第29話 敵国潜入



「はあ、まさかこんな形で敵国に潜入する羽目になるとは……」



 こんにちは、ルイソンです。

オレは今エビルムーン帝国の帝都ヘルゲイトに来ています。

帝国と争っているサンブレイヴ聖国で軍人をやってるオレからしたらまさに敵陣真っ只中です。普通に帰りたい。



「それにしても、本当に入国出来てしまうとはな」



 今回のオレの目的は、カーミラの悪質な粘着ストーカーと化したヴァンパイア族の男をどうにかして抹殺……はさすがに出来ないので、カーミラのパートナー役として彼を説得し、彼女を諦めてもらう事。

そのためにカーミラが偽造の身分証まで作って帝国にオレを潜入させてくれたのだ。

この身分証は(カーミラからしたら)一般人のオレが、エビルムーン帝国でそこそこの地位にあるストーカー男の家から後々危害を加えられないようにするためのもので、なんと帝国軍十三邪将公認らしい。



「なんか、スパイとしてだったらめちゃめちゃ上手いことやれちゃってる感があるな」



 正体隠してマッチング魔道具で敵国の幹部兵と知り合って親交を深め、いつの間にやら敵国の身分証まで手に入れて帝都に潜入……

これ、インロック義父さんとかに全部打ち明けてそのままスパイ活動でもしてたらかなり出世できるかもな。

まあでも仕事とプライベートは別だし、カーミラとの仲を考えるとそんなことは出来ないしやるつもりもないんだけどな。



「おお、来たかルイ」



「カーミラか……って、なんだその恰好」



 待ち合わせ場所に現れたカーミラは、煌びやかな紅一色のドレスに身を包んでいた。



「相手はそれなりに格の高いお貴族様だからな。こちらも対抗したまでだ。あとでルイにも着替えてもらうぞ」



「オレもかよ……」



「当たり前だ。なにせ今日のルイは我のパートナーなのだからな」



 ―― ――



 相手の男と会う前にカーミラが用意したパーティースーツに着替えて会場に向かう。



「ふむ、そういうフォーマルな恰好も似合うではないか」



「そりゃどうも。お嬢さんも素敵ですよそのドレス」



「我が120才の誕生日に母上から貰ったドレスなのだ。さすがに100年も経つと仕立て方や生地の感じが今の流行りとは違うがな、とても気に入っている」



「めちゃめちゃビンテージものじゃねえか……好きな人にとってはものすごい価値が高そうだな」



 ヴァンパイア族のような長命種であっても、何百年もずっと同じ服を着続けるというのはメンテナンスの面から見ても中々難しいので、基本的には時代に合わせて適宜買い替えているらしい。

それでも愛用しているものはなるべく長く着続けたいという想いがあるのだろう。



「それで、こんな格好させたってことはその辺の飯屋で顔合わせってわけじゃないんだろう?」



 今日の目的はカーミラの事が好きな相手の男にオレを紹介して諦めてもらうこと。

デスティニー上でのメッセージのやりとりでは全くもって信じてくれなかったうえに発狂しだしてクソ面倒くさい感じになってたので、実際に会って話してスパッと諦めてもらう……というのが理想の展開だ。



「実はな、今夜このヘルゲイトで相手のヴァンパイア族一家主催の懇親パーティーが開催されるのだ。前々からそれに招待されててな……ずっと断っていたんだが、せっかくだからこの機会にみんなの前で振ってやろうかと」



「お前……中々愉快なこと考えてるじゃねえか」



「しかもパーティーには異性のパートナーを連れてきて良いことになっているから、『つつつ、ついにぼくのお誘いを受けてくれたぞおおお』ってなってるところでルイを紹介してやつの心を折ってやるのがベストな展開だな」



 なるほど、パーティーに参加している他のお貴族様たちの前で無様に暴れたりしたら家の評判にかかわるだろうしな。

さすが帝国軍十三邪将、考えることが容赦ない。



「……これが鮮血のカーミラと言われる所以か」



「それは褒めているのか?」



 ―― ――


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