第26話 人狼族は人気者?
『着替えてくるのでちょっとお待ちを』と言ってクラブ室へ戻っていったフランキスカを見送り、オレは馬がいる厩舎の前でしばらく暇を持て余す。
「ふむ、中々フレームがしっかりしてて良い馬だな……」
聖国軍の騎馬隊こと第7師団で採用しても良いレベルだ。
「まあ、お前らはここでお嬢様方と暮らすのが幸せだとオレは思うぜ」
第7師団で世話をしている馬たちも、戦になった時に万全の状態で走れるようにそれなりのメンテナンスを受けてはいるが、戦場で兵士の脚として使いつぶされるよりは学園でのほほんと生活している方が何万倍もマシだろう。
「おっなんだお前、なつっこいな……よしよし、オレの妹の相手をしてくれてありがとうな」
フランキスカを乗せていた大きな青鹿毛の馬がこちらにやってきて頭をこすり付けてくる。
なんだろう、フランキスカと同じ家の匂いでも感じ取ったのだろうか。
「まあ! まあまあまあ!」
「ほ、本当に人狼族の殿方がいらっしゃいますわ!」
「おっきいですわ! もふもふですわ!」
「鼻もシュッとしてて素敵ですわ!」
「なっなんだ? なんか用ですか?」
馬と戯れていたオレの元にいつの間にかフレア女学院の生徒たちが集まってきていた。
女学生たちはなんというか、初めての生き物でも見るかのようにオレのことを興味津々に観察している。
「あの! フランキスカさんのお兄様でいらっしゃいますか?」
「え? あ、ああ……まあそうだな」
「わ~!! それじゃああなたが人狼族のルイソンさんですのね!」
どうやらこの子たちはフランキスカの友人のようだ。なんだろう、すごいグイグイ来るな……
聖国内では迫害を受けがちな人狼族だが、過去の歴史を詳しく知らない彼女たちにはあまり関係ないのかもしれない。
「握手していただいてもよろしいですか?」
「別に構わないが……」
「わは~! 肉球ぷにぷにですわ!」
「あっ抜け駆けズルいですわ!」
「わたくしも触りたいですの!」
「尻尾は!? 尻尾は触ってもよろしいですか!?」
「あっちょっと、こら、くすぐったい……!」
サンブレイヴ聖国では珍しい人狼族に興味津々のお嬢様方。
みんな良いとこの貴族令嬢だろうし無理に引っぺがして怪我をさせるわけにはいかないが、さすがにもみくちゃにされ過ぎて少し戸惑ってしまう。
「こらーっ!! 何やってるんですのみなさん!!」
「あ、フランキスカさんですわ」
乗馬服から学院の制服に着替えたフランキスカが馬もびっくりの猛スピードで駆け寄って来る。
「わたくしのお兄様にべたべた触るのはおやめなさい! しっしっ!」
「ちょっとくらい良いではありませんの!」
「フランキスカさんだけズルいですわ!」
まるで野良犬のような扱いを受けても動じないご友人たち。
貴族令嬢がのほほんと暮らす学び舎かと思ったが、意外とスラム顔負けのワイルドさを感じられて新鮮な気分だった。
「お兄様、ここは危険ですわ! はやく学院から脱出いたしましょう!」
「なんで自分が通ってる学校が戦場みたいになってんだよ」
フランキスカと一緒に走って学院の待合室までやってくる。
「お兄様はやく! みなさんが追ってきてますわ!」
「お前の友達はゾンビか何かなのか?」
オレはフランキスカにヘルメットを被せつつ、愛車のエンジンをかける。
聖国軍の給料を貯めて買った『鉄馬』と呼ばれる移動用魔道具。
前後の車輪に魔力を流すことで馬の最高速度以上のスピードで走ることが出来る優れものだ。
動力となる魔石も定期的に補充が必要なうえ1台あたりの値段も高価なため、騎馬隊の代わりとして戦場で活用することは出来ずに今のところ物好きの乗り物といった感じだが、オレはこれを気に入っている。
ちなみに二人乗り。
「お兄様の鉄馬に乗るの、久しぶりですわ」
「しっかり掴まってろよ」
「はい!」
ブオン! と一度エンジンをふかしてから勢いよく走り出す鉄馬。
後ろに座っているフランキスカがオレのお腹辺りをグッと掴んで身体を預けているのが分かる。
「それにしても、フランキスカの友達はなんであんなにわーきゃー絡んできたんだ」
「最近、島流しにされた公爵令嬢と元傭兵の人狼族の胸キュン無人島漂流小説が学院で流行っておりますの」
「なんだそれ」
お嬢様方の流行りはよく分かんねえな……
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