前日まで

第6話

ワンダーフォーゲルサークル、通称ワンゲルといえばいわゆる登山サークルだけど、うちの大学では実質飲み会サークルのようなものだ。



それでも三年前までは時々山に行ったりしていたみたいだけど、春馬が入部してからはガラッと変わってしまった。



春馬は、日本一といわれる大財閥の御曹司だ。



お父さんが多額の寄付をしているとかで、一年の頃から大学では特別扱いされていた。



そういう環境で幼稚舎の頃からずっとやってきたから、春馬の性格がわがままで身勝手になってしまったのは仕方のないことだと思う。



「山なんて登って、何になるんすか? もっと、パーッと青春を楽しみましょうよ」



そんな春馬の理不尽で軽い発言も、大財閥の御曹司という肩書がある以上、先輩たちを黙らせるのには充分だった。



春馬のお父さんを怒らせたら、就職活動が難航するどころか、一生まともな企業では働けないかもしれない。



結果として純粋に登山がしたくてワンゲルに入っていた先輩たちは、皆退部してしまった。



そして春馬は一年にしてワンゲルの部長になり、ワンゲルとは名ばかりのあやふやなサークルを我が物顔で仕切り始めた。

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