ケモノの剣闘士〜白兎の戦士の願い〜
わんころ餅
第1話 退屈な日々だったが
ビルが崩壊し、周囲は瓦礫が散乱している元市街地。
男二人が向かい合って口論をしていた。
「ゼロッ!こんな事は止めにしないか!どう考えたって何もいい事ないだろっ!」
「キサマに何がわかる?この世界は俺を必要としない!そんな世界は無くなってしまえばいい!そして、新しい世界で俺は神として支配するんだ!全員が俺を認める世界にな!」
ゼロと呼ばれた男は両腕の機械に細長いパーツをセットする。
もう一人の男もパーツをセットする。
「オレは力尽くでも止めてやる!」
「キサマが俺を……?面白い、やってみろ」
お互い睨み合い、両手と頭部に白色の機械を装着する。
そして二人は同時に同じセリフを放った。
「「トランス、オン!!」」
二人の身体は眩い光に包まれる。
どんどん光が大きくなり、荒廃した街を包んでいった。
§
「こりゃトーマ!何をボーっとしちょる!」
突然、怒鳴り声が聞こえバッと立ち上がると額に何か硬いものが投げつけられ、衝突する。
その衝撃でそのまま背中から倒れ、痛みでひりひりする額をさすりながらコロコロと転がるものを見る。
チョークだった。
「ワシの授業でうたた寝こくとはええ度胸じゃのう!」
「コントロールえっぐ……!」
「当り前じゃ!ワシはこれでも甲子園球児でピッチャーしとったんじゃ!こんぐらい朝飯前じゃ……ってそんなこと言っちょる場合か!明日からテスト期間じゃ言うのになぁにを寝ぼけちょる!バツとしてこの式解いてみい!」
クスクスとクラスメイトから笑われながら教壇の黒板に立つ。
チョークを持ちスラスラと式を解いていく。
(ただの二次関数じゃん。中学校でも習ったし……)
すべて解き終え、手をパンパンと叩きチョークの粉を落とす。
「これでいいっすか?」
「え、ええじゃろう……!!」
教師の男は簡単に数学の式を解かれたことにぐうの音も出なかった。
高校一年生の二か月目の授業内容はそこまで難しくはない。
あくびをしながら席に着き、つまらなさそうに授業を受け直す。
(はぁ……つまんないな……。帰ってゲームしてたほうが楽しいわ……)
そう思っていると、突然空気が変わった気がした。
辺りを見渡していると……
――ドゴオォォォォォン!!
学校の中に突然爆発音が響き渡り、教室の中が騒然とする。
教師の男が教室の入り口に立ち、外の様子を窺う。
顔面がどんどん青くなっていき、手足が震えているのが分かった。
「お、お前たちは静かにしちょれ!か、か、か、怪物が特別きょ――」
教師の男の腹部に鋭利な棘のようなものが刺さっていた。
そしてそのまま引き抜かれ、大量の血を流しながら死亡した。
「「「キャアァァァァッッ!!??!?!?!?」」」
「「「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!??!?!?!?!?!?」」」
突然の教師の死によって教室は阿鼻叫喚となる。
音を察知した者が教室の壁を破壊して乗り込む。
肥大化した上腕に槍のような爪を備え、見るからにアンバランスな細く小さい下半身。
そして、全身が爛れているのか、皮膚や筋肉はドロドロになっており、酷い臭いと緑色の体液を噴き出していた。
「な、なんだこいつ……!?」
教室の隅に追いやられた生徒たちは現れた怪物に何もできず、受け入れがたい死を待つのみだった。
怪物の腕が振り上げられた瞬間、怪物は向かい側の校舎『特別教棟』の外壁まで吹き飛ばされた。
ゆっくりと顔をあげ、状況を確認すると、マスクのようなゴーグル、上半身を中世の鎧のようなものを着込んだ人が立っていた。
「こちらハヤマ。要救助者を発見!救助ののち討伐へ向かう!」
『ガガッ――了解』
「大丈夫かい?もう大丈夫だから!慌てないでこ――」
トーマがハヤマと名乗る男の手を取ろうとした瞬間、黒い光線に胸を貫かれ、膝から崩れ落ちた。
鎧が光の粒子となって消える。
ハヤマはマスク越しでは好青年だったが、中身というべきか鎧がなくなった彼は皺だらけの老人だった。
残ったのは老人の死体とマスクと両手に着けていたガントレットのような機械だった。
それをもぎ取り、装着する。
「お、おい!トーマ!?何をするんだ!?」
「どうにもならないかもしれないけど……俺がやってやる!」
トーマがマスクをつけた瞬間、先ほどのハヤマのような鎧が装着される。
体が非常に軽くなり、感動する。
『感知しないIDを確認しました。アップデートします』
「ゲームでも人のデータで遊ぶと怒られるもんな……。確か特別教棟に飛ばしたんだよな……?」
トーマは廊下に出て、特別教棟の外壁を確認する。
するとハヤマが張り付けた怪物はトーマを見ていた。
トーマは廊下の窓ガラスを蹴破りながら怪物に跳び蹴りを繰り出した。
怪物はトーマの跳び蹴りの速さについてこれず、再び外壁に叩きつけられる。
超人的なパワーを得たトーマは感動して両腕の機械を見る。
「すっげぇ……!こんな強くなれる装備が手に入るなんて……!ん?なんだこのボタン」
機械のボタンを押すと、両腕のアンテナのようなバイクのマフラーのような二本の棒が輝きだした。
「な、なんだかわからないけど、とりあえず……鉄拳制裁!」
右腕の動きに合わせて機械が推進力を付与し、怪物の上半身が吹き飛ぶほどの右ストレートパンチが繰り出された。
もちろんその威力は建物にも同様に大穴を開けた。
『ミッションコンプリート』
マスクから再び声がし、迷っていると、ハヤマと同じような格好をしたほかの人間も現れる。
「誰だあいつ?」
「ハヤマさんのデバイス使ってる!」
「仇を討つぞ!」
三人が一斉に飛び掛かりその拳は全てトーマに向けられたのだった。
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