片想い連鎖 【完】

大石エリ

男女仲良し五人組

「ちょっ、聞いてよー! 昨日さ、弟の和真が人の部屋のベッドでお菓子食べてんの! 自分の部屋で食べろって感じじゃない!?」

「うるさい事言うなって。お前、弟と仲いいんだからいいじゃん」

「そうそう。美代子はなんだかんだ弟ラブだもんね」

「ち、違うもん! むかつくから言ってんのー!」

「はいはい。それで? 次の授業なんだっけ?」

「次は小山の数学」

「おい、お前ら! 話流すな!」


男女五人。

男三人、女二人。

私、藤野美代子。

県立中川高校二年四組仲良しグループ五人組の一人です。


「よっちゃーん。数学の宿題やるの忘れた。ていうかユージは?」

「ああーあいつはなんかむかつく奴いるからってせっせとそいつの家の周りに打ち上げ花火並べてるらしい」

「何それ。また馬鹿やってんの? それでコージもいないの?」

「うんあいつらセットだからな」

「ほおー仲良しだこと」


私の前の席に、仲良し大親友のしほりん。本名は、えーっと、関口志保。

私の隣に、男子三人の一人、よっちゃん。本名は、西島陽太。

あとの馬鹿二人は、ユージとコージ。

別に兄弟でも双子でもないけど、名前が似ている二人。


ユージは金髪で馬鹿。コージも金髪で馬鹿。よっちゃんは茶髪で馬鹿。いわゆる全員馬鹿。

特にユージは本当に言動行動全てが摩訶不思議で、キテレツで、いつもどっかのネジがゆるんでる。

でも、私たちはそのユージの行動が面白くて、いつも話を聞いては大笑いする。

たまに可能な範囲で馬鹿もする。

コージは、幼なじみのユージを昔からなぜか尊敬している。何でもユージのいいなりだし、ユージをお手本にしている。


あんな意味の分かんないユージを尊敬してるのだから、コージは相当どこかのネジがゆるんでるに違いない。

私たちのグループはユージが派手で学校一目立っているだけで、あとは普通。

クラスの中で言うと、目立ちもしなければ、地味だと馬鹿にされる事もない、中間の。至って普通なグループ。

私はその中の至って普通で、クラスの中でも本当に中の中くらいの存在だろう。

金髪のチャラチャラした変な友達を持っている時点で、普通とは言えないかもしれないけど。

ユージがくじ引きを裏で操作したせいで、仲良しグループで固まった席順の私たち。

居心地はいいし、快適だ。


でも、一つすごくこのクラスで気になる事といえば……。

そう思ったと同時に、前からあの人が歩いてくる。

ふわふわのクリーム色の髪を揺らして。

いつも綺麗に隙なくセットして、絶妙なふわふわ。綺麗な顔にすごく似合っている。

よっちゃんに言わすと、男のくせに……らしいけど、女の子には絶大な人気。

涼しすぎる見た目で、朝から色気をまき散らして歩いている。

ウェーブのかかった柔らかそうな前髪からのぞく少し垂れ気味な瞳。

全てがキラキラしていて、とっても綺麗だ。


百八十センチはある長身でまっすぐ前から歩いてくる。私の横のよっちゃんとの間の列を。私がそれをじっと見ると、彼は私に気付いて上から見下すようにじっと見てくる。

見下すように見てくるくせに、瞳はほのかに細められて、唇はゆるやかに弧を描かせる。

流すように私を見て、微笑みながら私の元を通り過ぎた。

彼の通った後少しして、甘い香りが私とよっちゃんの間を漂う。

甘い甘い彼の香り。

さっきの微笑みを思い浮かべてかぁっと赤くなる私。


今日もかっこいい。好きで仕方ない。

そう思いながら、右に座っているよっちゃんの方を向いて、「消しゴム!」と一言ねだった。

彼はよっちゃんの三つほど後ろの一番最後列の席に座っている。

よっちゃんに消しゴムをねだるふりをして振り返ると、彼が机をガサガサ覗き込んで数学の教科書とノートを出しているのが目に入った。

つむじが見えている時点で、気付かれないようによっちゃんに視線を移す。

よっちゃんはもう宿題に夢中で、黙って机の端に消しゴムを出してくれていた。

お前も宿題忘れてたんかよっ。


「よっちゃん。そんなに私の事が好きかね」


ぽつりとそう言うと、よっちゃんは宿題をしていた手を止めて、こっちを下から睨んで来た。


「お前が書いたんだろうが!  早く消しゴム弁償しやがれ! こんなんじゃ彼女も作れやしねーよ!」


うーん。

よっちゃんの白い四角の消しゴムには、ひらがなでみよこという字。

もちろん私の直筆だ。

別に理由はないけど、面白いから書いただけ。

借りた消しゴムで数学の宿題をカリカリやっていると、後ろの扉から金髪二人が登場する。


「おっす。美代子宿題見せろ!」

「はぁ? 私も今やってんのー」

「じゃあ、しほりん見せて? お願い」

「あんたね、私にだけなんでそんな言い方きついのよっ」

「だって美代子だもんっ」


コージがいつものようにからかってくる。

もう一方のユージは黙って私の隣の席に着くと、きれいな金髪を揺らして私を見た。

金髪に窓から入ってくる日の光が差し込んで、きらきらしてる。綺麗な透明の粒子みたいなのが髪にくっついてるみたいに見える。


学年でも人気なユージ。何をするか分からない危険人物だけど。

十クラスあるうちの学年で、一番人気な私の好きな人と、二番人気のユージ。

どう見ても一番と二番に差がありすぎるように見えるのは私だけ!?

いやだってさ。馬鹿だもん。んで、意味不明だもん。それに俺様で王様だし、危険なことばかりする爆弾のような男だし。

憂いのある王子様みたいな人と一緒の位置に立たないでほしいわ。


「みーこ」


ユージは着いた瞬間から、私をじっと見ていたかと思うと甘えるように私の名前を呼ぶ。

嫌な予感。宿題をやりながらユージの方へと振り向くと、手の平を頬にあてて頬杖をつきながらだるそうに私を見ている。


「なに?」

「眠いから布団ある?ひざかけみたいな物でもいい」

「そんなんないわよ。今何月だと思ってんの?まだ九月だから」


邪険に扱うとユージはそれでも表情を変えずに、私をゆらりと笑いながら見る。


「じゃあ、持ってこい」


ふぅっと息を吐く。

はいって言う馬鹿がどこにいるんだ、おい。


「ないわよ。勝手に寝なさい。てかあんたシャツだけで来るからでしょ。ブレザー着てこいよ」


そう言うと、ユージは自分の制服姿を見て、不服そうにしてからコージに声をかけた。


「ブレザー燃えたんだよ。………おい、コージ! お前のブレザー貸せ」


「え?ああ、うんいいけど」


はぁ? もう意味分かんない。色々意味分かんない。


ブレザーが燃えるわけも分かんないし、コージが何でもかんでも言う事を聞くのもどうかと思うし。余計この中途半端な王様が調子に乗るのよ。

ブレザーが燃えたのは、あの打ち上げ花火をセットしていた事でなんかあったのか。


「あんた、やけどでもしたの?」


寝る体勢に入って、机に伏せているユージに声をかける。

私をチラッと見てにこやかに笑ってから、してないよと嬉しそうに答えた。


「この佐原様がやけどするわけないだろ。馬鹿なみーこ」


また甘えるように口にすると、そのまま本格的な眠りに落ちて行ったみたいだ。


うーん。

こいつはほんとわけが分かんないな。

なんで、コージのブレザーを奪ってぬくぬく寝ようとしてる馬鹿を、目をハートにして見る必要があるんだ、女子たち。

本当の王子さまはこんなに横暴でも馬鹿でもない。

慎ましやかで、儚げで、吹いたら消えてしまいそうな人なのよ。

例えば、あの人みたいな……。

後ろを振り返ると、愛しの人は、宿題は済ませてきていたのか、隣の男友達と仲良さそうに喋っている。


春川伊織くん。

みんなの王子様。かっこよくて素敵で、勉強も出来て、スマート。私が後ろを向いている事に気付いたのか、男友達と会話をしながらピラピラと右手を振ってきた。


伊織くん! それは殺人的!!

顔をかぁっと赤くして前を向いてから、よっちゃんに「消しゴム!」と大きな声でねだった。

こんなんじゃ、消しゴム=照れ隠しだとバレる未来もそう遠くないだろう。


「美代子ー。今日帰りカラオケ行かない?」

「うんいいよ」


前の席のしほりんが振りかえって声をかけてくる。

それに快く頷くと、しほりんの隣のコージが目ざとくそれを聞きつけて、ぐいぐい割り込んでくる。


「俺も行く!」

「えぇー」

コージに文句を付けると、「美代子は黙ってろ!」と冷たくあしらわれた。そう、コージはしほりんの事が好き。一回振られてるのにまだ諦める気はないらしい。馬鹿な奴。


今日も結局五人でカラオケに行く事になるんだろうなと思いながら、教卓に目を向けた。


もう数学の小山が来ていた。

カラオケって………ユージとコージがまた意味分かんない事しでかしそうだし嫌だなぁ。

今のうちに体力温存だと思って、必死に宿題をやってきたくせに、ユージと同じように机に伏せた。

寝心地悪いけど仕方ない。

この木の机と椅子で、それでも眠気が襲ってくるんだから、先生の授業はすごいと思う。

こんな寝心地が悪いのにチャイムが鳴るまで平気でよだれ垂らして眠れるんだから。


うとうととなっていたのに、いきなりブレザーのポケットに入れていた携帯がブルブルと震える。

それにビクッとなって体を起こして、机の下でこっそり携帯を見る。

新着お知らせには「伊織くん」の文字。しかもメッセージじゃなくて電話?

え!? なんで!?後ろにいるのに!?

びっくりして、後ろを振り向くと、その瞬間手の中の震えはおさまった。


伊織くんは頬杖をつきながら私を見ていて、さっきと同じように右手をひらひらと振ってくる。

それに照れながらにこっと笑いかけると、伊織くんはさらにふんわりとした笑顔で私を殺した。


な、なになになに、あれ!!

どういう意味で電話したの!? どういう理由で授業中に至近距離で電話したの!? 

意味分かんないのに、超心臓ドキドキしてるし、なんかすっごい恥ずかしい。

バッと前を向いて、よっちゃんに「消しゴム!」と叫んだ。


「おい、藤野ー。大声出すな」

数学の小山に怒られた。


よっちゃんは呆れた顔で、私に消しゴムを手渡して、お前どんだけ字間違えるんだよと罵って見せた。それにべーっと舌を出して対抗する。

逆隣りのユージは私の叫び声で目を覚まして、私の頭をゆるく叩いてくる。


「みーこ。うるさい」

「はい、ごめんなさい」


謝ると満足したのか、また机に吸い込まれていったユージ。

そこでまた携帯の震えがやってきて、思わず携帯を見るとまたもや「伊織くん」の文字。

今度はメッセージだったみたいだ。


-------------------

消しゴム忘れたなら後で貸してあげるよ

二個あるから

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絵文字も何もないそのメッセージに胸がきゅうっと締め付けられる。

数学の授業をしてる教室で、席だってそんなに遠くないのに、こんな秘密のやりとりみたいな。


秘密の電波の通信ってか。胸を撃ち抜かれちゃうじゃないか。これで好きにならないって人がいたら見てみたい。

私はとうとう誰にも消しゴムを本当は持っていたなんて言い出せなくて、こっそりブレザーのポケットに隠した。

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