第4話 他の参加者たち
突然【飛ばされた】トーマとハヤト。
二人はごろごろと転がる。
「てて……なんだ……?」
「トーマ!てめぇ何をしやがった!」
すぐに立ち上がったハヤトはトーマに詰め寄り、胸ぐらをつかもうとすると丸太のように太い腕によって制止させられる。
角刈りでいかにも職人といった風貌をしているおじさんだった。
「誰だよクソおやじ!勝手に割り込むんじゃねえって!ただじゃおかねぇぞ!!」
「君こそこの場で騒ぎを起こしたら、ただじゃすまないと思うんだが?」
おじさんが親指で背後を指さすと、五人の男女と七人の黒ずくめの男が立っていた。
ここにいる男女と同じ数の黒ずくめの男達を見て、トーマは気が付く。
「あれは護衛担当なのか?」
「そうだ。SP……聞いたことぐらいあるだろう?私生活を守るために一人つけてくれる。ゲームマスターほどじゃないにしてもかなり強いと見えるよ」
トーマはこのおじさんも只者じゃないと雰囲気で察すると、ゲームマスターと黒ずくめの男、そしてみすぼらしい格好をした男が現れた。
トーマは男に対して胸の奥でざわついたような気がして身震いをする。
「やあやあ!みんな集まっているね!今日から新シーズンだ。キミたちには期待しているよ!さて、まずは自己紹介をしようか!キミからどうぞ?」
トーマがゲームマスターに指を指され、立ち上がる。
クラスの自己紹介でも緊張するトーマにとって、年齢も性別も違う参加者たちの視線を受け喉の奥が詰まるような感覚に陥るが、そこは頑張って声を振り絞る。
「俺は……トーマ。高校生です……。よろしく……」
赤面しながら自己紹介を終えると次の人を指名される。
「俺はハヤトだ!コイツと同じ学校出身でサッカー部でレギュラーしている!」
サッカー部なだけあってサクサクと自己紹介を済ませるのはさすがだとトーマは感じていると、先ほどハヤトを止めてくれたおじさんが立ち上がる。
「ワシはマサル。見ての通り土方をしている。よろしく頼む」
その後次々と自己紹介していくと一人の女の子にその場にいるほとんどが釘付けになる。
「えぇっと、みんな知ってるかもだけど、モエっていうの。よろしくね!」
男たちは頬を紅潮させ、鼻の下を伸ばし、歓迎する。
そして最後の男が自己紹介をする。
「お前たちとなれ合うつもりはない。以上だ」
それだけ言い切ってドカッと座り込む。
マサルがトーマの耳にささやく。
「コソコソ……(サクライ・レイだよ!つい最近、釈放されたっていう元殺人犯だ。近づこうなんて考えるなよ!)」
それを聞いたトーマは固唾をのむ。
先ほどから感じていた威圧感はそういうことだった。
レイの自己紹介に対して残念そうな雰囲気を醸し出しているゲームマスターだったが、すぐに気を取り直して説明をする。
「それじゃあ、今回は新シーズンのオープニングだからね。オーディエンスたちにアバターを披露してからエキシビジョンマッチをしてもらうよ!なぁに不安になることはないよ。いざとなれば簡単に君たちを制止できるから。あぁ!?もう放送始まっちゃう!すぐに【飛ぶよ】!ボクの紹介後にアバターにチェンジしてね!」
それだけ言うと急ぐように手をパンッと叩き、場所を変える。
そこはサッカースタジアムのような場所であり、空にはたくさんのモニターとオーディエンスと呼ばれる観客が見ていた。
「オーディエンスの皆様!お待たせいたしました!【シャドウズ・オブ・ロンギング】の新シリーズがいよいよ明日、開幕となります!今回のメンバーはこの八人です!まずは『数多の苦労をその足で飛び越えていけ!ラビッツファイター:トーマ』!!」
トーマの名前が呼ばれ呆然としていると、マサルが肩をつんつんと小突く。
トーマはデバイスがいつの間にか装着されており、決心する。
「トランス・オン!」
トーマの体が光に包まれアバターの体へと変化していく。大きな耳と赤い瞳、そして白い体毛のウサギ獣人だった。
鎧やスーツはデバイスの標準機能のようで、非常に軽く、車がぶつかった程度では損傷しないほど頑丈そうであった。
そしてこぶしを握り締め、オーディエンスの前に立つ。
思っていたような歓声を受けることはなかった。
それは仕方のないことである。
獣人は新人類の実験の失敗作として最底辺の存在だから。
ゲームマスターが何度も止めたのはそういうことである。
しかし、トーマは注目を浴びなくてもうれしく思っていた。
彼にとって念願のケモノフォルムだからだ。
生粋のケモナーであるトーマにはこれほど嬉しいものはない。
「続いていくぞぉぉぉ!『将来有望なサッカー選手の卵!彼の脚から逃げることはできるか!?ストライクソルジャー:ハヤトォォォォォ』!!」
「トランス・オン!」
ハヤトは身長を二十センチほど伸ばし、短髪の髪から長髪にしており、筋肉も肥大化させた別人に変貌していた。
アバターに切り替わったハヤトがオーディエンスの前でガッツポーズを決めると大歓声が沸きあがる。
人の姿はとても大人気であり、マサルもモエもその他も人の姿をしていた。
そして、最後にサクライ・レイの番になる。
「そして最後の参加者……『地獄より現れた殺人鬼。罪を償った彼は何を思うのか……!?ブラックチェイサー:ゼロ!』」
サクライ・レイは『ゼロ』と名乗っており、偽名が使えることを知った。
特段偽名を使わざるを得ないような状況ではないことと、顔が全国中継でバレているため今更ではあるのだが。
ゼロは右手を上空に掲げ、握りこぶしを作る。
「トランス・オン」
同じセリフにもかかわらず、重々しく逃げてしまいたいほどの威圧感にその場の参加者たちは押し負ける。
ゼロが黒い靄に包まれ、専用のアバターへと切り替わる。
腕で靄を振り払うと、そこには黒い狼、吸血鬼の映画で出てくるような『ライカン』の姿をしたゼロが立っていた。
オーディエンスを一目見て興味なさそうに腕を組みそっぽ向く。
完全に静まり返った会場をゲームマスターが何とかして盛り上げようと前に出る。
「さ、さあさあ皆様!今回の参加者たちの姿、目に焼き付けてくれたかな?これから参加者同士でエキシビジョンマッチをしていきたいと思うんだが、皆様は視たいかー!!?」
そう煽ると会場は「待ってました!」と言わんばかりに大歓声に包まれた。
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