第84話 謝罪

 新人類が去り、トーマは一人立ち尽くしていた。

 トーマも無我夢中で濃いすぎた時間を過ごしていたため、燃え尽き症候群のようなポッカリと心に穴が空いた状態だった。


(ゼロは倒せただろうか……。いや、新人類が回収したからには何かしら直す手段はあるだろうし、油断はできない。だけど、あれだけ痛手を与えたんだ……!地底世界のふく女王様と同じくらいの実力になったんじゃないか……?)


 以前ふくの実力が新人類を撤退させる事が精一杯だという事を思い出し、自身も撤退に追い込んだ事に自信を持つ。

 トーマは市街地に戻ろうとしたが、危機感知が働き、足が動かせなかった。

 トーマはなぜ危機感知が働いたか不思議に思うが、一つの結論に到着した。


「俺が街に帰る事で街のみんなが犠牲になるかもしれないんだ……。新人類以外を守ると誓いを立てたから、街の人が危害を加えられるのは危険だという事……。街に戻らず、ここで待つか……?お腹すいたしなあ……。ん……?誰か来る」


 遠く離れた位置のためよく見えていないが、二人組だということが分かる。

 暫く待っていると、アドラとノナの姿だと分かり、トーマは走って合流する。


「アドラさん!ノナさん!どうしてここに!?」


「いやいや、キミのデバイスが壊れて急いで向かったんだよ。もしもの事があってはトールに顔向できないしね」


「……ごめんなさい」


 突然トーマが頭を下げた事にアドラは目をまん丸にする。

 頭を下げたまま、トーマはこれまでのことを思い出して口を開く。


「俺、アドラさんにずっと失礼なことしてました。色々助けてもらっていたのに、ワガママばかりで……本当にごめんなさい……!」


 アドラは鼻で大きくため息を吐くとノナと目を合わせ、二人でトーマの背中に手を置く。


「若いというのはいいことだ。私はいつもの事だからなんとも思ってはないが、反省できるというのはキミの良いところだ」


「そうですよ。わたしたちはずっとトーマ君の味方です。困っていたら助ける。それが獣人探偵事務所のオシゴトですから!」


「慈善事業ではないのだかね、ノナ君?」


「う……。お、同じウサギ族ですから割引ですよ……!ゴメンナサイ」


 この夫婦漫才のようなものを見ていると父親が生きているときのことを思い出す。

 物心がついたばかりの曖昧な記憶ではあったが、家族が幸せでいっぱいだたことは確かである。

 そして、父親が死んだ日から状況は大きく変わってしまい、トーマがハヤトにイジメられるようにもなった。

 トーマをどん底にまで突き落とし、新人類を生み出すため【ゼロのスペア】だったことをこれまでの経緯から察する。

 父親の仇はゼロであるのは正しいが、本当の敵は新人類であり両親の仇だと再認識する。

 そして眼の前にいる二人も新人類から旧人類と獣人を守るため活動している。

 改めて地底世界だけでなく、地上の獣人にも味方がいることに安心した。


「あ、笑った!」


「え……?俺は普通に笑うよ?」


「だって、わたしたちといる時はそんなふうに笑ったことないもの。やっと友だちになれた……かな?」


「まぁ、そんなところで……」


 初めて笑ったと指摘され、照れ笑いを浮かべつつノナから顔を逸らす。

 そんなトーマを見て二人はクスリと笑うのだった。


「しっかし、トーマ君は随分と姿が変わったわね~。月兎のようでそうじゃない、ってカンジかな?」


「片目が金の瞳だからこそ新人類の力を持ち合わせているのだろう。新人類を撤退させるだけのことはある」


「この紅い手甲はデバイスの代わり?」


 トーマは両手につけたデバイスが黒色から燃えるような紅色に変色していることに気がつく。


「はい。オクトさんからもらってた時は真っ黒だったんですが、何故か紅く変色したんですよね……」


 アドラはトーマのデバイスを少し眺めるとラムネ棒を咥えて顎を左手で触る。


「君が月兎になったとき、強化体として【エンハンス】を長時間使用でミヤコさんの形見のメモリーに【エンハンス】の情報が蓄積されてしまったのだろう。それと君が獣人になるときに生成された君の魔障石――エリクシルとメモリーが結合したと推測していいと思われる。それで【エンハンス】の色が継承されたのだろう」


「じゃ、じゃあ……母さんは俺の力になっているってこと……?」


 アドラは大きく頷くと胸押さえて涙ぐむ。


「オクトさんが月兎の力を使わせたがっていたのがわかった気がします……」


「そうだね、オクトの思っていることは私にも解りかねるが、向こうの世界ではデバイスの技術がこちらと同程度、或いはそれ以上だから策はあったのだろうね」


「ふうん。トーマ君が私を見て発情しなくなったのは何か原因あるの?」


「え゙……」


 トーマは以前ノナの香りを嗅いだことで大失態をしてしまったことを思い出し、鼻を押さえて離れる。

 アドラは頭を抱え、大きくため息を吐き、ノナの額を軽く小突く。


「無闇矢鱈にヒトを発情させないの。……というより君とトーマ君は月兎だから危ないはずなんだがな……。やはり半分新人類が入っていることが影響しているのかもしれないね」


「新人類になると発情しないのですか?」


「彼らの色恋沙汰や性奴隷とかを聞いたことないだろう?長命種の究極系なのだろう。煩悩の一つを取り払うことができたのは成果と言っても過言ではないだろう」


「ツマンナイですね」


(このヒト……恐ろしいヒトだ……)


 トーマはノナを別の意味でも恐ろしい人物だと認識するのだった。

 そして地底世界にいる月兎レプレとぜんぜん違う性格にニンゲンらしさを見出すのだった。

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