復活のアーティスト

まさか からだ

第1話 崩壊の予兆

 アリアはある日、胸の奥に奇妙な痛みを感じながら目を覚ました。疲れが取れない日々が続き、心にも体にも重さがのしかかるような感覚だった。彼女は都会の喧騒に飲み込まれる日常の中で、休む暇もなく働いていた。誰かに相談する時間もないまま、ひとり耐える毎日。


 「最近、なんだか息苦しい……」


 会社のデスクでふと呟いたが、周囲の誰もが忙しそうに画面に向かっていた。アリアもまた、溜まった仕事に戻らざるを得なかった。だが、その夜、彼女の運命を大きく変える出来事が起きた。



 疲れ果てて眠りに落ちたアリアは、鮮やかな光に満ちた奇妙な夢を見た。暗闇の中に現れたのは、七つの円。各円はそれぞれ異なる色を放ちながら、規則正しく回転していた。赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍、紫──光の美しさに目を奪われていると、それらが突然強烈に輝き、彼女の体を包み込んだ。


 「これは……何?」


 目が覚めたアリアは、全身にかすかな熱を感じていた。夢が現実だったのではないかと思うほど、生々しい感覚だった。しかし、翌朝にはまた仕事の波に飲まれ、夢のことはすぐに頭の片隅に追いやられた。



 だが、その日を境に、アリアの体調はさらに悪化していく。胸の痛みや喉の詰まり感だけでなく、頭の奥が締めつけられるような鈍い痛みが頻繁に起こるようになった。さらには、夜になると体が鉛のように重くなり、まるで全身が何かに押さえつけられているような感覚に襲われた。


 「いったい、私の体に何が起きているの?」


 アリアは医師のもとを訪ねたが、検査結果には特に異常は見られず、ストレスや過労が原因だと診断された。「とにかく休むことが大事」と言われても、仕事を休む余裕はどこにもなかった。仕事もプライベートも完全に行き詰まり、アリアの心には徐々に焦りが募っていった。



 その頃から、アリアは奇妙な現象を経験し始める。電車の中で座っていると、ふと隣に座った女性から暗い影のようなものを感じた。影は彼女の肩や胸のあたりを覆い、無言の苦しみを訴えるようだった。驚いて顔を向けたが、その女性は特に変わった様子もなく、ただ疲れた表情でうつむいているだけだった。


 「気のせい……よね?」


 だが、同じような体験は一度きりではなかった。街を歩いていると、通りすがりの人々からも断片的に「重さ」のようなものを感じるようになったのだ。アリアはその感覚に戸惑いを覚えながらも、それを誰かに話すことはなかった。


 さらに不思議なことに、再びあの七つの円が夢に現れた。それぞれの円は以前よりもはっきりと輝き、回転の速度が増していた。そして、今回の夢では、七つの円が徐々に重なり合い、一つの巨大な魔法陣のような形を作り出した。その中心からは暖かい光が放たれ、アリアの胸に直接流れ込んでくるようだった。


 「何かが……整っていく?」


夢の中でそう思った瞬間、目が覚めた。奇妙なことに、胸の痛みはその朝だけはほとんど感じなかった。だが、同時に強い疲労感と、言葉にできない不安が胸を締め付ける。


 「この夢が、何かを伝えようとしているのなら……私はそれを無視するべきじゃないのかもしれない。」


そ う考えたアリアは、夢の意味を探るため、少しずつ調べ始めることにした。これが、彼女の新たな運命の始まりだった。

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