第16話 お義父様たちのお言葉
「く~……ふふ、ルイソンく~ん……Zzz」
「やっと静かになったか……」
酔っぱらって寝落ちしたハチェットを背負って『喫茶ハロゥ』の居住スペースまで連れて行く。
なんつーか、小柄なリトルフット族だからってのもあるがこいつめちゃめちゃ軽いんだよな。
ちゃんと飯食ってんのか……? 酒ばっか飲んで身体壊さないか心配なんだが。
「いよっお二人さん、今日もおアツいね~!」
「今夜はお楽しみだなあルイソン!」
「……優しくしてやれよ」
「なんもしねえよ!!」
店の常連から欲しくもない声援を頂戴する。
ってか最後のやつマスターだろ、自分の娘の貞操を心配しろよ。
「おいハチェット、このまま寝かすからな」
「うう~ん……着替えさせて~……」
「そこまで面倒見切れるか」
ベッドに寝かせ、毛布を被せて近くにあったサイドデスクに水の入ったピッチャーとグラスを置いておく。
まあ、ここまでしてやれば文句はないだろ。
子供の頃はマスターに二人まとめて風呂に入れられたこともあったが、今はお互いにもうそんなことが出来る年じゃねえからな。
こいつの服を着替えさせる権利はオレにはない。
「ん~……ルイソンくんを、ばかにするやつは……ゆるさない、から……Zzz」
「おう」
ハチェットを寝かしてからバーに戻ると、オレの席に新しい酒とツマミが置かれていた。
「マスター、オレはヴァイオレットフィズなんて頼んでないんだが」
「……あちらのお客様からだ」
奥の席でニヤニヤと手を振っている常連のおっさんたち。
さっきの冷やかし代ということだろう。
「はあ……それにしてもこれ、大丈夫か……?」
マッチング魔道具『デスティニー』でやり取りをしていたミラさんとのメッセージツリーに酔っぱらったハチェットが撮ったオレとのツーショットを載せてしまい、慌てて消したが間に合わずミラさんに見られてしまった。
向こうからは『今の写真の子、だれですか?』とコメントが来ただけで、内心怒ってんのか文字通りのテンションなのかが正直よく分からない。
「マスター、これどう返したら良いと思う?」
「……素直に説明しとけ。『実はオレ、リトルフット族のお人形さんみたいな体型の女じゃないと興奮しないんだ』って」
「ひとつも事実が含まれてねえよ」
ダメだ、そういやマスターは『ルイソンとハチェットがくっついて店を継いでくれたらラッキー』派だった。
まあでもここは素直というか、正直に説明しておいた方が良いだろうな。
『すいません。さっきのはオレの昔からの友人で、一緒に酒を飲んでたところ、酔っぱらって写真を誤送信してしまいました』
「よし……っと」
まあ、ラァ子の事を聞いてきた時も興味本位って感じだったし、さっきの写真もそこまで掘り下げられは……
ピピロンッ♪
『私とのメッセージ、女性とお酒を飲みながらやりとりしてたんですね』
「…………」
「……そういう日もあるさ」
お宅の娘さんのせいなんですけどね。
―― ――
「ふう、なんとか許してもらえたか……」
喫茶ハロゥから帰宅し、ミラさんの責めるようなメッセージに対して言い訳……じゃなくて誠意をもって説明した結果、とりあえず『分かりました』というお返事をいただけた。
ちなみにどんな感じでいったかというと『ミラさんのメッセージにすぐ返事をしたくて』という方向性でなんとか。
「ハチェットといる時はデスティニー触んない方が良いかもな……」
「なにを触らない方が良いって?」
「あっ義父さん」
屋敷のバーカウンターで一杯やっているインロック義父さんに遭遇。
そう、オレが暮らしているオブシディアン家の屋敷にはインロック義父さんの趣味で作られたバーカウンターがある。
このバーカウンターは、屋敷で働くメイドや執事も無礼講で利用ができ、席に座ったらインロック将軍だろうがメイドだろうが同じ立場としてお互いフラットに接しなければいけないという決まりがある面白い所だ。
「その……義父さん、ひとつ聞いても良いですか?」
「ああ、どうしたんだ?」
「女友達といる時に他の女性とメッセージのやり取りするのって、やっぱ良くないですかね」
「それはビンタされても文句言えんぞ、2人から」
「ですよね」
オレはその後、バーカウンターで義父さんと飲み直しながら女性への接し方を指導された。
「ちなみに私はルイソンくらいの頃は遊びまくっていて、三又かけて今の妻にドロップキックをくらったことがあるぞ」
「じゃあ今までもこれからもあんたの話なにも響かねえよ」
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