番外編:君のだめなところ2
みちるがバタバタと廊下を走る。
仕事中の僕の書斎に顔を出して、慌てた顔を見せる。
「なに? どうしたの?」
仕事に集中していた僕も思わず立ち上がって、みちるの顔色を窺う。
「これ! 私のちょっと飲んだ?」
「あ、飲んだ。なに? ダメだった?」
「ダメだよおおおお! これはねぇ! 絶対ダメなやつなの!」
「ご、ごめん。そんなに怒らないでよ。ごめんね、また買ってあげるから」
「もう買えないし。薬局で買う勇気なんて出ないし」
「え? 勇気ってなに。それ見せてごらん。明日買ってくるから」
「むり! 理人さんのデリカシーなしおじさん! ばか!」
「お、おじさん? ちょ、みちるそれは言い過ぎじゃ」
みちるは可愛い顔をぷうっと膨らませて、ハムスターみたいに頬がいっぱいになっている。手に持っているそのサプリのようなものは一体なんなんだろう。
ただの栄養ドリンクと思って飲んだ僕も悪いんだけど、いまいちみちるの言っていることが理解できない。
「みちる、馬鹿にしないから、それ何か教えてくれませんか」
「…………これ、ほうきょ、豊胸、胸……おっきくなるドリンク」
ぽかんと口を開く。
みちるは目の縁まで真っ赤にして、僕をキッと睨んでくる。
よっぽど恥ずかしいんだろう。とてもかわいい。可愛らしすぎてなんていうか、頭を撫でたくなる。
だけど、これは言っておかないといけない。
「みちる。医学では女性の胸の成長はだいたい二十歳までとされていて、まぁそれからは体重の増減やホルモンバランスなどで日々の変化はあったとしても、成長期というものは、」
「…………理人さんのばか!!! 大嫌い!」
パタパタと駆け出して行ったみちるにあっけにとられる。僕は慌てて立ち上がってみちるを追いかけた。
リビングのソファに座ってぶすっとしているみちるの隣に腰掛ける。
「ごめん、みちる。言い過ぎたね」
「理人さんには女の子の気持ちなんてわかんないよ」
「ごめんね。でもなんでそんなもの飲もうと思ったの」
「…………別に?」
「みちる。教えて」
「……恭子さん」
「恭子?」
首を傾げる。
みちるの手をぎゅっと握ると、彼女は怒ったようにそっぽを向いた。
「恭子さん胸おっきいもん。理人さんもどうせそういう人が好きなんでしょ」
「…………えぇ? 僕?」
予想外の答えに目が点になる。
反応の悪い僕に怒ったのか、胸板をバシバシと叩いてくる。
「ごめん、そんな事気にした事ないから。ていうか、みちるであれば何でもいいです」
「…………もっと言ってくれないと嫌」
「うん。みちるが好きですよ」
「もっと」
「僕はみちるが好きなので、みちるの胸も、今のままで何もかも好きです」
「もっと」
「みちるが世界で一番好きだよ」
「うん」
「それ、明日買ってきてあげるから」
「別にもういらない。高いし」
「ふふ、うん。じゃあやめとこう」
「残りだけ飲む」
みちるの機嫌を取るのにはすごく時間がかかる。
みちるは本当に手がかかる。幸せのため息を吐いた。
こうして僕はいつまで経っても仕事が手につかないのだった。
End.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます