マッチング魔道具で知り合った子が魔王軍の女幹部だった。
ふぃる汰@単行本発売中
第1話 マッチング魔道具
「つ、ついに買ってしまった……」
オレの名前はルイソン。
職業:サンブレイヴ聖国軍第8師団長。
25才男性、人狼族。彼女……なし。
休日、知り合いに見つからないようにわざわざ隣町の魔道具ショップまで行って手に入れた手帳型の通信魔道具を、自室に帰ってきて早速開封する。
「これがマッチング魔道具『デスティニー』か……」
オレたちが暮らすこの世界には、『魔力』というエネルギーで動かすことのできる『魔道具』というアイテムが存在する。
魔道具が開発されてから、人々の暮らしは一気に進歩した。
魔法が使えない人でも簡単に火を起こし、灯りを付け、水を出すことが出来るようになった。
今回オレが購入した『マッチング魔道具』というのは、自身の顔写真やプロフィール情報、好みの異性のタイプなどを登録することで、同じ魔道具を使用している人とマッチングして交流することが出来るというアイテム。
まあ、要するに異性の友達や恋人、結婚相手が欲しい人同士をアテンドしてくれるという、オレみたいな独身野郎には非常にありがたい代物ってわけだ。
「本当はこんな道具に頼らないで恋人が作れれば、それに越したことはないんだがな……」
オレが暮らす人間族の国『サンブレイヴ聖国』は、魔王が統べる『エビルムーン帝国』と長きにわたる戦争状態にある。
戦争の理由は、魔道具に必要な『魔石』という資源を巡って魔石が採掘できる領土の奪い合いが発生しているためだ。
まあ、この辺りの詳しい事はオレにはよく分からない。
「とはいえ、この国で普通に恋人を探すってのは人狼族のオレには難しいしな」
この世界には大きく分けて3つの人種が存在する。
食物から栄養を摂取して生きる『人間族』と、食物に含まれる魔力を吸収して生きる『魔人族』、そしてその両方をエネルギーとすることのできる『亜人族』だ。
オレは亜人族の中の『人狼族』という種族……まあ、いわゆるオオカミ人間ってやつだ。
サンブレイヴ聖国側の勢力は主に人間族、エビルムーン帝国側の主な勢力は魔人族で、一部の亜人族もそれぞれの国に加勢しているものの、ほとんどの亜人族は中立の姿勢を取っている。
ちなみに人狼族は、かなり昔にエビルムーン帝国側に付いていたことがあるらしいが、今は中立として、どちらの国にも加担していない。
で、どうして亜人族の一種である『人狼族』のオレがサンブレイヴ聖国の軍で働いているのかというと……
コンコン。
「ルイソン、私だ。君の部屋にフランキスカが遊びに来ていたりはしないか?」
「イ、インロック義父さんですか……いえ、オレの部屋には来ていませんよ」
「そうか、分かった。休日に邪魔して悪かったな」
「いや、大丈夫です」
…………。
「ふう……」
今のはオレが従軍しているサンブレイヴ聖国軍で将軍を務めている『インロック・オブシディアン』という人間族の男。
そして、今のオレの父親だ。
サンブレイヴ聖国のスラムで孤児として暮らしていたオレは、金を稼ぐために闇の闘技場で喧嘩屋をしていたところをインロック義父さんにスカウトされ、彼の養子としてオブシディアン家に入り、聖国軍で働くことになった。
インロック義父さんへの恩に報いるため、将軍だった彼の下で戦いの日々に明け暮れていたオレは、いつの間にやら第8師団長という立場にまでなっていた。
しかし、ここでひとつ問題があった。
サンブレイヴ聖国の中では、過去とはいえ、エビルムーン帝国側に立っていたことのある人狼族に対するイメージがあまり良くないのだ。
スラム暮らしの孤児だったときはもちろん、今でもたまに石を投げられたり、一部の店からは入店を拒否される場合もある。
そんなオレがこの国で自ら出会いを探しに行動するというのはかなり難儀するだろう。
「それでもこのマッチング魔道具さえあれば、サンブレイヴ聖国内の数少ない人狼族の女の子に出会えたり、『アニスター共和国』の子とも知り合えるかもしれない……」
アニスター共和国というのは、数多くの亜人族が暮らす中立国だ。
この国の中では人間族も魔人族も争いをすることが出来ないセーフティエリアのため、サンブレイヴ聖国とエビルムーン帝国同士のカップルが逢引きの場として入国していたりもするんだとか。
「まあ、聖国軍で師団長までやってるオレが敵国の魔人族と恋仲になるなんてのはありえないけどな」
よし、それじゃあさっそくマッチング魔道具を起動してプロフィールの登録をしていこう。
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