第3話 俺の属性
◇
「夜虎、おはよう……夜虎!?」
香織は自分の息子が布団の中にいないことに気づく。
慌てて家中を探し回る。
そして、リビングで倒れている我が子を見て顔を真っ青にした。
「いやぁぁぁぁ!! 夜虎! 夜虎!!」
抱きあげる。
「すやぁ……」
「寝てる……だけ? はぁ……もう心配させないで……」
香織は見た。
リビングの床が少し焼け焦げている。
そして、開かれている今日から始める魔術基礎編と書かれた本。
「…………まさか……ね」
◇
我、起床。
するとリビングで久しぶりに帰ってきた両親が喧嘩しているのか、大きな声が聞こえる。
「ほんとよ、あなた!」
「いやしかしな、一歳だぞ?」
「でもあの症状は魔力切れだったわ……無意識に使ってしまったのかも!」
「そんなバカな……言葉を覚えるより先に魔術を覚えるなど聞いたこともない」
「それはほら……あなたと私の子だから……ね?」
「……それもそうだな! 俺達の子だから天才に違いない!」
何かよくわからないが、仲良さそうでよかった。
よく覚えていないが、何かバチッという音と共にすごい吐き気がした。
よし、もう一回試してみよう。
あの感覚だ。お腹の中にある暖かいものを体に巡らせる。
あぁそう。この感じ、いいぞ、いいぞ。あ、でそうだ。
バチッ!!
「だぁ!?」
「夜虎!?」
視界が暗転し、俺はエクストリームおねんねを決めた。
我、起床。
気づけば夜だった。
めちゃくちゃお腹減ったし、体が動かないほどに疲弊している。
それにお腹の下にあった温かい何かも感じない。
それがとても怖かった……まるで深い海を覗いているような、真っ暗な闇に放り出されたような……そんな不安で押しつぶされそうになった。
「夜虎! 起きたのね!」
「だぁ……」
すると、母さんが俺におっぱいをだす。
俺は無意識にそれを吸った。
安心した。
不安がどんどん消えて、体の疲労も消えていく。体に熱が戻っていく。
「だぁ!」
「たくさん飲んでね……夜虎」
俺は栄養を補給するため、めちゃくちゃ飲んだ。
全然足りない。もっと欲しい。
なんだこの飢餓感、今まで感じたことがないほどに腹が減る。
しかもこのおっぱい! 飲めば飲むほど力が湧いてくる。なんだこれ! ミラクルおっぱいか!
そして、たくさん飲んだら、疲れたので俺はまた眠った。
「香織……大丈夫か?」
「……えぇ。でも夜虎ったら私の母乳を通じて私の魔力を補給してるみたい。まだ余裕はあるけど……また同じことが何度も起きたら」
「…………わかった。非常用に、魔力回復薬を買っておく」
「え!? でもあれすごく高いわよ?」
「なに、夜虎のためならいくら払っても構わない。魔力が補給できなければ死んでしまうからな」
「…………ありがとう、あなた」
我、三度目の起床!
深夜、母親の腕の中で目が覚めた。
体力は……うん、回復している。魔力は……うん、回復している。
ママは……うわ、すごいぐったりしてる。
やはり育児は疲れるというからな。手のかからない子だと自負しているが、今はぐっすり眠らせてあげよう。
ということで、俺はもう一度リビングにいった。
よし、本はまだあるな。
俺は昨日、半分読みかけた魔術の本を開く。
いきなり気絶したことについて書かれているかもしれないしな。
えーっとなになに? 体が帯電し、身体能力が向上するのが雷の属性の特徴。
体が熱を帯びて、炎を出す属性、周りを氷結させる氷の属性……ふむふむ。たくさん属性はあるようだな。
他の属性の特徴も読みながら俺は次々とページをめくっていく。するとそこには、俺が今一番知りたかった項目があった。
・魔力切れについて。
どうやら魔力は有限らしい。
いや、そりゃそうだろうが中には空気中の魔力を使用してなんて漫画もあるしな。
そしてその魔力とは、体中を巡っているようだ。
やはり生まれてからずっと感じていた体内を巡るこの温かい何かが魔力なのだろう。
ん?
何か昨日よりも魔力が大きく感じるな。
でも誤差程度で気のせいな気もする……。
本を読み進める。
魔力量は、どうやら遺伝的要素が強く、生まれ持って決まっているらしい。
多少の成長は見られるが三歳までで魔力の器が決まり、そこからの変化は軽微とのこと。
軽微というのは、魔力切れを起こすレベルで魔術を使用すれば、少しだけ器は増加することもあるらしい。
例えとして、筋肉のようなものと書かれていた。
筋肉は、筋トレで痛めつけると、筋肉痛を引き起こす。
そんな状態が何度も続くと、体が次は耐えられるようにと筋肉を増強する。
魔力でもそれが起こるらしい。
だが、大人になってから毎日魔力切れを起こすのは、相当の精神力がいるし、上昇も軽微なためほとんど誰もやらないらしい。
「だぁ」
ここに書かれていることを整理すると、おそらく昨日、俺は魔術を使って魔力切れを起こしたので、魔力の器が大きくなった。
ということだろう。
だがここには、それは軽微と書かれている。
だが、これが軽微? 肌感覚でわかるレベルの増加だぞ。
するとコラムのようなところにこう書かれていた。
四歳までに器は成長する。
もしもその間に魔力切れを起こすことができたなら、魔力は大幅に増加するかもしれない。
ただし大変危険であると同時に、四歳までの子供が魔術を扱うのは難しく、また魔力切れは大変苦しいので子供ができることではない。
なるほど。
「だぁ」
俺は本を最後まで読み切って、部屋に戻った。
母さんはうなだれているので、俺は自分で布団と枕を引っ張っていく。
そして周りに燃えるようなものが何もないことを確認する。
俺の仮説が正しいかはわからないが、魔力が増加する方法があるというのなら試さない手はない。
よし、少し緊張するが俺は目を閉じて昨日と同じように魔力を集める。
そして、気絶しない程度に魔力を放ってみる。
体を巡る熱を感じて、それを手のひらに集中する。
目を凝らして、まっすぐ見る。
そうすればきっと。
「だぁ!」
ドン!!
……これが俺の属性? すげぇ。
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