夕焼けの思い出

朱色の公園、朱色の道路、朱色のコンクリート塀、朱色の駄菓子屋。朱色に染まった町。

私はこの朱色が嫌いです。

だって彼と離れる時はいつもこの色ですから。


そんな嫌いな色を眺めながら、少し苦手なお父様のところへ向かっています。

私は1人で家に帰れません。私の家はとても山奥にあります。だからお父様の車に乗る必要があります。

すごく不便ですよね。

前に「なんでこんな山奥に家を建てたんですか?」と聞いたことがあるんですけど「お前を守る為だ」の一点張り。具体的なことは何も教えてくれません。

私は大切にされているんでしょうか。それとも避けられているんでしょうか。


そんなことを考えているとお父様のご登場です。

お父様が車に乗ったまま不機嫌な顔で、「乗れ」と言います。

私は黙ってその指示に従います。いつものことです。


お父様が私が乗ったのを確認すると、手馴れた動きで扉にロックをかけ車を発進させます。

「今日は…特に楽しそうだな」

これは驚きました。今日は珍しく話しかけてくるではないですか。

「まぁ、そうですね……」

言葉尻を濁して会話を打ち切ります。

正直言ってお父様に彼の話をするのが恥ずかしいですし。

そもそも会話をするのがなんだか面倒です。

私の目論見通りに車内に沈黙が訪れました。なので私はいつもの通りに窓から街を見ます。

どれもこれも夕焼けの色。お別れの色です。


今日も楽しかったなぁ。また彼と遊びたいなぁ。

そう思うことぐらいは許されるでしょう。

気がつくと窓の外の人工物が減ってきました。私の家が近づいているんでしょうね。


坂道を登り、街灯より木の方が多い道を進み、ようやく我が家に到着しました。

そしてお父様はいつも通りに家の扉をあけ「おかえり」と言います。

だから私も言うんです。いつも通りに。

「ただいま」と

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る