第22話 ごめんなさい ②
『朔くんが、私を信じてネットで苦しんでいることを教えてくれたこと。
朔くんが風邪引いちゃった時、私と椿さんが作った雑炊を、美味しそうに食べてくれたこと。
初詣の時、驚いた私を抱きしめて、大丈夫だって言ってくれたこと。
私との約束を破らないように、自殺を踏みとどまってくれたこと。
全部全部嬉しくて、良い思い出になったよ。』
完全に自分の結末を受け入れているのが分かる文。
そう簡単に諦められるはずないのだから、唯鈴は今までたくさん闘ってきたのだろう。
俺が生きているのだからそれで十分と思う反面、まだ生きたいと思ったはずだ。
『それと、朔くんが私のこと好きって言ってくれたことも、すごく嬉しかった』
「じゃあ、なんで……」
その問いは自分で分かっているけど、唯鈴からちゃんと聞きたかった。
『じゃあなんで何も答えなかったのか、って思うよね。それはね、朔くんに悲しんで欲しくなかったから。
私はいなくなっちゃうから、彼女が死ぬよりも、友達が死ぬほうがまだ楽でしょ?
最低なこと言ってるのは分かってる。
でもこうでもしないと、私、未練しかないまま死んじゃうよ。
そんなの嫌。
だから、結局は自分の辛さを和らげるため。
ごめんね、自分勝手で。
こんなこと言ってるのに、私、朔くんのお嫁さんになりたいの。
矛盾してるって思うよね。
でも、望むことは自由じゃない?
だからもし、この手紙を渡す前、朔くんに弱音を吐いちゃってたなら、許して欲しい。』
ああ言った、唯鈴は俺のお嫁さんになりたいって言った。
それを許せって?
許すも何も、俺だってそれを望んでるよ……っ
そう思いながら手紙を読み進めていくと、“わがまま”という字が見えてくる。
『なんて言ってるけど、今からわがままを言ってもいいかな?』
やっと、やっとだ。
何を言ったっていいと、むしろ俺の心をズタズタに切り刻んでほしいとすら思う。
でも唯鈴が、手紙にそんなことを書くはずがなくて。
いや、手紙じゃなかったとしても、そんなこと言ってこないだろう。
『私ね、本当はずっと死にたくないって思ってた。
ねぇ朔くん。
私、死にたくないよ。』
唯鈴が本心を言ってくれたことに安心する。
と同時に、その文が書いてあるメッセージカードの隅の方が、不自然にふやけているのを発見する。
っこの手紙を書きながら、泣いたのか……っ
俺が自分のことで精一杯の時、唯鈴が部屋で1人泣きながらこの手紙を書いていたのかと思うと、胸が痛んで仕方がない。
でもそれだって全部、俺のせいなのだから自業自得だ。
唯鈴がこうなったのは、俺のせい。
恋とは、むず痒く幸せで、残酷なもの。
そんな恋を俺たちがしなければ。
まだ幼かったあの頃、お互いに惹かれていなければ、こうはならなかったのかもしれない。
だから。
「俺を好きにさせてしまって……君を好きになってしまって、ごめんなさい……っ」
散々泣いた後の痛む喉で、なんとか声に出せた謝罪。
それでも酷い声だとは思うけど、君に届くようにと願いながら。
その時、眠っているはずの唯鈴の瞳から、一筋の涙が流れた。
「いすずっ……?」
声をかけても返事はない。
目覚めたわけではなさそうだ。
でもその姿は、『私が代わりに泣くから、泣かないで』と言ってくれているようで、少し心が軽くなる。
それに伴い、俺の視線は必然と手紙へ戻される。
『おばあちゃんとおじいちゃんになっちゃう時まで、ずっとずっと朔くんといたい。
だけどそれは、叶いそうにないね。
てことで、何を言ったって変わらないんだから、わがままを言うのはここでおしまい!
私のわがままを聞いてくれて、ありがとう。
それと、昴くん、明那ちゃん、真琴くん、椿さんには、ありがとうとごめんなさいを伝えて欲しいの。
お願いできるかな?
嫌だったら全然いいんだけどね。
怖くて直接言えなかった私が悪いんだから。
それに、こんなことを朔くんにお願いするのも、辛いことを押し付けてるのと同じだって分かるんだけど、大切な人たちだから。
朔くんを好きな人だとすると、昴くんたちは初めて出来た友達なの。
そして椿さんは、私に親の愛を教えてくれた。
もちろん、紘さんも。
だから、やっぱりお礼は言いたんだ。
優しい朔くんのことだから、きっと言ってくれると思う!なんて。』
唯鈴に代わってお礼を言うのは、唯鈴の思ってる通り辛いよ。
でも、俺が唯鈴の頼みを聞いてやれる立場にいることが、その辛さを消し去ってしまうくらい、俺にとっては嬉しいことで。
それに何より、唯鈴に頼まれて、俺が断れる訳ないだろ?
ほんと、しょうがない奴だなぁ……
世話がかかるけど可愛らしい唯鈴の性格が見えて、少し、本当に少しだけ、笑みがこぼれた。
でも、そんな俺と反して手紙は残り1枚となる。
書かれていることから、別れが近いことが伝わってくる。
『私は多分、今日のの0時直前に消えちゃうと思う。
だからその時は、私の手を握って欲しいの。
私がこの世界から消えちゃう時朔くんと触れあっていれるなら、本来よりも100倍は幸せなお別れだと思うから!!!
最後に朔くん、今まで本当にありがとう。
両思いなのに付き合わないまま終わっちゃうことになるけど、それでも私は幸せだった!
命を捧げた相手が朔くんで、本当に良かった。
朔くん、大好きだよ!!!
そして、さようなら。
唯鈴より』
最後の1枚を読み始めて、段々と俺の顔から綻びが消えていった。
そして読み終えた今、俺の顔はぐしゃぐしゃだ。
手紙を濡らさないようにと一度近くの棚に置くと、止まることを知らぬ勢いで大粒の涙が流れ始めた。
手紙で愛の言葉をもらったって、唯鈴が帰って来ないのなら苦しみが増す原因となるだけだ。
やはり、恋に落ちてしまったことが間違いだったのだ。
唯鈴は俺に一目惚れをしたと手紙に書いていたが、多分、俺も唯鈴と同じだ。
だって、この手紙によって思い出されたあの頃の君は、記憶の中ですら眩しく輝いているから。
つまり、出会ったその時から、この恋が悲恋に終わることは決まっていたのだ。
君を好きになってしまって、ごめんなさい。
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