第9話
「宮坂も調べたから分かるだろうけど、メガネにしてもコンタクトレンズにしても、買い替えるのにお金がかかるの」
「見積もって3万か年3万強のどっちかだな」
「なのに、コンタクトレンズにしたら?って言われても費用が嵩張るばかりだし、その費用を持ってくれる訳では無いよね?」
「バイトしてなきゃ続けるのは厳しいと言うか、親の力がいるな」
「でしょ?だと言うのに自分の願望を押し付けてくる人のお願いなんて聞けるわけ無いでしょ」
公園に設置された椅子に座り、文野の愚痴大会が始まった。
鬱憤が溜まっていたのか、今まで我慢してきたものを吐き出すかの如く、まくしたてるような状態でこれでもか愚痴を言い始めた。
この姿を見たら、ちょっとは収まるんじゃないかなと思わなくもない。が、こんな姿、誰にも見せたくもないだろうな。
「で、メガネ止めたら可愛くなれるって言われてもさ、私が選んだメガネを馬鹿にしてんのかって思う訳よ」
「文野が好んで選んだのを否定してるわけだもんな」
「それにさ?メガネに慣れてるのに急にコンタクトレンズと言われても、まずコンタクトレンズに慣れる期間を作らなきゃいけないんだよ?」
「その間は色々と活動しにくくなるのは目に見えてるな」
「そうよ!その後のことを考えてないのかって思っちゃうわけよ」
言われてみれば、変えてくれたらはい終わりとなるのは言った側だ。言われて変えた側は戻すにしても戻さないにしても、その後が待ってる。
変化を求めるだけ求めて、何もしてくれないのなら応える気が無くなっても不思議では無いな。
「そういや、俺が尋ねた時、なんであんなに不機嫌だったんだ?」
「あぁあれ?そもそも私、アイツ嫌いなのよ」
「初耳だぞそれ」
「え?……そうか、興味が無いと覚えないものね」
橘が言うには、昔から知ってる俺が云々らしいよと言っていたが、俺はソイツの事を覚えてない。
だけど文野は覚えてるようで、この騒動の中でさえ誰それがしつこくて嫌いと言わない文野が嫌いと言い放つって事は、相当な事をやってしまったのがよく分かる。一体、文野に何をしたんだ?
「あーこれ言えば分かる?『知的でカッコいいじゃん』」
「……あー!!言った!確かに言った!小学生の時に!」
文野の言葉で、ちょっと時間はかかったものの思い出した。
確か、小学生の頃にメガネをかけてきた文野がブサイクだなんだ言われて泣きそうになってたが、その場で俺がカッコいいじゃんと言い返したんだった。
なんだってまたアイツはブサイクだなんて酷い事を言うんだとムカついてたなと思い返す。
「ん?じゃあ俺が来る直前に来た男って」
「そ。その時に私にブサイクと言った奴」
なるほど、嫌ってる男からのメガネ否定があそこまで不機嫌にさせたのか。
しかし、俺は言われた事で思い出したが、俺と違って文野はずっと覚えてた事を思うと、根に持ってたって事か。
「だからアイツを喜ばせたく無いから絶対に外したくない」
「あーあ、ご愁傷様」
アイツに向けてではなく、メガネを外す事を願った男達に向けて言い放った。今後、文野のメガネを外した姿を見れるのは極少数となるのが決定した。
それはそうと、文野がアイツの事を名前を言いたくないのか名前を出さないせいで、俺はアイツが誰なのか全く分かってない。興味があるモノや関連する物なら幼稚園の頃の記憶を引っ張り出せるが、無いものには最近の事でさえ思い出せない。
「はい、ココア」
「ん、ありがと」
一息つける為にも文野の好みであるココアを渡す。文野もそれを素直に受け取ってくれ、飲み始めた。
しかし文野の愚痴を聞いて思うのは、言われる側ってのは大変だなと思わされる。現場を見てはいるが、知らない所でこんなにギャーギャー言われてるとは。
「宮坂もありがとね、こんな愚痴に付き合ってくれて」
「気にすんな。それで気が楽になるなら聴いて良かったと思ってる」
「普通、愚痴ってあまり聞きたくないものだと思うけど?」
「んー、俺の場合、信頼してくれてるから言ってくれるんだなって思って嬉しいかな」
「変わってんの。でも助かった」
んーっ!と背伸びして笑顔が戻った文野の様子から、溜め込んだ不満をある程度吐き出せて解消されたように感じる。
「気が済んだし帰ろう?」
「分かった」
帰る提案をされたので同意し、文野は飲んだ紙パックのココアをゴミ箱に入れて、共に昔なじみの公園を後にして帰路に着いた。
「そういえばコンタクトレンズは?」
「今の聞いて勧める奴いねぇだろ」
「それもそっか」
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