全力で生を謳歌しよう!

@free123456789

プロローグ

プロローグ




「はぁ、はぁ、はぁ」



 鬱蒼と生い茂っている森の中を美しい少女は止まったら死ぬと言わんばかりに懸命に駆け抜けていた。後ろからはいくつもの馬が駆ける音が聞こえる。身体強化魔法を自分に施すことで馬以上に速く走ることが可能であるが、長時間にわたる使用により少女の魔力は枯渇寸前であった。



「ッ!」



 足が木の根に引っ掛かり前方へ勢いよく転げる。転んだ先は少し開けた場所であった。再び身体強化魔法を掛けようとするが、転げた拍子に負った傷と長時間にわたる疲労により上手く魔力を練ることができない。


 体全体が石のように重く感じる。もうここまでかと思い諦めの念が彼女を襲うが、公女として、最後の公族として毅然とした態度で追手と対峙する。



「ふぅ。やっと諦めたか。愛しのセレネ」


「アルドリン・アーディロン…ッ!」



 アルドリン・アーディロン。大国であるエルドリオン王国の第三王子であり、権力に腐敗した王国を体現するかのような王子である。アヴェリス公国唯一の後継者である少女――セレネ・アーヴェルを一目見たときから何時の日か手に入れたいと考えこの日まで行動していた。そして今日、長年の苦労が報われる日である。


 魔法に長けていることで有名なセレネであるが、長時間にわたる逃避行の末疲労困憊で現在地べたに座りこんでいる。そしてここはアヴェリス公国内の大森林だ。誰も助けに来ることなどできない。アルドリンは自分の勝利を確信しながら私兵に告げる。



「おい。セレネを私の前へ連れてこい」


「かしこまりました」



 ガチャガチャと鎧を鳴らしながら徐々に近づいてくる王国兵士。その目は欲望により曇っている。セレネはここで公女として何より女としての尊厳を奪われることを亡き父と母に謝罪し、これから先起きるであろう悲惨な運命を受け入れ――ることは無かった。


 セレネと王国兵士の間に突如空からドンッという大きな音と共に何かが降

ってくる。辺りは何かが落ちてきた拍子に巻き上がった砂煙で視界が悪くなった。


 徐々に砂煙は収まると同時に1つの人影が浮かび上がる。完全に砂煙が晴れた先には、この場の雰囲気にはそぐわない格好で珍しい黒髪の男が咳き込みながら立って居た。


 私兵に守られていたことで被害が無かったアルドリンは、突如落下してきた謎の男に向け剣を構えさせながら問いかける。



「貴様! 私とセレネの逢瀬を邪魔したんだ…。ただでは済まさないぞ?」



 だが黒髪の男はそんな私兵たちに臆することなくアルドリンを無視してセレネの方へ向く。目が合ったセレネはビクッと反応した。黒髪の男はセレネの目線に合わせるようにしゃがみながら自己紹介する。



「やぁ、俺はハル。困ってるなら力になるよ?」



 そう言って黒髪の男――ハルはセレネに手を差し伸べる。

 突如現れた謎の人物。きっとこれは悪魔の契約なのだろう。だが、セレネは迷うことなくその手を取った。手を差し伸べた男が世界中を震撼させるほどの存在とは知らずに。




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