人質として隣国に嫁ぐことになった王女ですが、嫁ぎ先の相手も女の子でした

笹塔五郎

第1話 無理やり

 少し大きめのベッドの上で、私――レフィリナ・テルノートルは身動きができないように押し倒されていた。

 頭の腕では手を交差するようにして、文字通り――力ずくで動けないようにされている。

 そんな私の視線の先には、私より一つだけ歳が上の少女がいた。

 長く艶のある黒髪、濃い紅色の瞳が、真っすぐと私を見据えている。

 少女――果たして、そう言ってもいいのだろうか。

 身長は、おそらく私よりも頭一つ分くらいは高いだろう。

 身体つきを見ても、私に比べたら――随分と大人びていると言える。

 もっとも、それは私が小柄だからなのかもしれない。

 残念ながら、これから成長する可能性も低い――今は、そんなことを気にしている状況ではないのかもしれないけれど。


「それで全力なのか? お姫様は随分とか弱いんだな」


 くすりと煽るような口調で、少女――オリエル・ランベルトは言った。

 実際、彼女は私の両手を右手一つで押さえてしまっている。

 いくら体格に差があるからといって、ここまで簡単に押さえられてしまっては、私も反論の余地がない。

 本気で抵抗しているつもりだが、一向に手が自由になる気配はなかった。


「……こんな風に押さえつけて、私をどうするつもりですか?」


 努めて冷静に、私は問いかけた。

 ここで下手に感情的になったところで、何も解決しないことは分かっている。


「そう怯えることはない。ちょっとした遊びだ」


 オリエルもまた悪戯っぽい笑みを浮かべると、ゆっくりと顔を近づけてくる。

 それこそ、唇が触れ合うような距離になったところで――私は思い切り膝を上げた。

 彼女の腹部を狙った膝蹴り。

 だが、空いていた左手で簡単に防がれてしまう。

 そのまま、私の膝から腿にかけて撫で上げられて、思わず足を下げてしまった。


「足癖が悪いな、嫌いじゃないが」


 何故だか、抵抗するたびにどんどん彼女を喜ばせてしまっている気がする。

 けれど、抵抗せずにただ受け入れることだって――できるはずもなかった。


「いい機会だ。誓いのキスくらいは交わしておこうか――これから、お前は私のモノになるのだから」


 言うが早いか、オリエルはそのまま私の唇を奪った。

 ――より一層、抵抗したつもりだったが、彼女の方がやはり力が強く、腕の拘束は外れそうにない。

 女性同士で、無理やり口づけを交わされるような状況――どうしてこんな状況に陥ってしまったのか。

 私の方が、説明してほしいくらいだった。


   ***


『テルノートル王国』はいわゆる、小国である。

 大陸内においては山間に近く、隣接するのは大国の『オルヴェルタ帝国』であった。

 それこそ国力が圧倒的に違う。

 仮に侵略戦争でもかけられることになれば、王国の勝機は限りなく薄いものであった。

 当然、王国としてもそんな事態を避けるために模索してきた。

 情勢はその都度変化し、時には戦争の一歩手前になることもあったが――かろうじてそれだけは避けてきたのだ。

 今回もまた、王国は帝国側に従う姿勢を見せることになる。

 ――その条件の一つとして、帝国貴族である『ランベルト家』に王族を一人、嫁がせることになったのだ。

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人質として隣国に嫁ぐことになった王女ですが、嫁ぎ先の相手も女の子でした 笹塔五郎 @sasacibe

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