第36話 チーム戦!その③

 昼食を終えた俺たちの次の対戦相手はアオリイカさん率いるチームだった。

 試合開始までまだ時間があると店員さんに確認を取った先輩と有栖川は席を離れる。その場に残ったのは俺とアオリイカさんチームの三人組だけとなった。


「聞きましたか? 後の三試合に全て勝つと決勝リーグに行けるみたいですよ」

「そうなんですね」


 総当たり戦の後のトーナメント戦方式。チームとして一敗までなら決勝に残れるわけだ。


「……ところで、アオリイカさんのチームメイトって同じ学校の人ですか?」

「そうですけど何か?」


 さっきからアオリイカさんとは普通に会話しているが、隣に座っている男子二人からはなんというか……クラスの生徒と同じ視線が飛んできている気がする。話しかけたら拒絶されるか、もしくは殺されそうだ。遂に俺の噂は校外にまで進出してしまったのだろうか?


「自分たちもフードコートでご飯を食べていましたが、昼食のあれを見たら普通はそうなりますよ」

「み、見られていたのか。 でもあれは先輩と有栖川に無理やり迫られたからであって……」

「ハカセさんって自分と違って自然体で煽りますね」

「い、今のどこに煽り要素が⁉」

「その発言含めてもうそれ天才ですよ……帰り道、気を付けてくださいね」


 アオリイカさんは笑いながら話しているが目が笑ってない。隣の男子二人にいたっては指をポキポキと鳴らしてこちらを睨んでいるし……え、俺この後もしかして殺される?


「天野君、ただいま戻ったよ」

「って、なんか顔色真っ青だけど天野大丈夫?」

「オレ、マダ、シニタクナイ」

「うん、通常運転だね」

「あ、同い年ぐらいの人との対戦なんだね。 ちょっと安心するなー。よろしく!」


 先輩と有栖川は俺を気にせずに対戦相手に挨拶を始めた。お相手はさっきまで俺に対して殺意マシマシだったのに二人に話しかけられた途端その気配が消え去った。これは生き残れるか?


「自分がまだいますよ」

「……なんか俺、心読まれ過ぎてない?」

「ハカセさんはわかりやすいですからね。 カードゲームになると少し変わりますが」

「それは褒め言葉として受け取っておくよ」

「いえ、普段は鈍感で単純と言ったつもりです」

「よし、今日こそは焼きげそにしてやろうじゃなイカ!」


 相変わらずアオリイカさんとの会話は盛り上がる。おっと、試合になったら冷静に立ち回らないとな……オガ先のデッキは常に針に糸を通すようなプレイングを要求されるからね!


 四試合目 俺〇 有栖川× 月ヶ瀬先輩〇

 昼休憩後の最初の試合はまたしても俺と先輩の勝利によってチームは白星を勝ち取った。


「ぐ……ま、負けた」


 有栖川は口をつぐんで肩を震わせていた。その悔しさは伝わってくる。今までと違い、今回の有栖川はかなり善戦をしていた。あと一ターン回ってくれば有栖川の勝利だったので本当にあと一歩である。


「天野君もデッキに慣れてきた感じだね」

「そうですね……後、あらためてオガ先がすごい人だなって思いました」

「ほう……具体的には?」

「コントロールデッキはそもそも握る人が少ない……だから相手の経験値が足りてない事が多いです。 対して俺の相手はたくさんの人が使っているデッキなので戦い方を分かっている。 この差は大きいですね」


 ここまでの対戦で負けた原因は明らかに俺のプレイイングミスによるものだった。それ以外の勝利に関しては逆に相手側のミスから勝ちを手繰り寄せている。


「なるほどね……いわゆる初見殺しみたいなものか」

「そんな感じです。 ただ、戦い方を分かっていたとしても、相手が勝てない盤面を作れるのがこのデッキのえげつない所ですね」


 勝つデッキというよりは負けないデッキと表現するのが適切かもしれない。同じ意味ではあるが、この例えが一番しっくりとくる。


「でも、そんなデッキなら、なんで皆が使わないの?」


 有栖川の疑問はもっともだった。負けないデッキなら使う人は増えるはずである。


「その理由は……ほら、あれが答えだよ」


 俺は別の対戦卓を指さす。同時に試合終了のタイマーが鳴り響いた。


「そこまで! 先攻の方のターンの場合、相手の番を追加してください。 後攻の番でも決着がつかない場合は両者敗北になります」


 店員さんの言葉を聞いて試合が終わっていなかった対戦卓に座っている二人が肩を落とした。おそらく決着がつけられずに両者敗北が決まってしまったのだろう。


「コントロールデッキは両負けのリスクがある、だから……」

「使う人が少ないってわけね」


 有栖川は理解したようだ。コントロールデッキは攻めるタイプのデッキではない。特殊勝利、もしくは相手が勝てない盤面を作り上げて勝利を狙うタイプのデッキだ。幸い、今までの俺の対戦相手の方は詰み盤面を作ったタイミングで投了してくれたが、もしも将棋で言う千日手のような状態になれば両負けになってしまう。時間管理を間違えたり相手次第ではあの対戦卓のように両者敗北になるわけだ。


「勝者がいない試合ほど気まずいものはないからな……」

「確かに……あの空気は無理かも」


 両負けで試合を終えた二人は無言のまま片付けを始めていた。うーん、やっぱりそういう雰囲気になりやすいよなぁ……


「だからこそ、ほとんどの人は使わないわけで、このデッキを選んだオガ先はやべー奴だなって思ったわけ」

「君は鬼道先生を褒めているのか、けなしているのかどっちなんだ?」

「どっちもですね」


 月ヶ瀬先輩は複雑そうな表情をする。きっとオガ先なら試合の時間管理も完ぺきにこなして勝利するので両負けには絶対にさせない。ただこのデッキを選んで持ってくるその度胸と勇気を含めてすごくてやばいという評価だった。

 ……最後の感想だけ見るとなんか小学生みたいだな。


「それと、このデッキはもう一つ弱点があるんですよね」

「弱点? それは一体?」

「今は言うのやめておきます。 口に出すと具現化しそうなので」

「天野君、もうその時点でフラグは立った気がするが?」


 いやー、まさかそんなはずは……ないよね?

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