第7話 褒美
佐藤さんという男性が、不思議な話を聞かせてくれた。
ぼくが中学一年生のとき、八十一歳のじいちゃんが転倒して尾てい骨を骨折した。歩けない、寝たきりの生活。長期の入院だから、しだいに頭がはっきりしなくなってくる。
こんこんと寝ているか、起きていても、病室の天井をぼーっと見上げるばかり。家族が声をかけても、無反応。心ここにあらずの状態。
ああ、うちのじいちゃん、ボケちゃったんだって、すごく悲しかった。
ぼくが見舞いに行ったら、眠っているじいちゃんの耳からうにょうにょした糸みたいなものが出てた。風にそよいで、ぐねぐね
半透明で、寄生虫っぽい。ほら、シャボン玉やガソリンって、虹色に光るでしょう。あんなふうにてらてら妖しく輝いていたんだ。
うげぇ、なんだこれ気持ち悪い、早くじいちゃんを助けなきゃと思って、ぼくはソレを引っこ抜いた。
ちょっと湿ってて、人肌くらいのぬくもり。ぼくの手のひらの上で、ソレはのたうち回った。
ぼくはすぐさま、ソレを踏みつけて、窓の外に放り捨てた。
すると、じいちゃんの容体が急変して、死んでしまった。
そういえば、じいちゃんは子どものころ、川で溺れて一命を取り止めたらしい。
川底に沈んでいたところを河童に捕まえられたって。それで、河童と相撲を取って、勝ったらしいよ。
褒美に
酔っぱらうと、いつもその話をしていたんだ。ほら話だって、みんなまともに聞いていなかったけど。
尻子玉っていうのは、架空の臓器なんだってね。確か、人間の肛門にあって、それを河童が引っこ抜くって考えられていたんじゃなかったかな?
じいちゃん……河童に尻子玉をもらったって喜んでいたけど。一つの体に、二つの尻子玉を収めて、大丈夫だったんだろうか?
河童って親しみやすい印象だけど、妖怪でしょう。信じてもいいのかなぁ。本当に、褒美だったのかな。
もしかして、ぼくが引っこ抜いて踏みつけたアレが、尻子玉?
じいちゃん、転んでケツを強打したから。びっくりして、尻子玉が飛び出ちゃった?
──実は、じいちゃんは川で溺れたときに、すでに死んでいたとしたら?
魂が抜けた死体を、河童が尻子玉で操っていたのだとしたら?
うちのじいちゃんは普通の人間だったんだろうか……半分、河童みたいなものじゃない?
じいちゃんはきゅうり農家だったんだけど、あれも伏線だったのかな?
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