キャラメル×ブラック 【完】
大石エリ
マルゴ毎日集合条約
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
好きになることが
色んな人を傷つけるなら、
どうしたらいいのかな。
詩織
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
同じマンションに住む四人と隣の大きなお家に住む男の子の物語。
幼なじみ五人の私たち。
「毎日十三時にここしゅうごーね!」
「うんっそうするー!!」
「俺は忙しいから毎日来れねぇかんな!」
「えぇーたくみがいないとやだもん」
「詩織にはぼくがいるだろっ」
春香、夏樹、巧、詩織、涼。
まだ私たちが五歳の時に決まった口約束。
毎日13時に、マルゴ集合。
それが大きくなるにつれて、17時になり、19時になり、最終的に21時になった。
形を変えながら、11年経った今もこの約束は続いている。
――――…
――…
「巧!! 遊びに来たの? 今日は銀竜行かなかったの?」
「しお、まだここいんの。危ないから早く帰れ。送ってってやろうか?」
「お兄ちゃんがもうちょっとで来るもん。今ジュース買いに行ってるだけだから」
「お前は涼が好きだな。涼はどうせ春香といちゃついてんだろ。ほらっ送ってやるから」
「えぇーやだーせっかく巧来たんだしお話しようよ」
「素直にしねぇとちゅうすんぞ」
「…………」
「ほらっ嫌だったら帰る」
巧。
巧はもう忘れちゃった?
11年前のあの約束。
―――――…
―――…
11年前の105号室。
いつものように、5人で遊んでいたの。
「私ね、お兄ちゃんと結婚しゅるー」
「詩織。詩織は俺の妹だから無理だろ」
「じゃあ僕が詩織と結婚するよ」
「俺、ナツキは認めないよ!」
「えぇーじゃあ私結婚できないよぉ」
「じゃあこうしたらいいじゃん。詩織耳貸して」
「うんうん。そうするー! あのね、私と初めてちゅーした人と結婚する!」
“私と初めてちゅーした人と結婚する”
お兄ちゃんが軽はずみで提案したこの言葉を、巧は覚えているのだろうか。
口癖のように、“ちゅーすんぞ”という巧は、私の言った言葉を覚えているのだろうか。
巧に送ってもらって、部屋に着いた。
送ってもらうと言っても、住んでいるマンションの空き部屋だった105号室のたまり場から、306号室に帰るだけなんだけど。
でも、エレベーターならすぐに終わっちゃうから、階段で上がろうとおねだりしてしまう私の頭をぽんっと撫でて、言う通りにしてくれた。
「ただいまー」
「あっ詩織おかえり! 涼は?」
「もうちょっとで帰ってくると思う。巧が送ってくれたから先に帰ってきちゃった」
「お風呂入るでしょ? 沸かしてあるよ」
「ママはお風呂入ったの?」
「パパと入ったよー」
「もういつまで2人で入るのぉ? 別にいいけどさぁ」
ママと会話を終えて、お風呂に入る。
ママとパパってどれだけ仲いいんだか。
まだ37歳だし、すっごく若いんだけどね。
お兄ちゃんもうすぐ帰ってくるかな。
お兄ちゃんはお隣に住んでる春香と付き合ってる。
それと春香のお兄ちゃんの夏樹。
春香のパパはヨースケさんって言って、ヨースケおじさんの家とは家族ぐるみの仲よしで、パパとママの昔からの友達らしい。
お兄ちゃんは春香と付き合って、もう2年になる。
まさか私たち幼なじみ5人組からカップルが出るなんて、想像もしなかった。
私とお兄ちゃんと春香とナツくんと巧の5人。
でも、巧はこのマンションの住人じゃない。
お隣にそびえたつ川崎家の長男。
裏社会を大きく取り締まる黒竜会の跡取り息子。
そして、私と巧はいとこだ。
黒竜会の持ちマンションのここに、パパもヨースケおじさんも住んでいる。
ママも合わせて、みんな学生時代からの大の仲良しらしい。
私たちも大人になっても、仲良しでいられるのかな。
仲良しでいられたら嬉しい。
嬉しいんだけど、私は最近それだけじゃ我慢できないの。
巧が好きで、好きで、そのうち気持ちが溢れそうだと思うくらい。
巧の気持ちが分からなくて、毎日喜んだり、落ち込んだりの繰り返し。
それが幸せな時もあるけど、やっぱり悲しい時の方が多いの。
だって、巧は……。
そんな事を考えながら、長い時間お風呂に入って出ると、お兄ちゃんが帰ってきていた。
「おかえりお兄ちゃん」
「詩織! お前マルゴにいなかったら心配したんだからな」
マルゴはあの105号室の事。
私たちが小さい頃からマルゴって呼んでいる秘密基地。
巧のパパの持ちマンションだから、私たちが外で遊んでいるのが危ないと親同士が話し合って、遊ぶ場所を与えてくれた。
それぞれ合鍵を持っていて、自由に出入りできるようになっている、宝の部屋。
テレビと、テーブルとソファと遊び道具のたくさんつまっている部屋で、毎日訪れる部屋。
「ごめんね。巧が来て送ってくれるって言うから先帰っちゃった」
「また巧かよ。巧はやめとけってずっと言ってんだろ」
「分かってるけど、好きなんだから仕方ないじゃん……」
「俺は詩織の事心配してんのに」
お兄ちゃんは巧と同じ高校3年生。
ナツくんも高3で、3人は私たちの通っている高校、源学園のアイドル的存在。
何でみんなそんなにかっこいいのか分からないけど、多分パパとママが美形ばっかだからかな。
私と春香は高校1年生で、もちろん源学園。
マンション名がブラックパレスだからか、3人はまとめてブラックと呼ばれ、もてはやされている。
そんなブラックの妹というだけあって、私たちも学校では噂の対象になったり、声をかけられる事も多い。
それに巧は、銀竜総長だから。
銀竜はパパの時代から続く、この辺一帯を不動の地位で治め続ける最強の暴走族チーム。
その16代目総長の巧は、それはもう大人気。
お兄ちゃんもナツくんも銀竜幹部だから、同じくらい人気あるんだけど。
強いし、悪いし、かっこいいと来たら、誰でもモテるのかもしれない。
でも、お兄ちゃんが、巧を好きになることに反対しているのは銀竜総長だからじゃないんだ。
私は、その理由を痛いくらいに知っている。
「詩織。どうした涼にいじめられたか」
パパが私の頭を柔らかく撫でて、座っているソファの隣に腰かける。
「巧の事好きになるなって……」
「涼はお前が可愛いから心配してんだ」
「それは分かってる。分かってるけど、好きなのをやめる事なんてできないんだもん」
「そうだな。好きなもんは好きって言えばいい。けど、危ねぇ事には首突っ込むなよ」
「いつもお兄ちゃんかナツくんが一緒にいてくれるから大丈夫だよ」
「お前は可愛いから心配だよ」
「パパが親バカなんだよぉ」
パパと2人でお喋りする。
ママはヨースケパパの家に醤油を借りに行っているらしく、なかなか帰ってこない。
多分、みゆきママと長話でもしてるんだろう。
みゆきママはヨースケパパの奥さんで、いつもふわふわしてて可愛いの。
いつもお菓子を作ってるから、ママと一緒にお呼ばれする事も多い。
パパと少しの間喋り終えて、部屋に入る。
薄ピンク色のベッドに潜り込んで、眠りにつく。
明日も学校だし、寝なきゃ。
眠りにつくと、また幼い頃の夢を見た。
小さい頃から巧が好きで、鬼ごっこをすると、いつも決まって巧を追いかけた。
追いかけて、走り続けるけど、巧にはいつだって追い付けなくて、焦った私はこけてしまうの。
こけて泣いてしまう私の手を取ってくれるのは、いつだって、涼とナツくんで。
巧はいなくなっていたのに、後で私の元やって来て、ばんそうこうを私のポケットに忍ばせてくれるの。
ばんそうこうを持ってくるために、家まで走って帰ったんだろう巧の髪の毛はぴょんと跳ねていて、私はそれを見てくすくす笑う。
巧はそんな私を、髪の毛をくしゃっと揉むように撫でてくれる。
そんな夢だった。
幼い頃、こんな事があったような気がする。
いつだって、巧はかっこよくて、優しくて、ずるくて、大人で。
2つの歳の差が山のように見えた。
とても超える事のできない壁のように思えた。
高校1年生と高校3年生になった今も、子供扱いなのは変わらなくて、それが無性に虚しくなる。
もし、1週間でも巧の彼女になれたなら、その場で死んでもいいと思える。
それくらい好きだ。
そんな事を夢の中でも考えるくらい、私は巧しか見えてない。
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