幼馴染は今日もメガネをかける
のんびりした緑
第1話
「メガネ外さない?」
「メガネ無い方が可愛く映るよ?」
男達が女の子にメガネを外した方が可愛いと伝え、メガネを外す事を促してるのが聞こえてくる。
「メガネが無いと見えないから今日もかけるよ」
俺の幼馴染である
それ自体は別に悪い事では無い。本人のしたいようにすれば良いし、アレにしろコレにしろと強要するようなモノではない。
だけど、こんな事を思ってしまうのは今みたいな周りの声が煩わしいからだと思う。
事の発端は文野がメガネを落とした時の周りの声を聞いてしまった……いや、メガネが外れた顔を周りが見たからか、或いは両方だろうか。
「わっ!?」
階段の段差に足を引っ掛けて転けそうになった時、踏ん張って転倒自体は避けたものの、メガネが吹っ飛んでいった。
「大丈夫か文野」
「大丈夫大丈夫」
怪我が無いか確認し、俺は吹っ飛んだ文野のメガネを取りに行った。僅かな時間だがメガネを外した状態の文野の素顔を見た近くに居た同級生がこんな事を言った。
「可愛い」
「メガネが無い方がもっと可愛いじゃん」
周りからメガネが無い方が可愛い。そう言う同級生たちの声が聞こえてきた。
褒めてるつもりだったんだろう。女の子が可愛いと言われること自体は喜びたいものだし、メガネを外した文野の素顔を見た率直な感想だったんだろうし。
「私が好んで使ってるメガネ、そんなにダメ……?」
だけど、文野にとっては生活の、日常に組み込まれた道具を否定された事が何よりも悲しかったのか、顔を曇らせた。
何よりも、小学校、中学校と昔からメガネで一悶着があったのに、高校になって落ち着いたと思ったら再発しそうになってる。再びメガネであーだこーだ言われてしまうのかなと、げんなりした様子が見られた。
「
「俺か?俺は文野がしたいようにすれば良いと思ってるぞ」
「どっちつかずだなぁ……」
俺の態度が曖昧なのか余計に不安にさせてしまって俯いてしまった。
でも確かにこれだと、どっちつかずで不安だな。それなら振り切って言うのが良いだろう。
周りとは逆の事を言う。逆張りとかでは無く、純粋にコッチだ。
「ちゃんと言うならメガネをしてた方が良いよ、見えないのは困るだろ?」
「宮坂はメガネ派って事?」
「?メガネの有無で文野は変わらないだろ。それなら文野らしくいられる、慣れたメガネをしてた方が良いかなって」
そう。文野らしくいられるのなら、そっちが良い。伊達メガネなんてあるんだし、メガネを道具に使ってるアニメだってあるんだから、メガネの有無で決まらないと思ってる。
「ふふ、それもそうだね。八つ当たりしちゃった、ごめんね?」
「いいよ。ま、今日はそういう日だったって思おうぜ」
「そうだね、それが良いかも」
文野から、ある程度の笑顔が戻って良かったと思った。ここで終わればムッとするような日常のワンシーンで終わった。
だけど、終わらなかった。
メガネを外した顔が可愛いと噂が流れ、それなら一目見たいと、メガネを外して欲しいと言う男たちが文野に群がるようになった。
それに抵抗するように、幼馴染は今日もメガネをかける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます