第17話 映画って一人で見るものでは?

 瑠璃も玻璃も照らせば光る。


 最近読んだ漫画のキャラが口にしていたので気になって調べたことわざだ。優れているものはどこにいても目立つという意味だった。

 時刻は九時五十分。 十時にグランドショッピングモール二階の映画館前に有栖川とは集合予定にしていた。

 予定時刻よりも十分早めに着いた俺だったが、待ち合わせ場所にはすでに有栖川が立っていた。


 なぜ俺がことわざを思い出したのか、それは今の彼女がまさにその言葉を体現していたからだった。

 学校内でも有栖川は丁寧にセットされた金色の髪に校則内で認められている範囲での化粧、元から整った容姿も相まってとても目立つ存在だ。

 今日の彼女もそこに違いはない。しかし、今の彼女は学校とは異なり制服ではなく私服である。私服姿の有栖川は良い意味で学校よりも大人びていた。


「あ、天野」


 俺のほうに気が付いた有栖川がこちらに近づいてくる。つい先ほどまで彼女をチラチラとみていた周りの男性たちの視線が一斉にこちらを向いた。それと同時に「え? あんな男と待ち合わせしてたの?」という感想が目から光線となって飛んでいた……奇遇だな、俺もそう思った所だ。


 女性の服についてはあまり詳しくない。そんな俺でも有栖川の私服は彼女に似合っているのだけはよくわかった。一方の俺は無地のシャツにジーパンという味のないガムみたいな恰好である。有栖川と俺の服に対する熱意の寒暖差が激しすぎて、あたしゃ風邪をひいちまいそうだよ。


「すまん、待たせたみたいだ」

「私が少し早くついただけ、気にしないで」


 目の前に立った有栖川は無言でチラチラと俺の目と彼女の服を交互に見ていた……あー、そういう事ね。


「その服似合ってるよ」

「ほんとに! ありがとう」


 有栖川は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。変化について気付いてもらえたら誰だって嬉しい。この前の大会でマー君がとっておきの一枚と言って入れていたカードと同じ原理である……カードゲームで例えてばかりだな、俺。


「その小さなカバンにカードは入るのか?」

「あれぐらいの大きさなら十分でしょ? 天野が大きすぎるのよ。 いったい何入っているのよ?」

「デッキとか、調整用のカードとか、プレイマットとかかな」

「まさか中身全部カードゲーム関係?」

「そうだな」

「…………」

「無言で引くのはやめてくれ……今日の目的はこれなんだから」


 カードゲーマーあるある。大きなカバンに大量のカードを入れがち。


「それじゃ、行こっか」

「そっちは映画館だ。 俺の話聞いてなかった?」


 映画館は突き当りの場所なので間違えるはずもないが……それとも極度の方向音痴かな?


「カード集めるだけなら時間かからないでしょ? 私見たい映画あるんだよね」

「まずは目的を果たそう。 映画見ている間に必要なカードが売り切れる可能性だってあるからな」


 俺の言葉を聞いて有栖川はふてくされたように文句を言う。俺は無言で反対側に歩き始めると慌てて彼女も追いかけてきた。


「カードを集め終わったら一緒に映画見てくれる?」

「なんの映画?」

「あれ!」


 有栖川が通路に掲示されているポスターを指さす。タイトルと写っている絵を見る限り、恋愛ものの実写映画のようだ。


「俺こういうのあんまり見ないんだよな」

「えー、これ最近まで土曜ドラマでめっちゃ人気だった作品なんだよ! 天野見てないんだ」


 有栖川が視聴率二十パーセントを超えた作品なのに、と熱弁するが土曜日はだいたい大和田とカードショップが閉店するまでお店で遊んでいる。どうりで見たことがないわけだ。


「ドラマ見てない人と一緒に見てもつまらないだろ。 俺はやめとくよ」

「そ、それなら別の映画でも……ほら、あれとか!」


 そう言って近くに設置されていたポスターを指さしてすぐに彼女は手を引っ込めた。それは日曜早朝にやっている女児向けの作品だった。先ほどのドラマと同じく、俺が見ていない作品なので誘われたらまた断っていたが、この反応を見るに有栖川も適当に決めたな?


「何も考えずに決めなくても、さっきの映画を一人で見ればいいじゃないか」

「映画を、一人で、見る……?」

「うっ……」


 彼女の無垢な発言が俺の心を傷つける! え、映画って一人で見るものじゃないんですか?


「く、クラスの人と見に行けばイインジャナイカナー」

「なんでカタコトになってるのよ。 私は……と見に行きたかったのに」


 一人旅行、一人喫茶店、もしかして一人カラオケも驚かれてしまうのだろうか……?

 一体どこまでなら一人遊びが有栖川に認められるのか、と頭の中で考えていたので彼女の発言の最後の方はよく聞き取れなかった。


「カード集めたらこの中を見て回ってもいい?」

「集め終わるといいな」

「?」


 有栖川は頭にクエスチョンマークを浮かべた。正直、ここだけで必要なカードが集まるとは思っていない。グランドショッピングモールから出て他のカードショップに出かける可能性のほうが高い。


「そういえば予算大丈夫か?」

「予算って……服を買うわけじゃないし、大丈夫に決まってるじゃない」


 その発言、特大フラグにしか思えないのは俺だけでしょうか?

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