第16話
……… 六華 ………
次の日、学校に登校すると背後から肩を組まれた。
「はよ! 六華!」
「!」
おはよう、と手話で返せば遊馬はニカッと笑う。
昨日のこともあったから少し気恥ずかしいけど、遊馬はいつも通り。
遊馬のこういうところが好きだなぁって思った。
「そういや明日、暇?」
「?」
「出かけね? ほら、学校の工事で休みじゃん」
そういえばそうだった。
金曜日の明日から土日って工事するって言ってた。
多分、割れてる窓ガラスとか落書きの修理とかだと思うけど…。
遊馬が言うには定期的に行われてるって言ってたし。
学校の見た目から素行の悪い人たちばかりが通ってるものだと思ってたけど、意外と普通の人もいる。
ただ偏差値が低いから、ヤンキーか学力の低い子しかいないって遊馬に教わった。
「あ、やっぱ兄貴誘ってみれば?」
「!」
「たまにはいんじゃね?」
それはいいかもしれない。
でも遊馬とも遊びたい。
せっかく誘ってくれたんだし…。
「俺のことは気にすんなって。なんなら日曜にでも、うちのカフェどう? 兄貴もホールでいるし!」
こそっと耳打ちをする遊馬にこくこくと何度もうなずいた。
っていうか遊馬は私の心を読みすぎる。
なんだか恥ずかしい。
そんなにわかりやすいかな…?
「んじゃ決まり! 聞いてみろな?」
こくりとうなずいて、遊馬に「ありがとう」と手話で伝えた。
………
いつも通りに悪魔の教室で悪魔と昼食をとる。
食べ終わってすぐにスマホを開くと、明日の予定を聞いた。
「あー…とくになにもねえけど。ナニ、どっか行きてぇの?」
こくりとうなずくと、悪魔は考え込んで黙ってしまう。
やっぱり無理…かな?
「あー…あいつは?」
「…?」
「あいつ、遊馬。お前ら仲いいだろ。あいつ誘えばいいじゃん」
まさかそうくるとは。
なんだかそれが『嫉妬』に見える。
まぁ勘違いでしょうけど。
──あなたと行きたいの
「どこに」
……どこ?
どこにしよう。
うーん…?
「決まってねぇじゃん。んじゃ、なしで」
「!」
とっさに『水族館』と文字で打つ。
「はあ? お前は俺とデートでもするつもりかよ」
で、デートと言えばデートになるのかな…?
でも付き合ってるわけじゃ…ないよね。
「…はぁ。まあいいけど」
「!」
「暇だし」
ありがとう、と伝えると悪魔はため息をついた。
それからは待ち合わせ場所を相談してから教室に戻った。
…………
次の日、待ち合わせ場所の駅前に行くと悪魔はまだ来ていなかった。
それから10分がたって、待ち合わせ時間になる。
だけど悪魔が来る気配がない。
んー…時間間違えたのかな?
そういえば連絡先…交換してない。
はぁ…やっちゃったなぁ。
これで遊馬に連絡するのは違う気がするし、もう少し待つしかないか。
さらに30分待っても悪魔は来ない。
さて、どうしましょう。
「君、ずっと待ってるけど振られちゃった?」
そんなとき知らない男の人に声をかけられた。
なんかチャラチャラとしてる人だ。
正直関わりたくない。
そっぽを向いて、歩き出す。
声も出ないし態度で拒否するしかない。
「無視しないでよ。ね、暇なら俺らと遊ぼうよ」
俺ら…?
そう思って振り向くと、気づけばもう一人増えている。
それが過去の出来事と重なり、一気に恐怖が出てきた。
その瞬間、手首をつかまれて引っ張られる。
二人の男性に囲まれて、体が震えだした。
身に着けた護身術も出てこなくて、引っ張られるまま歩き出したそのとき、今度は背後から肩を引っ張られる。
今度は何かと振り向けば、息を乱した悪魔が前髪をかきあげて立っていた。
「俺の女どこに連れてくわけ?」
「彼女は俺たちと遊ぶんだよ」
「は? この女、ヤクザの娘だけどいいわけ?」
「……は?」
「いいならいいけど」
「いらねえよ!」
手首を振り払われ、体を突き飛ばされる。
って、ヤクザの娘っていい理由になるんだね…。
「てめぇも何やってんだよ」
「?」
「ドタキャンしたかと思っただろ」
「!」
それはこっちのセリフだとスマホを見せる。
すると悪魔は私のおでこを指先でつついた。
「誰が西口っつったよ。普通は東口だろうが」
「!」
「まあいいや。つうか連絡先」
悪魔は私からスマホを取り上げて、勝手に操作をする。
そして返されると、メッセージアプリに悪魔の名前があった。
レオ。という名前に胸にあたたかいものが落ちる。
連絡先を交換しただけなのに嬉しくてニヤニヤしちゃう。
ここまで親しくなれたことに感動を覚えた。
「おい、ナニにやついてんだよ。行くぞ」
こくりとうなずくと、歩き出した悪魔についていった。
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