カードゲーム部の日常~友人曰く、いつの間にか部室がハーレム状態になっているらしい~

灰冠

第1話 カードゲーマーと聞いて何を思い浮かべるだろうか?

 カードゲーマーと聞いて何を思い浮かべるだろうか?


「オタク、陰キャ、におい、身長175センチメートル、体重62キロ、天野君」

「勝手に心の問いに答えないでもらえます? それに後半は全部特定の人物を指していますよね?」


 後半部分だけだよね?臭くないよね?不安になった俺は自分の肌をすんすんと嗅いでみる……うん、自分の匂いは分からないな。


 てか、なんで先輩は俺の身長と体重を知ってるの?


「ほら、天野君、見てみて! あと一段で完成だよ!」

「他人のカードでトランプタワーを作るな!」


 頂上を組み立てようとした瞬間、バラバラとタワーは崩壊してカードが四散する。先輩は「あ~」と残念そうな声を上げた。


「君が大声を出すから失敗したじゃないか、 どう責任とってくれるんだい?」

「先輩もデッキを持っているんですから自分のカードでやってくださいよ」

「私のデッキはレアリティが高いからね……傷つくのが怖くて無理かな」

「俺のカードだって、ただじゃないすからね……」


 目の前にいる月ヶ瀬涼子つきがせりょうこは大企業、月ヶ瀬グループの社長令嬢。一般庶民の俺、天野博士あまのひろしとは比べ物にならない財力を持ち合わせている。それゆえに彼女は高校生の身でありながらハイレアリティデッキを所持しているのだ。


「先輩、今日はお店の大会に出るんすか?」

「やめておくよ。もしも私が行ったら溢れ出る存在感によって隣にいる冴えない君が変に目立ってしまうからね」

「……事実だから否定できないんだよなぁ」


 サラサラの長い髪に整えられた顔立ち、制服でも一目で分かる抜群のプロポーション。一般的な美的センスを持ち合わせている人間なら誰もが彼女を美人と評するだろう。

 俺? 俺は彼女と比べると悲しくなるから考えないでほしい。


「まだ大会まで時間はある。 それまでは私が相手になってあげよう」


 感謝したまえ、と先輩は胸を張ってふふんと勝ち誇ったポーズを取る。カードゲームは一人では楽しめない。対戦相手がいるのは本当にありがたい。 俺は「ははーっ」と殿様に仕える部下のような態度で返した。


「先輩のデッキは一枚一枚のカードが高額だからシャッフルしたくないんすよね」

「ふふふ……それも作戦のうちさ」

「ま、まさか仕込みを⁉ おのれ汚いぞ!」

「ははは! 力こそパワー! 財力こそマネーなのだよ……って、普通に混ぜてるじゃないか! やめるんだ! ショットガンシャッフルはカードを傷つける!」


 マジシャンがカードを混ぜる時に行うシャッフルの振りを見せると月ヶ瀬先輩は某アニメの主人公のような台詞で慌てて止めようとする。

 慌てふためく先輩の姿を見て満足した俺は対戦でも一般的なディールシャッフルとファローシャッフルで先輩のデッキを混ぜて返した。


 正直に言うと横入れのファローシャッフルは内心ドキドキしながらやっている。

 いくらスリーブと呼ばれる保護フィルムでカードが保護されているとはいえ、絶対にカードを傷つけないわけではないからなぁ……


「じゃーんけーんぽん!」

「俺の勝ちっすね、先攻をもらいます」

「君はレディーファーストって言葉を知らないのかい?」

「それを言い出したらじゃんけんの意味なくなりますからね?」


 屁理屈をこねる先輩を無視して俺は対戦の準備を始める。先輩はしょうがないなー、となぜかこちらが悪いようなリアクションを取った。いや、俺何も悪くないよね?


「それで天野君、今日は一体何を賭けるんだい?」

「まるで普段から何かを賭けているかのように言わないでください。 日本で賭博は犯罪ですよ?」

「……は! まさか君は私を負かして、またペットにするつもりか? この変態!」

「過去を捏造するな! 外に声が漏れて誤解されたらどうするんですか」


 先輩は自分の体を抱きかかえるようなポーズを取りながら叫んだ。

 この部室と廊下は扉一で隔てられているだけなので防音性は高くない。校内は教師や生徒で溢れている。もしも誰かに聞かれたら俺は社会的に抹殺されかねない。


「いやー、君は本当に理想的なリアクションをしてくれるから私は楽しいよ」


 舌をだして俺をからかいながら先輩は嬉しそうに笑った。俺は大きなため息を吐く。


「まったく、もし俺が本気で要求してきたらどうするんですか?」

「それはそれで面白そうだけれど、君はそういうのはやらないだろ?」


 ……これは先ほどと同じように俺を冷やかしているのだろうか? それとも信頼されているのだろうか。


「だって君は……オタクで陰キャなカードゲーマー天野君だからね」

「よし決めた。 負けた方が今日一日、この猫耳カチューシャをつけて相手をご主人様呼び」


 どうやら前者のようだった。よろしい、ならば戦争だ。


「お、いいね~。 その罰ゲームは写真撮影あり?」

「勿論」


 男に二言はない。即答した俺の言葉を聞いて先輩は「やったー!」と子供みたいに喜んだ。


 ……なぜ彼女は勝つ前提なのだろう? 実力で言えば俺の方が上なのは部活に入ったこの二ヶ月で証明しているはず。


 これは俺のお気に入り写真フォルダーが増えるな、と下品な笑みを浮かべながら早速対戦を開始した。

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