはダンジョン攻略の方が成長効率がいいのは変わらないが、条件次第では上回ることだってできるかもしれない。

 特に新スキルの習得時など、特定のスキルレベルを上げたいときに限っては、より効率的に成長できるはず。

 つまりこれは、ヒールを使える俺だけに許された、無限に成長し続けるための特別な方法。


 俺が最強を目指す上で、最高のピースが手に入った。


「――よし、やってやるぞ!」


 興奮冷めやらぬ中、意気込みと共に俺はグッと拳を握りしめた。

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