第8話 国家魔術官試験ー1

 春、今年から小学校に入学する俺は庭で父さんと修行をしていた。

 桜が咲いている我が家の庭は、とんでもなく広い。


「はっ!」

「甘い!」


 俺は父さんに投げ飛ばされた。

 空中でぐるっと回転し、再度突撃、しかし受け止められる。

 相変わらずとんでもない肉体と、戦闘技術だ。たぶん父さんならターミネーターにも勝てる。


「強くなったな、夜虎!」

「そりゃ、もう小学生だからね! いつか父さんも超えて見せるよ」

「はは! 魔力無しの組手なら後10年は、負けるつもりはない!!」


 今は俺と父さんで、魔力一切無しの、組手を行っている。

 魔力を使えば、お互いただでは済まないし、俺の魔力量は父さんを遥かに超えているのでそれでは戦闘技術の修行にならない。


 あの日、四歳の初陣を経て、この世界では強くならなければならないと俺は父さんに修行を申し出た。

 するととても嬉しそうに、父さんは承諾してくれた。

 それから反省するように、仕事の数を減らしていた。


 父さん曰く、家族を守れない奴に国なんて守れないとのこと。

 母さんは嬉しそうにしてたし、俺もありがたい。

 雷属性の俺は、結局のところ肉弾戦の強さが全てで、ならば一番適任の師匠は父さんに決まっている。


 父さんは、前世なら総合格闘技の頂点にでも立っていたんじゃないかと思うほどに、強かった。

 その技術を吸収し、俺もどんどん強くなっている。


 ――気がする。


 なぜなら俺は修行をしてもらう代わりに、ある誓いを父さんと立てたからだ。

 シンとは戦わない。

 もちろん、どうしよもない場面を除くが自分から戦いにいくようなことはしないということ。


 未熟な俺ではいつ死んでもおかしくはない。

 だから国家魔術官の資格を取るまではシンとの戦いは禁止だと言われた。

 俺はそれもそうだと承諾した。


 国家魔術官とはシンと戦う魔術師だが、国家試験を合格し、国に認められた魔術師のこと。

 なんか国家公務員みたいだなと思ったが、そのとおりらしい。

 だから今は力を蓄えている……という感じか。


「パパ! 夜虎! お昼よ! シャワー浴びてきなさーい」


 すると母さんが、お昼だと俺たちを呼ぶ。

 俺と父さんは、一緒にお風呂に入った。

 改めて、思うが我が家は広い。田舎だからというのもあるのかもしれないが、庭なんて運動場かと思うほどだし、お風呂だってここは温泉宿か?

 と思うほど豪華だ。 

 それもそのはず。


 我が家は、魔術師の中でも超が付く名門だった。

 白虎家と呼ばれ古くは平安時代の天才陰陽師、安倍晴明の十二いる家臣の一つだったそうで。


 つまり俺の名前は、白虎夜虎なのだ。虎虎だな。

 他にも同じく十二天将家と呼ばれる魔術師の名門があり、この国を守護している。

 俺はまだ他の家は名前しか知らないし、あったこともないが。


「小学校は楽しみか? 夜虎」

「めちゃくちゃ楽しみ」


 俺はこの村にある唯一の小学校に入学することになっている。

 友達できるかな?


「そうか、お前との修行も今日で一旦おしまいだな。少し寂しくなる」

「え!? でもまだ父さんに勝ってないし……」

「ははは! 小学生に負けたら白虎家当主としてメンツが立たんしな。だが俺も休暇を取り過ぎた。それにもう十分お前は強い。本当に本気を出せば、負ける相手はそうそういないだろう」

「…………そっか」

「母さんを頼むぞ」

「うん!」


 そして俺と父さんはお風呂を出た。

 タオルを巻いて、牛乳を一杯。

 自分の部屋に戻って、服を着る。

 そしてリビングに戻ると。


「夜虎! 小学校入学おめでとう!!」

「おめでとう!!」


 パンパンパン!!


 テンションの高い父さんが、誕生日に付けるようなキラキラした帽子をかぶっていた。

 クラッカーを鳴らしているが、体がデカすぎて違和感がすごい。もはやおちょこみたいだ。

 そしてめちゃくちゃキラキラした目で、俺にプレゼントを渡してきた。


 俺はそれを受け取った。

 

「どうだ! 嬉しいか? 夜虎のために、俺が選んだんだ!」


 それは黒いランドセルだった。

 ピッカピカの一年生だ。うん……そうだよな、だって俺小学生だもん。

 

「わ、わぁぁ! すごく嬉しい!! あ、ありがとう! 父さん!」


 俺は全力で雰囲気を読む力で喜んだ。

 こんなにワクワクして、俺の反応を待っている父さんの前でがっかりはできない。

 すると、父さんが凄く嬉しそうに喜んだ。


「やったぞ、母さん! 夜虎が喜んでくれた!」

「ふふ、父さんったらね。ずっとソワソワしてたのよ。黒がいいかなとか、青がいいかなとかずっと」

「そ、そうなんだ。嬉しいよ、父さん」


 本当にうれしそう。

 ランドセル自体は……色々思うところはあるが、それでも父さんがこんなに喜んでくれると嬉しい。

 俺は愛されている。そして俺はもうそれを素直に受け取れる。


「夜虎が小学校に入ったら、モテモテね。母さん心配だわ……」

「そりゃそうだ。俺とお前の子だ。女の子が放っておかないだろう」

「はは、そんなことないって」

「あら、夜虎。親のひいき目じゃなくても……夜虎はすごくイケメンよ! ママ何度か子役オーディションに応募してぜひって言われているもの」


 なんてことしてるんだ、俺の母さんは。


「あぁ、見ろ! 父さんの待ち受けも夜虎の写真だ。後輩の女性魔術官はみんな絶対にイケメンになると言ってたぞ! 是非紹介してくれって言われたんだ。よくわからんが、ショタ萌えとかいってたぞ。モテモテだな!」


 なんてことしてるんだ、俺の父さんも。というかまだ六歳だぞ。


「もう……恥ずかしいからやめてよ」

「何を言う! 優しくて、強くて、正義感もあって、イケメンの我が息子よ!」

「そうよ! ママ友にもいっつも自慢してるんだから! 世界一かっこいい息子だって」


 俺は恥ずかしくなって、話題を変えることにした。

 机の上にあった書類を見る。

 国家魔術官試験受験票? なんだこれ。


「なにこれ。父さんの?」

「ん? お前が受ける魔術官試験の受験票だぞ」

「え? 僕? いや、国家魔術官試験ってあの最難関って言われる奴でしょ?」

「夜虎なら大丈夫だ! ちなみに受験は今週末、東京で行われるぞ!」

「え? ってことは」

「そうよ、明後日ね! ママとパパ、二人で応援にいくからね! 目指せ、上級魔術官だぁ!!」

「えぇ…………」

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