第1章〜彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず〜⑧
9月4日(木)
男子バスケ部の主要メンバーの一人だった
シューティングガードというポジションで活躍し、精度の高いロングシュートとスピードのあるドリブルが持ち味だった仲尾は、全国大会に出場したバスケ部にとって、無くてはならない存在だったハズなんだけど……。
同じ2年生とは言え、クラスが違う生徒なので、仲尾本人がどうしているのか、詳しいことはわからないけれど、どうやら、この日は学校を欠席しているらしい。
休み時間になると、仲尾のウワサを耳にしたトシオが、僕にこっそりと話しかけてきた。
「例の投稿フォームの告発文書、オレは仲尾が送り主なんじゃないかと思ってるんだ」
「どうして? 根拠はあるの?」
僕が問い返すと、親友は、さらに声を潜めて答える。
「あの告発文に、練習用のボールに関する内容があったのを覚えているか?」
「え〜と、たしか、『これまで汗で滑りにくかった練習用のボールが、低価格で滑りやすいA社のボールに変わって、部員の不満がたまっている』みたいな内容だったっけ?」
それが、どうしたの? という表情で僕が答えを返すと、スポーツ全般について詳しいトシオは、こんな自説を披露した。
「汗で滑りやすいボールを使わされるのは、ドリブルで切り込むペネトレイションや、ロングシュートを得意とする選手にとって、プレイしにくいことこの上ないんだ。『部員の不満がたまっている』ってのは、告発者本人の心の叫びだったんじゃないかと思ってな……」
そうなのか……選手のプレースタイルとボールとの相性が関係あるなんて考えつかなかったけど、トシオが語った内容には、説得力があるように感じられた。
「そう言うことなら、色んな方面に取材が必要かもね」
僕の言葉に親友もうなずき、放送・新聞部の活動方針が決まったと思ったんだけど……。
その日の放課後、なんと、バスケ部副部長の
「これから、バスケ部部員の緊急退部に関する説明をする」
という理由で、僕たちに、その模様を取材するように申し込んできた。
「一方的にバスケ部の事情を説明するだけなら、取材をすることは出来ない。僕ら放送・新聞部にも十分に質問する時間があるなら、申し入れを受けても良い」
と条件を出すと、彼はこちらの申し出を渋々と受け入れた。
こうして、
以下は、
――――――男子バスケットボール部の中心選手が退部したのは本当か?
「彼は、一身上の都合により、昨日(3日)付けで退部届を提出し、石塚部長が受け取った」
――――――退部の理由は?
「その部員は、部長や副部長をはじめ、男子バスケ部の責任者を誹謗中傷するような怪文書をクラブ連盟や校内のいじめ対策委員会に送りつけた。男子バスケ部としては、これを見過ごせない行為として、本人と話し合った結果、退部することになった」
――――――クラブ連盟や、いじめ対策委員会への通報は匿名で行える。男子バスケ部の部内での通報者探しがあったのではないか?
「その質問には、答えられない」
――――――もし、通報者探しが行われていたのであれば、ハラスメント行為に相当する。クラブ連盟や、いじめ対策委員会から、男子バスケ部が調査を受ける可能性もあるが?
「可能性の問題には答えられない。男子バスケットボール部としては、適切に対応をしている」
――――――今後、クラブ連盟や、いじめ対策委員会から通報者本人もしくは、男子バスケ部の責任者に対して事情聴取が行われると考えられるが?
「可能性の問題には答えられない。今後も、男子バスケットボール部として、各機関の要請に適切に対応していく」
――――――男子バスケ部の責任者を誹謗中傷するような文書とのことだが、具体的な内容は?
「プライバシーに関わることなので、答えることはできない」
――――――男子バスケ部の責任者は、どのようにして、機密性の高い通報内容を知ったのか?
「部内の共有パソコンから履歴を割り出して、怪文書の内容を把握した」
――――――通報文書は、男子バスケ部の共有パソコンから送信されたものなのか?
「部内の機密情報については、答えられない」
――――――共有パソコンの調査を行ったのは、誰なのか?
「石塚部長の指示のもと、自分(荏原副部長)が行った」
――――――通報された内容には、夏休み期間中に行われた凱旋パレードに関する記述や、部内イジメの問題、一部の部員が業者から物品を受け取っているという内容の記述もあるようだが?
「個別の内容については、答えられない。男子バスケットボール部としては、その内容に真実性はないと結論づけている」
以上が、荏原副部長が行った会見内容を抜粋したものだ。
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