第67話 竜の意思を持って
レプレは魔法を乱発するようなタイプではなく、的確に射撃する性格だった。
肉弾戦が苦手と言いつつ、トーマの動きには完全に着いていくことができ、フェイントにも引っかかることが無かった。
おまけに両脚と両肩の装甲は既に【元に戻された】。
トーマは全身に力を込め、銀色のオーラを迸らせ、レプレに向かって一直線に突撃する。
もちろん迎え撃つ準備も既にしており、指鉄砲を構えていた。
トーマは地面を強く蹴り飛ばし、さらに加速させる。
「残念♡それじゃあ君は勝てないよ♪」
レプレがウィンクをした瞬間、トーマの姿が消える。
しかし、レプレはそれを読んでいた。
指鉄砲を頭上に構え、ノールック射撃をする。
トーマのフェイントは見破られ、胴体の装甲が弾け飛ぶ。
「あははっ♡まだまだ子どもねぇ……♡残念だけど……それもハ・ズ・レ……♪」
トーマの捨て身の一撃を黒い棒で受け止める。
胴体の装甲が弾け飛ぶのは想定内であり、そのまま踵落としを放つがレプレはそれすら見切っていたのだ。
そして黒い棒はめえの鎌のように水色の棒が延長されていた。
それは針のように細長い槍であり、受け止めた体勢のまま軽く弾き上げ、トーマの腹部を貫いた。
「あ゙っ゙……!?」
痛みのあまり呼吸が乱れ、もがき苦しむ。
レプレは槍を引き抜き、瞳の煌めきを失う。
それと同時に銀色の髪の毛は黒い色へと変わる。
「わかった?わたし、そんなに弱くはないよ?見た目はウサギだけど、竜人の血も継いでるからその辺のウサギと一緒にしないでね♪」
「誰が一緒にしないでね♪だ!倒してどうする!」
「いや……大丈夫……です」
トーマの腹部は槍で貫かれているはずだったが、何事もなく傷は塞がっていた。
トーマは何故このような事になっているのか不思議にしているとレプレが目の前に立つ。
「わたしの魔法はね?魔力を【元に戻す】って言ったでしょ?余った魔力は傷を治す方向に向かわせたから。……魔法の雰囲気伝わった?キミはまだニンゲンだから魔法は使えないんだろうけど……」
月兎の状態と全然違うレプレの話し方に混乱しながら魔法を受けると言う実体験をした。
メモリーによる攻撃とは大違いの強さであり、間接的な攻撃はトーマの戦闘スタイルと非常に相性が悪いこともわかった。
「最近……負けてばかりだ……」
「当然だよ!キミは真っ直ぐで素直な攻撃ばかりだもん!アレじゃあ魔獣くらいしか倒せないでしょ?」
レプレのド直球の答えは心にグサリと刺さる。
フェイントなども入れていったがそれを単調だということだ。
そして、魔獣しか倒せないと言うのも図星である。
月兎の力を持っていても倒せたのは怪物だけ。
トーマは碧いメモリーを見つめて呟く。
「もしかして……このメモリーは、そんなに強くないの……かな?」
「そんな事はないさ。アンタはまだ、その真価を発揮していない」
「真価……?」
「アンタは何のためにその道具を作ったんだ?ただ強くなるだけか?本当の力を使えた時はそんなものじゃないハズだよ。魔障石はそれだけ超高エネルギー物質だからね」
オクトの指摘を受け、怪物を倒した時のことを考える。
(ベヒーモスを倒した時は……モエさんに危害が加わらないように戦った……。負けた時は……ただの切り札的な使い方をしていた気がする……。初めての時は……みんなに応援されたっけ……?)
トーマは碧いメモリーを見て、月兎となった手脚を眺める。
ここまで戦ってこられたのは自分のためではなく、他人のためであること。
最初は【何でも願いを叶える】というものと好きな姿になれるというものに惹かれて【シャドウズ・オブ・ロンギング】に参加した。
いじめっ子のハヤトをエキシビジョンマッチで勝ち、レスキューミッションではゼロの野望を阻止する為に奔走したが、レイド用の怪物にモエが捕食されかけた時、火事場の馬鹿力のようなものが湧き上がった。
その後はエンハンスがなければ死んでいた。
ゾンビミッションの時も暴走したモエを救う為、灼熱の一撃をレイド用怪物に致命傷を与えた。
トレジャーミッションはモエとハヤトを守る為ドラゴンを倒し、タワーディフェンスミッションも精霊の苛烈な攻撃からモエを守る為、氷結と雷を操った。
最終ミッションでは自分の代わりにモエがリタイアし、ゼロの圧倒的な力の前にリタイア仕掛けた際、かつての戦友より発破をかけられ、最強のメモリーとゼロの牙城を崩した。
トーマの心にはいつもモエがいることを再認識し、再び立ち上がる。
レプレの前に立ち、頭を下げる。
「もう一度……稽古をお願いします!」
「うん!良い目になった!もちろ――」
――ドゴォォォォンッ……
突如爆発音がトーマとレプレの耳に入り、その方角へと身体を向ける。
状況を察したふくは感知範囲を大きく広げ、その姿を捉える。
「稽古はもう良い。魔物相手にそれを確認するのじゃ」
「魔物……?魔獣じゃなくて……?」
「魔物はな、『失敗作』のことを指すんだ。ある目的を与えられ、ディバイドエリアの隙間を通ってくる。魔獣より遥かに強いし、今後新人類に対抗するならコイツに勝てないとお話にならないぞ」
「……俺、行きます!大好きな……ケモノ達の世界を壊させたりしない……!守ってみせます!」
その言葉を聞いたふくは満足そうな笑みを浮かべ、めえに指示を出す。
めえはその言葉に安心したのか表情を和らげ、トーマの前に立つ。
「これより侵入した魔物を討伐する。メインはトーマ。サブでポチおと『にゃん』。斥候に『くろんぼ』を向かわせる。状況により戦闘に参加させる。以上だ。相手は魔物の為、注意するように」
「りょーかい!さて、トーマ。油断も手加減もするなよ?すぐに死ぬからな」
「は、はい!」
残りの二人が合流することを待たずに魔物が出たと言う場所へと急ぐのだった。
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