第6話

「今日は俺も仕事が休みなんだ。紫音さえ良ければデートに行かないか?」

「デートですか?」


 久しぶりに隼人さんからデートのお誘いだ。凄く嬉しい。断る理由なんてない。一緒に住むようになり、いつしか隼人さんのことを私は好きになっていた。年頃の男女が一つ屋根の下なんだから無理もないよね。


 それに隼人さんは公孝と違って暴力で私を支配したりしない。常に私の意思を尊重してくれる。私が一人でダンスの練習を夜中までしていたら私の体調を心配して止めたりもしてくれた。公孝は常に自己中心的で私のことなんか気にかけてもくれなかった。


「俺主催のパーティーは一週間後だ。そのときに紫音を俺の嫁として紹介する。紫音に手を上げていたクズと会社でイジメを行っていた連中にはすでに招待状を送ってある」

「来てくれるんでしょうか? わざわざ私をイジメに来るとは思わないんですが……」


「だからこそ俺が主催者なんだ。神宮寺グループからパーティーの招待状が来れば、普通は食いつくだろ? 美味しい飯が食えるとか俺と人脈を作ろうっていう馬鹿な連中がな」

「隼人さんと関係を持ってほしくないです」


 私はむぅっと頬を膨らませた。隼人さんは仮とはいえ私の恋人なのに。他の女性に取られたくない。ましてや私をイジメてきた女性なんかに。


「俺は紫音しか見えてない。それに仮の恋人や仮の嫁じゃなくて本当の嫁として俺と結婚してもいいんだぞ」

「それはダメですっ!」


「ははっ。そこだけは相変わらずガードが硬いんだな。まっ、パーティーで紹介するときは本物の嫁ぽっく振舞ってくれよ?」

「もちろんです。隼人さんの顔に泥を塗るわけにはいきませんので」


 これは私の復讐だ。決して私一人じゃ実行不可能だった復讐。それの手伝いをしてもらっているのにここで本当に私を嫁に迎えるなんて、そんなこと絶対にしてはいけない。

 隼人さんの幸せを願うなら、隼人さんが本当に好きな人と結婚するべきだ。この復讐が終われば、私は普通の生活に戻るつもりだ。


 公孝とは別れているし、お金の心配はいらない。会社員で入った市役所も悪いウワサが流れた今じゃ居づらいし、別の会社を探そう。正社員じゃなくても一人ならバイトだっていい。これ以上、隼人さんの重荷になってはいけない。


「今日は普段ダンス練習や座学を頑張った褒美にプールでも行こう。なっ?」

「プ、プール!?」


 ってことは水着だよね……。背中に大きく残った古傷、隼人さんに見られるの嫌だな。

 さすがの隼人さんでもあれを見たら引いてしまう。けど、パーティーだってドレスを着ることになるんだから、ここで慣れておかないと駄目だよね。

 私は覚悟を決め、隼人さんとプールデートに行くこととなった。

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