厨二病転生 〜もらったチートスキルはカッコいい演出に使うため。気づいた頃には「やべぇ奴」として自国にも恐れられてた〜
もかの
第1話 チートスキルはカッコよさのため
ドオォォォンッッ!!
先程まで晴れていたクランドル王国に、突然暗雲が立ち込めたかと思うと、すぐ近くで特大の稲妻が空を駆け下り平原に落ちた。
浅く生えた雑草が広範囲で燃え広がる。
「な、何事だ……ッ! まさか、魔族!?」
今日付けで城門警備に就いた新人衛兵は、慌てた様子で平原に出る。
世界の終焉のごとく炎が上がる平原に絶望の表情を浮かべていると、一人の青年が歩いてくる。
漆黒のロングコートに長ズボンという、全身真っ黒コーデ。ポケットに手を突っ込んで、不敵に笑っている様子がうかがえる。
腰には、これまた漆黒の鞘があり剣が刺さっていた。
「あぁ……お前は知らないのか?」
すると、先輩衛兵がため息をつきながら歩み寄ってくる。
こんなにも最悪な光景に何をそんなに冷静に……、と新人衛兵が驚く。
「あれ、全部カッコつけてるだけなんだよ」
「…………え?」
極めて分かりやすく説明されたはずなのに、全く理解できなかった。
「あいつ、剣で相手を切り裂いた後に、その勝利演出で上級魔法使ってんの」
「すみません。人の言葉で喋ってもらいたいのですが」
上級魔法は、魔法使いですらなかなか使える者はいない。
それを演出のため、という理由だけで剣士が使っているらしい。
「ふっ――口程にもない奴だったぜ……」
衛兵たちの横を通り過ぎる時、わざとらしく鼻を鳴らしながら国に帰っていった。
「あ、あなたは一体……!」
新人衛兵が呼びかけるが、謎の剣士は振り返らない。
当然、「多くは語らない」のほうがかっこいい、と判断したからである。
「はぁ……あいつは一年前に急に出てきた冒険者なんだが、いつもド派手な演出ばかりしやがるんだ。でも、最速でSランクに到達した実力派冒険者なんだよ。認めたくないけどな」
「そ、そうなのですか!?」
「あぁ……だから王国も、面倒くさいあいつにたくさんの依頼を頼むようになったりしてんだよ」
そんな衛兵たちの話を魔法で聞き取る謎の青年――ネルは、この世界に来た時のことを思い出しながら歩いていった……。
◇ ◆ ◇
気がつくと、森の中で眠っていた。
明らかに日本とはかけ離れているその空間に、ネルは夢の中で女神のような奴に話しかけられたことを思い出す。
「なるほど。ここは異世界か」
前世、日本では厨二病を拗らせていたネルは、実際がどうであれ早速そう飲み込むことにした。
夢の内容も、夢じゃないと思い込んだ。
「たしか……『最強のスキルを与えました』って言ってたよな」
ステータスオープン、と口にしてみる。
日本で何度言っても開けなかったステータスが現れた。
そして【スキル】の欄には、『全魔法使用可能』の文字があった。
「こりゃ確かに、最強のスキルって言うのも頷けるわ」
試しに上級魔法を唱えてみる。しかし一向に発動しない。
どうやら魔力が足りていないらしい。魔法は使用可能でも、魔力が無いことには使えないようだ。
せっかくなので、魔力はこれから増やしていくとして、ネルはこの世界に転生したからには何か目標を決めようと考える。
女神に「魔王を討伐してください」と言われたのは覚えているが、それを目指すだけというのは面白くない。
「クク……せっかくすべての魔法が使えるんだ。日本の厨二病たちの夢――いや『世界に与えられた使命』を果たすために使ってやろうじゃないかッ!」
右手で顔を覆い、背中を丸めながら妖しく笑う。
「しかし……魔法を使って多くの敵を一撃で葬るってのも、チートキャラ感のあるカッコよさだが、この俺が目指す厨二病流儀はソレじゃない……やはり剣で一刀両断、それしかないな」
数秒で答えを見つけ、ネルの今後の方針が決定した。
数多のラノベで身につけたカッコいい剣技を身につけ、カッコいい魔法で演出をつけるために魔力総量を増やす。
ネルの厨二病道を突き進むべく、彼は一年かけて、誰にも見つからない地で修行を積んだ。修行をして手に入れた力だとバレると、途端にダサくなると思い、絶対にバレないよう努力した。
その結果、「ぽっと出の新人が強すぎる」と騒がれ、恐れられたが、まぁそれはそれでカッコいいか……と思い直し、彼の目論見は果たされた。
今では、世界に自身のカッコよさを見せつける、いや、魅せつけるためだけに旅をするようになっていた。
◇ ◆ ◇
時は現在。
「……王よ」
王室から真っ赤に染まったクランドル中央平原を覗きながら、サンド宰相が国王に話しかける。
「彼は、我が国を侵略する気はない……のですよね?」
「…………余はそう思っておる」
ただの冒険者が、王国からほど近い場所に火を放てば一発で牢屋送りだろう。
しかし、ネルは王国随一の冒険者。追い出せば王国が危うくなる可能性も十分にある。
それにネルは、王国からの依頼に初めは渋りながらも結局全て受けてくれる。
まさか「国の依頼をただで受けるのはダサい。だが、断るのはもっとダサい」という考えによる行動だとは思わない王国にとって、使いやすい駒とも言える。
「……まぁ、もうしばらく様子を見てみようじゃないか」
「楽しんでおられませんか?」
「まさか」
変なやつだが、確かに強い。
国王という立場ながら、見る分には最高に面白いというのが本音であった。
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