第4話

「俺は神宮寺グループの息子。テレビとかネットで神宮寺誠二の名前を見たことないか?」

「神宮寺……誠二!?」


「お、その反応だとさすがのお前でも知ってるみたいだな」

「知ってるもなにも有名な方じゃないですか」


 神宮寺さんの正体は御曹司だった。だからスーツもオーダーメイドってくらい高そうで、高級時計も身に付けていて、極めつけはロールスロイス。


 私はそんな凄い人の家に今日からお世話になるっていうの? 本当に私なんかでいいの? これは自虐なんかではなく、神宮寺さん相手なら誰しもが思うことだろう。


 神宮寺グループといえば、高級マンションやタワマンをいくつも所有しており、ホテル経営をしている。どのホテルも私みたいな庶民は泊まれないけど、高級なだけあって接客も料理もお部屋、どれを取っても完璧で、料理は五年連続でミシュラン最高峰の星三だ。


 最近では、別荘に長期間滞在する人向けに神宮寺グループのサイトから別荘を予約出来るサイトが新たに追加されていた。当然といえば当然だけど私みたいな庶民が気軽に泊まれる値段ではないけれど。


 でも一度でいいから神宮寺グループが経営するホテルには泊まってみたいと思っていた矢先、まさか神宮寺グループの御曹司と同棲することになるなんて……!


「着いたぜ。ここが俺たちが今日から住む家だ」

「お、お世話になります」

「緊張しなくていい。どうせ俺も日中は仕事で家にはいねぇし」


 そうは言っても、神宮寺さんが御曹司って聞いたら嫌でも緊張してしまう。そして、私が案内されたのはタワマンの最上階。窓はガラス張りで外の景色がよく見える。


これが神宮寺さんがいつも見ている景色? 本当に私とは別世界で生きている人だ。


「お前の仕事先にはここにいる秘書を使え。頼めば送り迎えをしてくれる。土地勘もわからないだろうから迷子になるだろ?」

「そこまでしてもらうわけには……」


 秘書さんは神宮寺さんの秘書さんであって私のお世話係じゃない。ただでさえ家にお世話になるのにこれ以上のことを頼むわけにはいかない。


「それは俺とお前が他人だからか?」

「へ?」


「だったら俺の恋人になれよ」

「えぇ!?」


「仮でもいいさ。そしたら仕事先にも前の同居人にも復讐出来るだろ」

「前の、同居人……」


 そうだ。スマホの電源を切っていたから忘れていたけど、公孝から返事来たかな?

 恐る恐る電源をオンにした。するとピコンピコン!と音がなり、そこには大量のメッセージが来ていた。


『死ぬなら誰にも見つからないところで死んでろ!』

『俺を一人にしたこと、ぜってぇ許さねぇ!』


『庶民のお前なんか、こっちから願い下げだ!』

『俺が振ったんだからな! お前は可哀想な女! 負け犬!』


「っ……」


 死ぬなんて一言もメッセージには書かなかったのにどうしてバレているの? いや、そんなことよりも公孝は私が死んでも何も思わないってことだよね?


 お金だって十分すぎるくらい渡してきたよ。毎日食べるものに困るくらいあげたよ。ボーナスでコンビニのスイーツを買おうとしたよ。でも、それも許されずボーナスも全て公孝に奪われた。


 風俗やキャバクラ通いは当たり前。私には無駄遣いするなとか家にいろとか言うのにね? ギャンブルだって毎日してるよね。危ない人と繋がって危険なお金に手を出してるよね? 保証人を私にしようとしてるの知ってるよ。


 全部知ってて黙ってた。私は公孝に殴られても公孝がいつか昔みたいに戻ってくれると思ったから。だからどんなに辛いことも我慢できた。たとえ好きと言われなくても。キスはおろか手すら繋いだ記憶はないけれど。公孝が優しかったのなんてほんの一瞬。


 あれは最初から私を騙すために作っていた笑顔? フラれたことに腹なんて立たない。公孝の本音は全部メッセージを通してわかったから。


もうあんな家には二度と戻らない。公孝にだって会いたくない。

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