第27話

 約束の時間がやってくると、ドアベルが鳴った。


 ドアのほうに目を向ければ、ストレートの黒髪を腰まで伸ばす彼女が入店した。



「あれがかなこさん?」



 遊馬に問いかけられて、こくりとうなずいた。


 すると遊馬は席を立って、かなこに向かって手を振る。


 それに気づいたかなこが戸惑う表情を見せながらもやってきた。



 遊馬が私の隣の椅子に移動してきて、向かいにかなこが腰を下ろす。



「…久しぶり、六華」



 かなこの声にこくりとうなずくと、気まずい雰囲気が流れる。


 私は喋れないし、遊馬とかなこは初対面。


 彼女を前にしたら緊張してきて、視線をあげることもできなかった。



「え、っと…。あ! 俺は遊馬! 六華と同じ学校で同じクラスで隣の席!」


「電話の…。初めまして、くすのき かなこです。六華とは幼馴染で…」


「そうみたいだな。俺のことは通訳係とでも思ってくれればいいから」


「本当に喋れないんだね…」



 かなこの言葉にただうなずく。



「あのね、六華が復讐しようとしてるって聞いて気がついたの」


「!」


「あの頃は辛くて苦しくて、もう何がなんだかわからなかったんだけど、でも六華のお兄さんが来てそれで」



 復讐は成功しなかった。


 遊馬にも止められ、兄がどうにかしてしまったから。



「あのね、六華」


「…?」


「復讐とかそんなことしないで。六華があんな人たちのために手を汚すなんてダメだよ」


「………」


「ごめんね。六華。私がもっと強かったら六華を一人にしなかった。落ちなかったらそばにいて支えれたのに」



 かなこは涙を浮かべて頭を垂れた。



「ごめんなさい。六華。一人にしてしまって、本当にごめんなさい」


「っ………」


「声まで失くして不安だったよね。復讐心まで持たせてしまって…」



 首を左右に振りながら、立ち上がってかなこに手を伸ばす。


 両頬を挟んで顔を上に向かせると、そっと微笑んだ。



「今度は女と浮気かよ」



 そんなとき、その声と共に腕を掴まれた。


 顔を向ければ悪魔が冷たい目をして立っている。



「店員さん…? えっと…知り合い?」


「あー…俺の兄貴で、六華のカレシ」


「彼氏!? 六華いつの間に…」



 かなこと遊馬の会話が気恥ずかしい。


 彼氏…という響きが何とも言えなくて、恥ずかしさにうつむいた。



「えっと…私は六華の友達の楠かなこって言います。あの、浮気とかじゃないので安心してください。親友ですけど」


「あー…あんたが」


「え?」


「いいえー。ご注文のお品物おいていきますねー。それではごゆっくり」



 悪魔はドリンクをおいていって、何事もなかったかのように仕事に戻った。


 席に腰を落としてカフェラテを口にする。


 かなこに視線を向ければ、ふふっと微笑まれた。



「彼氏さんイケメンだね」


「!」


「そういえば遊馬さんと六華はどこの高校なの?」


「北校!」


「え…? 北校?」


「ああ」



 かなこは目を丸くしてパチパチと瞬きを繰り返す。


 北校って言われれば驚くよね。


 有名なヤンキー校だし…。



「じゃああの店員さんも北校の生徒なの?」


「ああ見えてもケンカ強いし、普段はピアスバチバチ」



 遊馬の小さな声の説明にうなずけば、かなこは苦笑を浮かべた。



「人は見た目に寄らないって本当だね。でもケンカが強いなら安心かな」


「?」


「六華のこと守ってくれると思うから。転校先でいい出会いがあってよかった。遊馬さんっていういい友達もできたみたいで」



 かなこの声に遊馬を見てこくりとうなずいた。


 遊馬はとても大切な友達。


 北校に転校して隣の席が遊馬でよかった。


 出会えて本当によかった。

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