第16話
梅雨とはいえ常に降ってるとは限らず、半ばで止んだりしてる事がある。
それが数日も続けば梅雨が終わったと勘違いする人も出てくるだろうとは思う。
「……」
「どうした文野?立ち尽くしてるけど」
「傘、忘れちゃった」
困ったような様子を見せた幼馴染は、その勘違いをした1人だったようだ。この様子だと置き傘もしてないのだろう。
急に天気が崩れだしたのだから仕方ないとは思う。が、傘が無いのなら濡れて帰るしかないんじゃないか?
「濡れて帰るとか考えなかったのか?」
「やろうと思えば出来るけど、図書館から借りた本があるから出来なくてね」
「あーそりゃ厳しいか」
購入した本なら兎も角、借りてる本を濡らす訳にはいかないよな。立ち尽くしてるのもそういう事だったか。
「文野が嫌じゃないのなら、だけど」
傘をさして傘の中に入るように文野を手招きする。
男を見せようと傘だけ渡して自分は濡れて帰るという気概は残念ながら持ち合わせてない。俺だって濡れて帰る気は無い。
なので相合傘という奴だ。
「嫌じゃないよ。お邪魔しまーす」
そう言って傘の中に文野が入ってきた。
車が水たまりに突っ込んで水しぶきを飛ばす音、雨が傘に当たり弾ける音、雨の降る音。増水して用水路で激しく流れる音。
それらの音を聞きながら文野の歩幅に合わせて帰路に着いてる。
もう少しで文野の家が見えそうな所まで来た。
長い事遊びに行かなくなったが、周りの景色とか道筋、案外覚えてるもんなんだなと感じる。
「ありがとね宮坂」
静かな空気は文野から破られた。それを機に会話でもするか。気になったのがあるし。
「気にすんな。というか文野なら他の男共がこぞって誘ってきそうなもんだけどな」
今更だが三大美女の1人と言われてる文野が、相合傘が出来るのならと狙わない男はいないと思うのだが……存外居なかったようだ。
「断ったよ。下心見えてるし」
「あー……」
なるほど下心か。それが見えてるのなら善意と言えど嫌なものではあるか。
まあその中で誘いに乗ってくれたのは嬉しいが、ますます気になるので聞いてみよう。文野が嫌がらない範囲で、だが。
「その割には俺の誘いには乗るんだな」
「気心知れてるからね、ちなみにその心は?」
「メガネで雨の中走るのキツイだろ」
「ほら、気にしてる所がそこだから乗っても大丈夫だなって」
文野から見たら安全と思われたって事で良いだろうか。まあ信頼されてるのは悪い気はしない。ただ断れた男達は何を言ったんだろうか。
「逆に俺以外の男は何言ったんだ?」
「えー……濡れて帰るからと傘を押し付けようとした人。いらないって返した」
善意の押し売りは要らないとばかりに突っぱね返したのか。まあ文野の事だから犠牲になってまで傘を借りたくなかったのだと思おう。
「次は一緒に入ろうってよく知りもしない人からの相合傘の誘い」
「うわー」
「家まで来る気?って思うと断る以外無かったよ」
本当にうわーとしか言えない。
親しくなってない仲で相合傘を誘ったのか?居心地悪いし、狙いも分からないだろうから、そりゃ警戒もされる。
「ん?友達はどうした?」
「部活だから帰る人いないのよね」
「俺等2人して帰宅部だもんな」
「私は一応、本愛好家部にいますけどー?」
そうジト目で見られてしまうとバツが悪い。一緒に帰ってくれるから思わず勘違いを口にしてしまった。言ってしまった以上、取り消せないから素直に謝るか。
「悪い悪い、一緒に帰ってくれてるから勘違いしちまった」
「もう、全く……」
ふくれっ面の文野を見て思わずやってしまったなーって思った。どう取り繕うか考えていたら文野の方から話の続きとばかりに話し出した。
「で、やっぱり借りるべきだったかなーって所に宮坂が来たわけ」
「なるほど、間の良い男って訳だ」
「自分でそれ言う?」
思わずといった感じで文野が笑った。実際な所、タイミング良く現れてるのだからそう言う他に無かろうて。
なんて言い合ってたら、気がつけば文野の家の玄関に着いた。あっという間に着いたような感じがする。
「家まで送ってくれて……ちょっと待ってもらえる?」
「?おう」
振り向いた文野が目を見開いて俺を待つように言われた。
特に急ぐ用事もないのでそれに応じたら、文野が急ぐように家の中に入っていった。
何かあったのだろうか、なんて考える間もなく文野が薄い黄色のタオルを持って出てきた。
「濡れてるよ」
「ん?あぁ、別に気にしなくてもいいのに」
「私が気になるの、また後日返してくれたら良いから」
右肩が濡れてるのを文野が気にしたようでタオルを持ってきてくれようだ。
三大美女とか置いといて、文野がモテるのは、こういう細かい気遣いなんだろうな。
「改めてありがとう宮坂、気を付けて帰ってね」
「あぁ、タオルありがとうな文野」
文野が渡してくれたタオルで濡れた箇所を拭きながら家まで帰宅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます