番外編:麻衣子の観察
歩くセックスシンボル、真咲藤和は、本当によくモテます。
というより、この共学校では別格の扱いで、たまに理不尽だなぁと思いながらも、先輩はずっとこうやって生きてきたんだろうと呆れてしまいます。
「真咲さんっ」
「なーにー?」
「これ! 食べてくれませんか!?」
「え? あ? え?」
先輩が動揺している間に、女の子グループは先輩の手にいくつものラッピングされたものを手渡すと、きゃーきゃー言いながら去って行ってしまった。
多分家庭科で作ったカップケーキか何かだろう。
先輩は手の中のものを胸に抱えて困ったように少し立ち止まると、またどこかに向かって歩き出した。
カップケーキをちゃんと教室に置いてくる辺り、彼女を大切にしてるところが伺える。
あの人も普段ほわほわしてるけど、彼女の事だけはちゃんと考えてるんだよね。
階段を降りて、一年のフロアに行くようです。
「真咲くーん」
「あ? なんですか? 先生」
「あなたこの前の授業いなかったでしょ」
「ああー、あいちゃんと……じゃなくて、体調悪くて保健室で寝てました。ごめんなさい」
「そっか。大丈夫? 成績の事はね、先生に任せてくれたらいいから。ね」
「はぁい。すみません、先生。ありがと」
真咲先輩はにこっと笑って、女の国語の先生を通り過ぎた。
先生はぽーっと顔を赤らめて立ち止まってる始末です。
汚職です。
真咲先輩には人の生き方を破滅に向かわせる美貌があります。
真咲先輩は周りからの浴びるような視線も全く気にしないで、鼻唄まで歌いながら一年の廊下を歩いている。
楽しそうにしている先輩は色気に溢れていて、幸せそうな顔を見るだけで、通り過ぎる人みんなが顔を赤らめている。
先輩がそこにいるだけで影響ははかり知れないのです。
「あいちゃん」
教室の前に立って、あいを呼ぶ。
私の親友、亜衣は、最初こそ怪訝そうな顔をしていたけど、今では溢れるばかりの笑みを先輩に向ける。
そりゃああんな可愛い顔を向けられたら、誰だってときめくに違いない。
先輩は案の定、エンジェルーと情けなく呼びながら、あいが近づいてくるのを待っていた。
「あいちゃんっ」
「どうしたんですかー?」
「会いたくなっただけ」
「ふふ、可愛い」
あいはいつの間にか先輩にほだされたらしい。
今ではずるずると二人だけの世界に入っていて、お互いを優しい目で見つめ合っている。
でも、まさかあの先輩がこんなに一途で、こんなに可愛らしいキャラだったなんて誰も思わなかったに違いない。
元々甘い人ではあったけど、べったりするような人ではなかったし。
「あ、麻衣子。どこ行ってたのー?」
あいが先輩から目線を外して、教室に入り損ねている私に声をかけてくる。
にこっと微笑むと、真咲先輩があいの視線を辿って私に辿り着いた。
「生徒会の先輩に用事があってねー。二年の教室まで行ってたの」
「ああ、そうなんだ。おかえりー」
「はーい。ただいまー」
あいがにこやかに喋ってくれる。
そう。
私は二年の教室まで用事で行っていた途中で、冒頭のお菓子を大量に渡されていた真咲先輩に遭遇したのだった。
真咲先輩は私をじーっと見つめてくる。
ん? なんだろうか。
それにしても、こんなに綺麗な人に見られると、ものすごく居心地が悪い。
自分は欠点だらけな気がして、いたたまれなくなってくる。
あいはよく普通にしてられるよね、見つめ合ったりなんて考えられないんだけど……。
しみやほくろ一つない綺麗な顔。
陶器のように綺麗で、その上に乗っているパーツはそれぞれとても上品に顔を引きたてる。
家族も美しいんだろうなぁ。
「あいちゃんの友達だよね?」
「あ、はい。永井麻衣子って言います」
「まいこちゃん」
「あ、えっと、はい」
私が戸惑っているのに、先輩はじーっとまだ私を見つめたままだ。
あいは先輩の行動に不思議そうに首を傾げてる。
けど、なにかしてくれる素振りはない。
おい、助けてくれ。
この視線に耐えられるほど、私は綺麗じゃないんですよ!
「先輩?」
「あいちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」
私がやっぱり耐えきれなくて問いかけると、先輩は我に返ったようにパチパチと瞬きをしてから、にこっと微笑んでくれた。
それにかぁっと顔が赤くなる私に、あいまで顔が真っ赤に変わって行く。
そりゃそんな風に言われたら嬉しいよね、絶対。
しかも真咲先輩だし。
あいはミーハーな女の子じゃないから、そこまで真咲先輩について騒いでなかったけど、そりゃこんな人に迫られたら誰だって好きになる。
「先輩こそ、あいを大事にしてくれてありがとうございます」
「うん。ありがとう」
先輩が穏やかそうに目じりを下げてそう言う。
この人の柔らかい雰囲気に、あいと幸せな恋愛をしてるんだろうと、私まで笑顔になった。
「じゃあ、麻衣子。ちょっとだけ行ってくるね。多分授業までに戻る」
「えぇーあいちゃん。次サボろうよー」
「無理です! 藤和はサボりすぎなの!」
藤和って呼んでるんだ。へえー。
教室では先輩って呼んでるくせに、ちゃっかり二人で温めてんだね。
私は二人のいちゃつく後ろ姿を見ながら、教室に入った。
「ねえ。あいが先輩に拉致られたんだけどー」
あいの席に座って、必死にプリントを解いているもう一人の親友に笑いかける。
私たち三人組は中学からの大の仲良しだ。
「いやー、あれはもうむりむり。二人の世界っすよ」
「まじで? いやぁ、確かに先輩べた惚れっぽいけどさぁ」
「うーん。でもあいも結構好きっぽいよ、あれ。そんな感じ」
「ひえー。今度真咲先輩に美貌の秘訣聞いてみよっか」
「あれは天然の美貌でしょー」
二人ではぁっとため息をつきながら、あいの幸せそうな姿を思い浮かべて、こっちまで幸せになった。
【完】
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